物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『イノセント15』感想 思春期の様々な思いを鮮やかに描ききった1作

カエルくん(以下カエル)

「いきなり衝撃のスタートだけど、今回は初の試みで、2作同時レビューをしてみようと思ったんだけど……やはり語ることが多くて断念してしました!」

 

ブログ主(以下主

「不思議なことに、本当に偶然、同じ映画館でやっていたから……というだけなんだけれど、物語が繋がることってたまにあるんだよね」

 

カエル「名画座とかならリンクするように映画2作を組み合わせるだろうけれど、この作品はそういう意図はないだろうしね。もしかしたらあの日のアップリンクでも『イノセント15』『無垢の祈り』を連続で見た人って他にいないかもしれないし」

主「いてもおかしくはないけれど……

 この2作は描きたいことは似ているけれど、そのアプローチが全然ちがうからこそ面白い部分もあって……内容的に面白いと言っていいのかわからないけれどね」

 

カエル「ブロガー視点で語ると小規模公開映画ってあまり語る価値はないかもしれないけれど……」

主「アクセス数を稼ぐなら大作映画中心になるけれど、小規模公開映画って違う面白さもあって……特に邦画の場合、監督やキャストが直接反応をもらえたりする。

  これは怖いことでもあるんだけど、それでも語りたいことが直接伝わるというのも面白いよ。あとは、単純に語りたいことが多い2作でもあるし!」

カエル「普段大作映画で稼いだアクセス数などを、こういうあまりメディアで話題になりにくい小規模公開映画に還元できたら嬉しいなぁ」

主「地方の方などは見に行けないかもしれないけれど、もしかしたら後々ソフト化するかもしれないし、何かの拍子で思い出してもらえたらなぁ、という意味もある。

 それじゃ、『イノセント15』の感想を始めるよ」

 

 

 

 

 

 

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(C)2016「イノセント15」製作委員会

 

 

イノセント15の作品紹介

 

 甲斐博和監督の初長編作品であり、オリジナルストーリー。

 15歳の少年、銀(萩原利久)と同級生の成美(小川紗良)の恋と秘密の旅を描く。

 

 銀と成美は同じ中学校に通う幼馴染。ある日、成美は銀に対して告白をするが、銀はそれを断ってしまう。

 2人の関係がそれまでと変わってしまい、モヤモヤとした気持ちを抱えながら家に帰ると、そこには旅館を営む父親の旧友の姿があった。

 一方、成美は母親との2人暮らしであったが、高校進学に反対されてしまい、さらに衝撃的な提案をされてしまう……

 15歳という思春期真っ只中の年齢の微妙な心の揺れを描いた作品。

 


映画『イノセント15』(INNOCENT15)予告編 trailer

 

 

1 ざっくりとした感想

 

カエル「まずはこの作品のざっくりとした感想からだけど……」

主「正直、この映画を『面白い!』という言葉で表現することが適切なのかはわからない。もちろん鑑賞する価値は大いにあるし、多くの人に鑑賞してほしい映画なのは間違いなけれど、若干独特な映画でもある。

 鑑賞中はむしろ退屈に感じる瞬間の方が多いかもしれない。ドラマ性が弱いというよりは、派手に盛り上げようとしてないから」

カエル「独特の間の作品だしね

 

主「監督が来場されて、最後に質問したんだけど……この映画って決定的な場面は決して見せないんだよ。ドラマとして盛り上がるところ、1番派手な場面は見せない。

 そこを見せるともっとキャッチーで一般受けするはずなんだよ。だけど、この作品はそういう選択をしなかった。あくまでも想像させるように、観客に委ねている部分もある。

 だから単純な意味での『面白い』という評価には……なりづらいのではないか? というのが自分の感想。だけど、そういう映画って観てから1日後、2日後とかにじんわりと来る映画だから、映画に派手なものを望む人はあまり向いていないかもしれない」

 

