9月、最も注目している作品の登場です!
高坂監督の最新作の登場だね
カエルくん(以下カエル)
「原作の方は正直全く知らないし、テレビアニメ版も1話しか鑑賞していない、ほぼまっさらな状態での映画版鑑賞になります」
主
「少女向け児童文学の枠組みを超えるような、見事な傑作だったら嬉しいなぁ」
カエル「もちろんスタッフを見るとその可能性だって十分あるわけで!
それだけにハードルを上げ過ぎかもしれませんが……それを乗り越えてくれることを期待して、記事を始めるとしましょう!」
感想
では、Twitterの短評からスタートです!
#若おかみは小学生
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年9月21日
ふむふむ、なるほど
キャラクターの顔がコロコロ変わり、ちょっとした仕草などで魅せる作画のレベルの高さに大満足
物語自体にはもう一つパンチが欲しかったというのは少女向け作品には求めすぎだろうか?
高坂監督らしい描写も随所に見られた
少しハードルを上げすぎたかなぁ pic.twitter.com/nDBnpylkww
見所の多い作品ではあるけれど、思うところもあるかなぁ
カエル「もともと女児向けの児童文学シリーズのアニメ化ということもあって、あまり派手さの少ない……ロボットや爆発などがほとんどない作品であるだけに、どのように映画として魅せるのか難しいところもあるけれど、しっかりとアニメらしい動きの面白さで魅了した印象だね」
主「特に本作は主人公のおっこをはじめとしたキャラクターがコロコロ顔を変えたり、その個性の豊かさが非常に魅力的。
さらに日常的な作画が非常に良くて、3年かけたというのが納得できるほど!
アニメ特有の動きの面白さを……派手なものではないけれど、しっかりと素晴らしい動きを堪能したい人にはたまらない作品となっています」
カエル「物語もこの可愛らしい絵柄でありながらも、実は結構重い話でもあって、そのギャップにやられる人も多いんじゃないかな?」
主「この映画の感想で”泣いた”と語る方も多いけれど、それも納得するね。
個人的には若干の懸念もあるんだけれど、女児向けということもあって過剰に煽りすぎない作品に仕上がっていることに好印象を抱く人もいるだろう。
アニメ映画としての屈指のクオリティーも含めて、大人も子供も、アニメが好きな人もそうでない人にも楽しめて伝わりやすい作品です」
高坂希太郎監督について
本作の監督について語りましょうか
『茄子 アンダルシアの夏』以来の15年ぶりの監督作品です
カエル「やはり高坂監督といえば、スタジオジブリを支え続けた名アニメーターであり、数々の名作で作画監督として力を発揮してきた人、という印象だよね。
それこそ、なんでスタジオジブリで作品制作をしないで、マッドハウスで制作しているのかな? って思うところもあるほど……あんまり好きな言説ではないけれど、ジブリでバリバリ監督として活躍する道も十分にあったと思うんだけれどね」
主「ただジブリだと宮崎駿と比べられて観客の印象が大きく変わるから、この道で正解とも思うけれどね。
過去作である『茄子 アンダルシアの夏』は自転車のロードレースをテーマにしたアニメ作品で、わずか50分弱という非常に短い時間の中でも、濃い競技の様子や主人公たちの葛藤も見られるアニメ作品です。
監督自身、趣味が自転車ということで、その描写があまりにも凝り過ぎていて、競技に全く詳しくない自分は『ほえ〜……そういうものなんだ……』とぽかんと鑑賞していたほど!」
カエル「そして、その続編としてOVA形式で発表されたのが『茄子 スーツケースの渡り鳥』で、こちらはアンダルシアよりはジブリアニメに近いような日常的な物語に仕上がっており、見所も多い作品です」
主「自分はどっちも好きだけれど、強いて言えば『スーツケースの渡り鳥』の方がちょっと好きかも。ヒロインが坂本真綾が演じているけれど、最高に真綾の魅力が伝わるキャラクターだったし。
それでいうと、この2作とも主演は大泉洋が演じているけれど、芸能人声優に違和感がある人こそ、是非みてください。
大泉洋が全く違和感なく、むしろ声優と真正面からガチンコバトルするいい演技が見れて、芸能人声優に対する思いが変わるだろうから」
高坂作品の特徴
カエル「高坂作品の特徴といえば……やっぱりジブリっぽさだよね。
最初に鑑賞した時は、マッドハウスで制作されていることが信じられないくらい、絵柄がジブリっぽくて……」
主「基本的に主要なスタッフがジブリ出身というのも大きいのだろう。特に那須シリーズは、主人公のぺぺは『カリオストロの城』のルパンを思わせるし、食事シーンなどは本当にジブリそのもの。
だからこそ、ジブリで監督をしなかったということが信じられない思いもある一方で、米林監督の叩かれ具合を見ていると、それで正解だったのかな?」
カエル「宮崎駿に対する印象が日本の観客は強すぎるもんね……
アニメは総合芸術だから、作画監督やスタッフの影響も大きくて、監督だけのものではないし、ジブリでそれだけ働いてきた人ならばジブリっぽくなるのも当たり前だけれど……」
主「話を本作に戻すと、キャラクターデザインや絵柄は大きくジブリと変えてきた一方で、動きなどはジブリ出身というのが分かるシーンも非常に多い。
例えば、車が停車するシーンのサスペンションの動きや、あるいは中盤くらいのおっこが車から降りて座り込む構図など、ジブリ作品を連想するシーンはとても多かった。
本作はアニメの最大の武器である”動き”で魅了することを目指していることが伝わって来る作品です」
他のスタッフについて
今作がもっとも楽しみな理由の1つが、脚本が吉田玲子ということです
多分、現時点で日本で1番うまい脚本家じゃないかな?
