亀爺(以下亀)
「今日は渋谷へと行ってきたんじゃな。彼の地は苦手と言っておったようじゃが……」
ブログ主(以下主)
「できれば行きたくないよ、怖いし、騒々しいし、迷うし。今回ようやくハチ公口から出て、109を抜けてユーロスペースまで行く道を迷わずに行けたよ」
亀「でも、かわいい女の子もいっぱいじゃろうに」
主「いても観賞用だからなぁ……下手に手を出すと後ろから怖いお兄ちゃんが出てきそうだし。
実は今回の目的は『ケンとカズ』よりも同じ劇場でやっている『ちえりとチェリー』だったんだ」
亀「……『塩だけで酒を飲んだ後、お子様ランチとプリンを食べる』みたいなバラバラな選択じゃな」
主「最近子供向けアニメ映画ばかり見ていたから、少し苦い作品を欲しがったんだよね。そもそも知ったきっかけは昨日シンゴジラを語っていた宇多丸師匠の映画評論だったから、ここに投稿した監督のご家族は素晴らしいね。それで少なくとも観客は1人増えているから」
亀「そうじゃな。それでは、感想を始めるかの」
1 全体的な評価
亀「ツイッターなどの評価では中々好印象の映画じゃな。水道橋博士が『今年一番』といったという話もあるの」
主「……そう言われると、これから書くことが怖いんだよなぁ」
亀「お! と言うと、この世間の高評価に反する内容を書くんじゃな!」
主「なんというか、今なら『シン・ゴジラって何がそんなすごいの?』っていう感想を抱いた人の気持ちがよくわかるよ……」
亀「では、まず何が不満じゃったんじゃ?」
主「端的に一言で表すと、全く意味がわからなかった。いや、もちろん起きている事件の内容はわかるし、その登場人物の言っている内容もよくわかるんだよ? でも1ミリたりとも理解して、納得することができなかったんだよね……」
亀「主は元々暴力的な映画が苦手じゃからな。『ヒメアノ~ル』も上手いし、傑作だけど嫌いな映画と語っておったし」
主「いや、別に暴力映画が嫌いなわけじゃないよ? ノアール自体は好きだしさ。ただ、今回はどうもハマらなかった。
どうにも開始からノれなくてさ、スタートからショッキングな暴力描写があるんだけど、そこの段階でのめり込むことなく引いちゃったんだよね。『あ、これ苦手なやつだ』と思ってさ」
映画の作りとしてうまい出だし
亀「スタートにおいてショッキングな暴力を描写して、観客にその世界観にのめり込ませること自体はうまいスタートだと思うがの……」
主「なんというかさ、全体的にこの中の登場人物に一切の感情移入ができなかったんだよね。ずっと一歩引いて見てた。例えるならば、街中で薬の売人や喧嘩、集団リンチを見た時の気分。
『あ、これ見ちゃだめなやつだ、早く逃げようって』思うでしょ? どうにも彼らと同調する部分が一切なかったんだよね」
亀「……まあ、そうかもしれんの。『シン・ゴジラ』や試写会で見た『君の名は』を絶賛し、『ペット』や『ちえりとチェリー』を見に行くようなオタクには縁のない世界かもしれんの」
主「どうにも映画の中の世界が、地続きの現実だとは全く思えなかったんだよね。もしかしたら、彼らのような世界が日本のどこかにもあるのかもしれないけれど、どうにも『作り話』感がしてさ……
ノアールものって基本的にある程度主人公たちと感情移入ができなかったら、多分楽しめない。この作品ってノアールとしては取り立てて珍しいこともしていないし、王道といえば王道なんだよね。あのラストも含めてさ、きちんと描かなくてはいけないところは描けているし、抑えるポイントはしっかりとしている。
登場人物たちの説明をしすぎないとかさ、余韻を残すことも出来ているし。
でも主人公たちに一切感情移入ができていないから、なんとも思えないんだよ。暴力表現のたびに引いていたし」
亀「そこは大きいの。感情移入していないと、どんな映画も感動するのは難しいじゃろうな」
2 人物描写とセリフについて
亀「人物やセリフに関してはどうじゃった?」
主「なんというかさ……ここは微妙な部分で難しいんだけど、あのセリフもダサいと思っちゃたんだよね……
リアルといえばリアルなのよ? でも映画的な魅力のあるセリフとは思えなかった。そんなこと言う? って思ってさ。
そういうところがイマイチ乗れなかったのかなぁ……多分、感情移入できていれば『リアルでいいよね!』と思うだろうし、味といえば味の部分なんだけどね」
亀「リアルなヤンキーの言葉遣いをしているが、感情移入していないとただのバカのセリフに聞こえてしまうかもしれんの……」