カエル「監督はそこは意識して描かなかったと語っていたね」

主「話の内容もそれなりに重いし、派手に昇華させる場面はそうそうない。だけど、だからこそこの作品は1つの大きな意味を持たせることに成功しているし、意義がある作品だと思う。

 近年の邦画ってやっぱり説明過多な作品が多くて、それこそ『間抜け』な作品が多いのね。これは単なる悪口でなくてさ、日本って『間の美学』の文化なわけだよ。人間、時間、空間、行間……そういった『間』にこそ美学がある。

 『人』ではなくて『人間』を描くということになると、その間というのは絶対必要だけど、間は説明すればするほどに減っていってしまう。それは受け手が補うもの、いわば想像する余地と言ってもいい。最近は小規模映画じゃないと『間で魅せる』作品があまりない気がするなぁ」

 

カエル「誰にでも面白く鑑賞してもらおう、分かりやすい物語を、という大規模公開映画と一概に比べられるものでもない、というのは前提としてあるし、面白さの質が違う作品も多いよ、とは言っておこうかな」

 

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左が小川紗良、右が萩原利久

(C)2016「イノセント15」製作委員会

 

15歳という年齢

 

主「この15歳という年齢もまた絶妙な時期なんだよ

カエル「監督は児童養護施設というのかな? 虐待を受けた子供たちを支援する施設に勤務しているという話だったけれど……」

主「この15歳という年齢ってすごく難しくて、大人になっていく自意識と社会の目が一致しない歳でもあって、よく『難しい年齢』とか『よく分からない年齢』とか言われるけれど、本人たちもよくわかっていない頃でもあって……

 何がどうしたいとか、そんなことがわかれば苦労はしない。だけど、自分が将来何をしたいのか、どうなりたいのか、あの人(恋人、友人、親、兄弟)のことをどう思っているのか、それがわからない。そんなの、大人が言う『愛』とか『大切』なんて単純な言葉で簡単に表現出来る年齢でもない

 

カエル「それまではもっと幼い子供だったけれど、思春期を迎えていろいろな『性』とか『進路』とか様々な洪水に巻き込まれていくよねぇ」

主「そしてそれだけでも大変なのに、学校、社会は『自分の進む道を見つけろ』『やりたいことを探せ』という圧力がかかってしまう。

『大人になれ、その準備をしろ』という無言の圧力があって……だけど色々な面で大人になることを許されず、結局は親や社会の影響下に置かれてしまう。

 自分は15歳という年齢は1つの地獄だと思う。思春期って『青春』と名付けられて見ている分には楽しいけれど、当の本人には地獄でしかない。その点、大人になると楽だよ。3年ごとに自分の進路云々を言われないし、自由はそれなりにあるし自分で選択できるし。

 あと結構いい加減になるし」

 

カエル「いい加減なのはあんたの性格でしょうが!」

主「いや、でもね、そこまで色々と考えてもしょうがないってわかるんだよ。

 人生はなるようにしかならない。

 そして逆に言うと、なるようになっている。だからそこまで考えすぎる必要もないんだけど……だけど、考えてしまうよねぇ」

 

以下作中言及あり

 

 

2 想像させる余地

 

カエル「では、先ほどから語っている『間』とか『想像させる余地』ってどんなところなの?」

主「例えば、スタート付近のシーンで成美が告白するんだけど、それを銀は断ってしまう。それを友達に見られて、その返しが『大切だけど好きじゃない』みたいなことを言うんだよ。

 これってさ、結構わかると思うんだよね

カエル「『大切だけど好きじゃない』かぁ」

 

主「すごく広い意味に考えれば、やっぱり好きなんだと思う。だけどその好きが恋愛の好きなのか、それとも友人としての好きなのか、幼馴染としての好きなのかはよく分からない。

 実はそこってそんなに考えなくてもいいとは、個人的に思うけれど……」

カエル「だけど、大切なことには変わらないってことかぁ……」

主「恋人よりも大切な友人もいるし、家族と恋人どちらが好きか? 大切か? と問われると考えるところがある。その『好き』の差ってなんなの? とかさ。

 ましてやついさっきまでそんな恋愛感情なんて考えたこともない相手に、恋愛感情をぶつけられた場合……大切だからこそ、簡単に好きだよ、とは答えられない

 