カエル「実際に近年の吉田玲子作品は『ガルパン』であったり、また劇場版の京アニ作品……特に山田尚子とのタッグを組んだ『映画けいおん!』以降の作品であったり、また『夜明け告げるルーのうた』『かいけつゾロリ ZZの秘密』『のんのんびより ばけーしょん』など、素晴らしいアニメ映画を連発しています」
主「ちなみに、上記の作品はどれも個人的には年間TOP30(上位20%以内)に入る作品ばかりです。
もちろん原作の良さや監督との相性もあるから、すべて脚本家の力とは言えない部分もあるけれど、これだけ傑作を連発しているというのは驚異的だよ。
自分は脚本が吉田玲子というだけで、映画館に行く価値があると思っています」
カエル「そして作画監督は廣田俊輔ということで、こちらもジブリ出身のアニメーターだね」
主「ただ入社したのが2000年以降なので、作画監督などのポジションで力を振るったのは『コクリコ坂』からになります。その後、ジブリ以外の様々な作品を担当していき『君の名は。』では共同で作画監督を務めるなどの活躍を果たしています」
カエル「これで観ると、本当に豪華スタッフだよね……」
主「90分という短い作品でありながらも、あれだけのクオリティを誇り、さらに作画人数なども他の劇場作品からすると比較的少人数と、とてつもないことを果たしている作品でもあります。
だからこそ、動きをはじめとしたアニメとして完成度はとてつもない。
少なくとも、罵倒されることはありえない作品になったことは間違いないでしょう」
表情がコロコロ変わるのがとても可愛らしく面白い作品
(C)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会
声優について
じゃあ声優はどうだったの?
作品には合っていたと思うよ
カエル「そういえば、子役の演技が苦手なんだもんね」
主「小林星蘭は子供向け映画として、そしてオッコというキャラクターに間違いなく合っていたし、演技自体がひどいとかいう話ではないです。そもそも、まだ14歳でここまで出来たら十分すぎる。
特に終盤の、おっこが大きな試練を乗り越えるシーンの演技などは高く評価れるべき演技でしょう!
他にも幽霊のみよちゃんを演じた遠藤璃菜もほぼ同い年だけれど、こちらも作品世界に合っていた。
ただ……個人的には子役が苦手なので、そこが合わなかった部分はある」
カエル「個人的な相性の問題だね」
主「それから、本作で少し思うのは、作品の基本的な演技は日常的で抑えられているとはいえ、女児向けアニメらしい演技なんだよ。
水樹奈々や松田颯水、小桜エツコなどはある程度抑えながらも、アニメ的な演技をしている。一方で、本作はたくさん芸能人声優も出ているけれど、そちらは典型的な芸能人演技でもあり……お父さんやお母さんの演技が、テレビ版と同じだったら、また印象は違ったかもしれない。
そこが違和感となったかな」
カエル「女児向けアニメの方向性と、役の相性というか、全体のバランスの問題と考えるとすごく難しい話だね……」
主「自分は芸能人声優が悪いとは言わないし、苦手ではあるけれど子役演技が悪いとは言わないけれど、それと本職のアニメ声優の演技を混ぜてしまうと違和感につながると考えている。
その違和感が出てしまった部分もあるのかな、という印象もある」
以下ネタバレあり
作品考察
本作の強いこだわり
では、ここからはネタバレありで語って行きます!