主「あとはさ、彼らは結構落ちるところまで落ちている人間なんだよね。薬は売る、だけど最後の一線を越えないっていうのも、何だか中途半端に思えて……
ノアールってさ、その手を汚しても守りたいもの、己の矜持を守るために手をくだすっていう人間の価値観があると思うんだよ。それが……感じられなかった。
多分、絶賛している人との違いはそこ。
その価値観が理解できたとか、矜持があったという人は絶賛できる」
低予算映画として
主「どうしても今作は低予算映画ということを言いたくなっちゃうんだけどさ、実際に300万円ぐらいしかかかってないらしいのね。だからほとんど自主制作映画みたいなものなわけじゃない」
亀「渋谷では上映終了後にキャストやスタッフが自主的に集まって、トークショーを毎回やっているそうじゃな」
主「そういう所もさ、感心するし、心情的に叩きにくいよね。『10億使ってあれかよ』と笑うことはできてもさ『300万しかないの? 安い映画だな』とは言いづらい。貧乏して身内に借金して映画を撮りましたというのは、応援したくなるよ。すごくこの感想も書きづらい。
300万円しか予算がないと聞くと、やっぱり工夫に溢れているし、よくできているんだよ。
『低予算映画の傑作!』と言われれば、すごく納得する。
だけど、1観客として考えれば300万円も15億円も100億円も関係ないからね。同じ1800円……まあ、この作品は1700円だったけれど、払っているわけだからさ、『シン・ゴジラ』や『ペット』と同じ土俵に立っていると、自分なんかは考えちゃう。そうなると安い部分は、やっぱり気になる。
あれだよ、シンゴジラとハリウッド超大作映画を予算も違うのに比べてしまうみたいなものでね」
亀「安い部分というと、カメラワークなどか……」
主「そうね。どうしてもハンディカメラを使っているからさ、手ぶれは仕方ないんだけど、画面酔いしちゃいそうだったし、何よりもアクションシーンで激しく揺れすぎて何が何だかわかりづらい。
そういう所でも『ああ、お芝居だなぁ、映画なんだなぁ、低予算なんだなぁ』という事情を見せられるようでさ、冷めるんだよね」
亀「主は元々、映画にしろ小説にしろその話の外に注目する人間じゃからな。監督の思想とか、思いとか、演出の狙い、予算などが色々と見えてしまったのかもしれんの」
応援したい監督と役者
主「だけど、ここまでボロクソに書いているけれど、応援したい監督であり、役者陣なんだよね。それにさ、きちんと抑える部分は抑えているし。例えばノアール伝統の光と影の演出とかさ、しっかりしているなぁと思うよ。
ケンの未来は光に包まれて明るいのに、カズの過去は暗いとかさ」
亀「この感想は趣味の問題じゃからの。元々韓国などのアジア的ノアールもの……チンピラの暴力ものというのが苦手な人間の感想じゃからな」
主「だってさ、300万円で映画が撮れます、クラウドで予算も募集できますって言われても、映画を撮ろうなんて思わないよ。
いいお金の使い方だよね、尊敬する。損得を考えてさ、無料でブログ開設して、費用をかけようとしても1万円以下の初期投資で毎日ブログ書いている人間とはスケールが違う。
お金がかかるってのが、自分が映画の世界を目指さなかった理由の一つなんだけれど、自分がハードルだと思ったものを、全くそう思っていない人……というか、乗り越えちゃった人というのはかっこいいよ。応援したい」
亀「そうじゃの。これだけ流行ると予算もペイできるかもしれんし、2作目の期待も高まるものじゃの」
最後に
亀「今回は特に趣味が出た作品じゃったな」
主「こればっかりは監督が悪いわけじゃないからね……じゃあなんで見に行ったんだ? って言われたら、評判が良くて、見たい映画がやっている映画館だったからついでに……としか言いようがないし」
亀「まあ、そうじゃの」
主「でも趣味が合えば多分、今年トップクラスの映画なのかもね」
亀「して、主よ。ここで作品と関係ない話をするんじゃが、最近わしの出番が少なすぎやせんかの?」
主「仕方ないじゃん。亀爺と主だとキャラクターが被るんだよ、どちらも理屈屋だし、感情こめる時は主が出てきた方がいいし。
両津と戸塚みたいな関係だからさ……」
亀「なんじゃと!? それは元々のお主の設定ミスではないか! それをわしに押し付けなくても……」
主「いやいやいや、設定ミスとかそういう話じゃなくてさ! ブログを書く上での書きやすさとか、いろいろと……」
以下略 そして終了