カエル「あ〜わかる気がするなぁ」

主「これって思春期のグチャグチャな時期だからこそのものであって、多分みんなそこまで深く考えたことがないと思うけれど、だけど思春期だからこそ考えてしまう。だからこそ2人はすれ違ってしまう」

 

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2人の選択に胸がつぶれる

(C)2016「イノセント15」製作委員会

 

似ている2人

 

カエル「この作品は結構この2人の共通性を描いていたと思うけれど……」

主「お互いに片親でさ、銀は父子家庭、成美は母子家庭と同性の親と暮らしているという共通点がある。そして、親の性によって翻弄されてしまうというのも一緒。

 少し説明してしまうと、銀の父親は実は母親と別れた後に同性愛者になっているし、成美は中学卒業後に風俗通いを持ちかけられて、しかも男に10万円で処女を売れと言われてしまう。

 銀はその複雑な思いに対して男の子らしい解決策を取ってしまうけれど、成美は受け入れるしかない。どうあがいても抗いようがないから……本当はもっと違う大人の助けを借りるとか、色々あるけれど15歳にどこまで求めるべきなのか? という問題はあるかも。

 そして2人は逃避行に出るわけだ

 

カエル「この手の思春期の逃避行を描いた映画、大好きだもんね」

主「この映画って自分が好きな要素が詰まっていて良かったなぁ。

 だけどここで銀の態度は煮え切らない。不幸な、本来ならば笑えるレベルの行き違いもあるけれど、2人の距離は縮まるけれど縮まらない。ここがこの映画が好きになるからないかの分かれ道で、あの銀の感情が理解できるとこの映画にハマるよ。ただ、あの描写の意味がわからない人には全く受けない。

 好きだからこそ、大切だからこそ手を出さない。そういう時ってあるんだよ」

カエル「どことなくEVAのシンジ君に似ているところがあるもんね」

 

主「あれも思春期特有の、言葉にならない感情だと思うんだよねぇ。

 これも監督が明かしていたけれど、この映画って順取りなんだって。つまりスタートから物語に沿って順番に撮っていく。その結果、何が起きたかというと2人の仲のぎこちなさが少しずつ取れていった。

 逃避行の場面とかは本当に朗らかな笑顔を見せていたりして、この瞬間に成美は『世界一の美少女』になっていた。映画において1番重要なことの1つじゃないかな?

 この2人の関係性が少しずつ深まっていくのがわかる。そしてその変化も……」

 

カエル「例えば最初の2人乗りの激走は成美が前で銀が後ろだったのに、物語後半の爆走シーンではこれが逆になっていて、これだけで関係性が変化したのがわかるようにできているんだよね。エンジン役、ハンドル役……主導権を握るのがどちらか? という変化が演出でも説明されていて……」

主「しっかりとして青春映画になっているんだよね」

 

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息を呑むほどに美しい光景

(C)2016「イノセント15」製作委員会

 

結局あの2人は?

 

主「で、この映画で少し思うのはじゃあ、あの成美は結局どうなったんだろう? というところで……表面的に見ると銀は成美を救うことができたんだけど、でも本当にそうなのかな? ってところでさ」

カエル「え? 救っていたじゃない?」

主「この映画はそういう決定的な場面が描かれていないからさ、実はあの瞬間はすでに手遅れなのかもしれない。実はもう2回目なのかもしれない……それがはっきりとわからないようにできているんだよ。

 だけどそれでも2人は疾走する

 

カエル「そういうところも考えさせるようにできているんだ……」

主「ここで単純な疾走だけで終わってしまば、この映画はすっきりとわかりやすく終わったかもしれない。だけど、決してそうはなっていないくて……ある事情によって2人の逃避行はトラブルを迎える。