作画面での強いこだわりが随所に感じられたね
カエル「インタビューでも語っていたけれど”畳のヘリは踏まない”や”客人を迎え入れる際には正面からお辞儀をしない”などの多くの所作について、気を払っているんだよね。
僕もそこまで和室のマナーは詳しくないから、多分観る人が観たら関心することもあるんじゃないかな?」
主「この辺りは現代のアニメがより実写を強く意識するようになっていることによる変化だよね。もしかしたら、作品によっては実写ができていないマナーかもしれない。
特に本作ではそれを演出としてうまく組み込んでいる」
カエル「演出として? あのバタバタしたコメディの感じとか?」
主「それもあるけれど、序盤、おっこが旅館に訪れた際に、畳のヘリを普通に踏んでいるんだよね。それで彼女がまだ旅館のマナーなどを何も知らない、どこにでもいる普通の女の子であることがより強調されていた。
その後で徐々に教わることによって、若女将としての自覚をもち始めて、さらに成長していくという過程を描くことに成功しているんじゃないかな?
もちろん、それ以外にも先ほど挙げた車の動きであったり、神楽の舞、屋根の上に登った幼いおばあちゃんと、それを受け止める作画などはジブリや宮崎駿を強く意識しながらも、ある種のオリジナリティがあり、見所に満ちた作品となっている。
やはり、作画面でのこだわりが本当に素晴らしい作品だ」
キャラクターの魅力が発揮されています
(C)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会
オッコを迎え入れた動物たち
カエル「序盤でいうとおっこは都会と田舎の大きな違いに直面して、かなり困惑している様子なども描かれていたね。
確かにあれだけ虫が出るような環境だと、現代の人は嫌がるケースも多いかも」
主「ただ、そこでオッコを迎え入れた動物や虫もまた意味がある存在だ。
例えばヤモリはそのまま”家を守る”存在であり、あの旅館を守っているとも受け止められる。また『朝のクモは親の仇でも見逃せ』なんていうけれど、朝のクモは幸福の象徴なんだよね。
あの時間帯が何時頃からはわからないけれど、日がまだ出ていたし、おそらくお昼から3時くらいの時間帯だとしたら、やはりクモは幸運の象徴と考えるべきではないかな」
カエル「ふむふむ……全てのものを受けれれる旅館という設定にも、一見したら気持ち悪いようなものが、実は幸運をもたらしてくれるという暗示にも繋がっているんだね」
主「どんなお客さんでも、それこそ幽霊であろうとも受け入れるのが温泉だという考えみたいだからね。
このように、動き以外の面でも……寓意性なども優れたアニメだったね」
このシーンをはじめとして、エネルギーに満ちた動きが素晴らしい!
(C)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会
詰め込み過ぎ?
でもさ、それだけ評価しておきながらも、そんなにハマらなかったんだね
2回目を見て、その理由がよくわかったよ
カエル「原作は2003年から2013年に青い鳥文庫で刊行されていて、全20巻ある作品をある程度まとめたのが本作だという話だけれど、正直作品の存在も知らなくて、こんな作品なんだ、と驚いたところがあるかな」
主「可愛い女の子のキャラクターデザインで、コロコロと変わる表情などから子供にも受けるのは良くわかる。
その一方で、実は生死の問題を扱っていて、とても重い作品でもある。
その面がギャップとなって働き、おっこの成長などに繋がって行くという指摘はその通りだし、効果的に働いているんじゃないかな」
カエル「ふむふむ……そこまで思いながらも、なんでダメだったの?」
主「まず、1つ目の問題点として、本作は時間に収めるために時間の経過が若干おざなりになっている印象がある。
おっこ達が夏休みの話をしていて、とても魅力的な、女児向けアニメらしいお着替えのシーンなどもある。その展開が終わったら、急に『寒くなるから……』という話もあって……ちょっと時間経過の見せ方が急なようにも感じたかな。
ただ、背景描写などは美しくて、そこできちんと描写もしているけれど、いかんせんおっこたちの服装はあまり変わらないので、そういったところで分かりづらいかな? と思う部分はある」
カエル「だからと言ってセリフで説明されても萎えるだけだから、このバランスでいいのかもしれないけれど……
主「まあ、でもそんなことは小さな違和感ですよ。
自分が考える本作最大の問題点は別にあるんだ」
本作の懸念
懸念1〜若おかみという”やりたいこと”について〜
まずは2回目鑑賞後のツイートをごらんください
#若おかみは小学生
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年9月23日
2回目鑑賞
めちゃめちゃ上手いし、泣ける見事な物語も、やはり個人的には違和感は拭えない
おっこが素直ないい子すぎるのが気になる…もしかしたら作品との相性が悪いのかなぁ
今回はモヤモヤの理由がわかってスカッとした
記事は大幅に書き直します
1回目のモヤモヤの理由がわかると、スカッとするね
カエル「えっと、そのモヤモヤって一体なんなの?」
主「Twitterでも書いたけれど”おっこがいい子すぎる”問題にたどり着くのかな。
そもそも、自分は冒頭からこの映画について疑問があって……親を亡くしたばかりの小学生を、1人でスーツケースをもたせて旅館に行かせるだろうか?
