通勤途中に小説を〜短編小説 『築地物語』〜

夜勤明けのいつも以上に重くなった体を揺すり、その体以上に重い瞼を擦りながら、地下鉄から一歩踏み出してホームへと降り立つと、独特の生臭い匂いが鼻孔をくすぐる。漁場だったら潮の香りと共にそれは運ばれて来るのだろうが、海に近い筈にも関わらず全くしない。その街の独特な香りに包まれるたびに、どことなく安心感…