 でもさ、人生ってそんなものだと思うんだよ。映画のように疾走して、飛び出して行って全てオールOKなことってそんなにない。だけど、矛盾しているようだけど、そこまで疾走したことが全てであり、それだけでも実は満点なんだよ」

カエル「監督も語っていたけれど、この映画で描かれている事って『普通のこと』なんだよね」

 

主「あのトラブルの原因になった人がまさしくその象徴であって……すごく異常なことがいくつも詰め込まれている。その1つだけに絞って映画を作っても成立するようなものがたくさんある。特に銀の父親関係なんかは、全てを活かしきれているか? と問われると、そういうこともない。正直あってもなくても同じかもね。

 だけど、そういう『異常』と思われることをたくさん詰め込んで、その先に描き上げたのが『普通』であって……

 監督は虐待を受けた子供を支援しているみたいだけど、それもわかる映画になっている。決してセンセーショナルなものではなくて『普通』のこととして普通の映画に仕上げている。

 だからこそエンタメとしてのキャッチーな部分は弱いかもしれないけれど、それが尊い意味を持っているわけだ

 

 

 

3 イノセント15と無垢の祈り

 

カエル「じゃあ最後に同日に鑑賞した無垢の祈りと今作品について語るとしようか」

 

blog.monogatarukame.net

 

主「どちらもテーマとしては同じようなものを扱っている。親による暴力と、そして性に対するお話だからね。

 だけどイノセント15の方がまだ15歳ということで選択肢は若干あるかな。救いがある。その分、きついものもあるけれど……無垢の祈りは10歳ということもあって、そもそも選択肢がそんなにないし、よりキツイ映画になっている。

 多分、この2作って大元となるもの、表現したいことってそんなに違わないんだよ。自分は映画、物語は基本的に『祈り、願い』が大事だと思っていて、単なる現実を扱うだけでなく、こうなってほしい、もしくはこんな現実を知って改善してほしい、というような『祈り』が込められているものだろう。

 その意味では両方ともに多いぐらいの祈りが込められていた

 

カエル「無垢の祈りは自主制作のR18という区分ということもあって、ショッキングなシーンも多かったけれど……今作は『見せない』という選択肢もあってそこまでショッキングではないにしろ、だけど辛い現実という意味では甲乙つけがたいものがあるね

主「多分、分かりやすいのが無垢の祈りであるけれど……この作品も負けているかというと、そんなことはないと思う。

 自分が偉そうに言うならば、完成度は無垢の祈りの方が高いし、賞レースなどで評価されるのも無垢の祈りだと思う。

 だけど、好きなのはイノセント15であって……そのメッセージ性、祈りの深さというのは同じ。

 だからこそ、どちらも等しく尊い映画だと思うよ」

 

カエル「その決め手って何が違うの?」

主「単純に言うとラストかな。あのラストで銀はエンジンを吹かし、成美はああいう行動をとった。その時点で、2人の関係性は前を向いているんだよ。まだ疾走する気がある。

 こういう少年には疾走していてほしいし、前を向いてほしい。この映画の方が好きな理由はその1点かもね」

 

 

 

最後に

 

カエル「元々小規模公開で評価が甘くなるということもあるけれど、でも邦画の力を感じさせる両作品だったね」

主「この前に語った『真白の恋』も含めて、小規模公開邦画で当たりが続くなぁ……無垢の祈りは昨年話題になっていた映画でもあるけれどね。

 アップリンク系列映画が好きなのかも」

カエル「ちなみにアップリンクでの公開は2017年5月4日の木曜日、20時50分の回が最後の1回になるので、劇場で見たい方はお早めにチケット購入を。

 そしてアップリンククラウドというサイトでもオンラインで鑑賞できるので、こちらならば地方の方でも簡単に見られます。無垢の祈りも入っています」

 

主「あとはこの記事もしくは作品を気に入ったらスター、ツイッター、ブクマなどをよろしくお願いします」 

 

www.uplink.co.jp

 

 

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