あの日の朝まで、おっこは1人で暮らしていたのだろうか? という疑問がある。
それこそ、旅館があったとしても休んででもおっこを迎えにいくのが当然じゃない?」
カエル「これはテレビアニメ版の1話だけ鑑賞したけれど、そこも同じような描写だったから、原作からしてそうなんだろうね」
主「そして、おっこが思わず口走った『若おかみになる!』というのも、あれは言わされた感が満載で……あれは確かに児童文学らしいけれど、状況が状況だけにね。
”親を亡くしたばかりの女の子”が”周囲の期待に応えるように思わず口走った一言”を、まるで将来が決まったかのように扱っていいのだろうか?」
カエル「う〜ん……この辺りはうちの考え方にもよるところで……
『リメンバーミー』を大批判したけれど、うちは”親や家の都合に振り回される子供たちの物語”を嫌う傾向にあります」
主「親が敷いたレールを、子供が好きで走り出すならば何も言わない。今作では、ライバルの秋野真月はとても立派だし、彼女の高いプライドから裏打ちされた努力家な一面には好意的な感情もある。
でもさ、おっこはまだ旅館の仕事もわからない、ましてや親が亡くなって日もそんなに過ぎていない中で、自分の人生を周囲の期待に応えるように決めてしまっていて……それはすごくモヤモヤした」
本作と合わせてみてほしい、吉田玲子脚本の傑作!
親の死とどのように向き合うのか……重要なテーマを描いています
懸念2〜人はいつ亡くなるのか?〜
そしてここも大きな懸念事項ということだけれど……
とても感動する一方で、危険だな、と思ったシーンだ
カエル「直接的に終盤に関するお話になるので少し濁しますが、おっこに最大の試練が訪れます。あるお客さんのために、おっこは健気な姿を見せて、そこで両親の死を乗り越えるという描写ですが……」
主「おっこは当初、明らかに両親の死を受け止めきれていない。
表面上は、そして頭の中では亡くなったことを知っているけれど、その心はそれを知らないんだよ。
本作のモヤモヤポイントの1つで、おっこの境遇を仲居さんが『かわいそうに』っていうけれど、自分はそんな安い同情は迷惑だからやめてくれ! って叫ぶね」
カエル「それこそ、あかね君みたいな態度をとるということだね」
主「あかね君はあの布団に潜り込んだ瞬間に、母親の死を実感として受け止めた。葬式をして、荼毘に付したらそれでおしまい、何て簡単なものではない。
脳科学者の養老孟司は幼い頃に亡くした父の死の実感を、大人になって電車の中で急に襲われてボロボロ泣いたという話をしている。
つまり、人が亡くなった実感が湧くタイミングは人によるし、それが1ヶ月後の人もいれば、10年後の人もいるだろう」
カエル「そしておっこは、あの瞬間にその実感を迎えたわけだけれど……」
主「危険なことなんじゃないかな?
不可抗力もあるとはいえ、死の原因を作った存在と向き合って、半ば強制的にも見える形で最愛の両親の死と向き合う姿を描くのは、かなりセンシティブな問題だと考える。
そして、その存在をあの年頃の子が許すということを、肯定的に描くことに懸念を覚える。
本当はもっとゆっくりと向かい合うべきだし、それこそあの話だけで映画が90分くらい作れるほど深い葛藤がある描写だから……確かに泣けるし、感動する人が多いのもわかるけれど、この描写を児童文学、児童向け作品として肯定的に描く行為は危険だと、自分は警鐘を鳴らす。
だって、許せない子もいるよ。
許せないことは間違いじゃないし、許すことが正しくもない。
それは時間以外に解決する手段がない問題だから……」
懸念3〜おっこがいい子すぎる問題〜
そして、さらに懸念は続くのね
先ほどから述べているように、おっこはいい子すぎるよ
カエル「確かにあの遊びたい年頃で文句も言わずに家を手伝って、失敗はするけれどお菓子を作って、苦手な虫にも触れるようになって……
本当に、出来過ぎなくらいいい子だよね」
主「これが男の子だったらさ、旅館の道具、例えば箒とかで遊んで怒られたり、サボって帰ってきて家を締め出されるとかもあるかもしれない。でも、女の子って子供の頃から家事などを手伝わされることも多くて、男の子と比較すると親に対して従順な印象がある。
亡くなった吉本隆明の著書にあったけれど、娘のよしもとばななが一人で遊んだりする自分の時間を潰さない為に、なるべくお手伝いはお願いしないようにしていた、という記述がある」
カエル「子供に限らないけれど、一人でぼーっとしたり、遊ぶ時間って息抜きとしても大事だからね」
主「この作品からは、根本のところでおっこの自由意志が感じられない。
旅館を継ぐのもお婆ちゃんやウリ坊の願いからスタートしているし、成長もそれが旅館のあるべき姿だと考えているからだ。
自分はこういう子を見ると不安になってしまって……
おっこ、将来アダルトチルドレンにならないかな? って思ってしまうんだよ」
カエル「自分で選んだ道だからといっても、まだまだ小学生なんだから、いくらでも道はあるしね……」
主「本当は中学や高校で一度旅館を離れて寮生活をするとか、もしくはグローリーさんのところに1年間暮らすという選択肢があってもいいんじゃないかな?
一度外の世界を見て、外から旅館を見て、それでも旅館を継ぎたいと思ったら継げばいい。
でも、今の状況だけならば、結構怖い部分もあるし……おっこの成長の鍵を握るのはグローリーさん次第にも見える。
小学生で人生を決めるのは、早すぎるんじゃないの?」
カエル「一応、この作品は大人が非常に優しくて聖人しかいないから、そこまで怖がる必要もないという意見もありそうだけれど……」
主「でもさ、いい人だからこそ期待を裏切れないって思っちゃう可能性もある。
これは個人の思いではあるけれど、自分は少し心配になってしまう描写が多かった印象かな」
こちらも吉田玲子脚本の傑作!
特に外から出て、また街に帰るという選択肢を示したことも良かった
伝統的なものを描く難しさ
カエル「本作について高坂監督は『伝統的なものを観るとホッとするのではないか』とインタビューで答えていて、そこからも伝統的なものを描こうという意思を感じさせているね」
主「う〜ん……自分は伝統的な”もの”が何を示すのかがわからない部分もあるけれど、伝統的なものを描くというのは現代では少し難しいかもしれない」
カエル「それこそ、昔ながらの家族の繋がりを描いた『リメンバーミー』や『未来のミライ』も、個人的には思うところがあるというね」
主「前にも語ったけれど、今は家族の形などが大きく変容している時代だ。
自分が今年トップレベルに評価する『ぼくの名前はズッキーニ』は、家族を亡くしてしまった少年たちが主人公であり、自分たちで家族を選ぶという描写がある。
親や血、家を超えた家族関係、人間関係を作るというのが1つのトレンドである。
またイスラム社会という超伝統的な、保守的で女性蔑視社会で生きる女性家族を描いた『生きのびるために』などが世界的に高い評価を受けている現状がある」
カエル「本作は描き方を失敗していると?」
主「未来のミライほど、時代を間違えているとは言わない。両親の死という重いテーマをしっかりと扱っているし、現代の物語になっている。
ただ、伝統的な価値観からの自由化を描くのが今のトレンドでさ。
例えば女性の社会進出とか、LGBTなどもそうだけれど、過去の価値観からの進歩を描くことから考えると、本作のような伝統的な”モノ”というのは、描き方が難しいよな、という思いがある
一歩間違えると旧来の価値観で縛りつけるようにも見えてしまうかねない」
カエル「う〜ん……家族や家の事情に束縛されることを嫌うタイプの、個人主義の面が強い人間からすると、ちょっと作品との相性が悪いのかもねぇ」
まとめ
ではこの記事のまとめです!
- アニメの動きやキャラクターの表情など見所いっぱい!
- ジブリ出身の監督らしく、動きにこだわりが強く演出にも生きている!
- ただし物語が示す価値観は個人的には相容れない部分も……
- EDはとてもいいです!
最後は記事で語っていないことですが
カエル「EDは藤原さくらの歌と、映像のタッチがとてもいいんだよね。柔らかくてさ」
主「このマッチはうまくいっているよね。
だからこそより強く涙が出る作品になっているのかも。
いろいろ語ったけれど、基本的には観るべき価値の多いにある、見事な作品だと思うよ。
ただ、自分の考えや趣味からは外れただけ。
特に作画面に関しては文句無しなので、ぜひとも劇場でみてほしい作品だね」