カエルくん(以下カエル)
「今週は観たい映画がたくさんあって、大変な週だよねぇ」
ブログ主(以下主)
「その中でも何の記事を書いて、何は諦めるか、という取捨選択も非常に重要だよなぁ」
カエル「映画を鑑賞する基準ってあるの?」
主「基本的にはYahoo映画レビューのこれから公開する映画リストを見て、何となく魅かれる映画を中心に攻めていっている。
あとは大作映画やアニメ映画は優遇しているね。大作はもちろんアクセス数を稼げるというのもあるけれど、それ以上に公開している劇場が多いから時間が組みやすいのと、移動の手間も省けるという……」
カエル「映画館周りで1番辛いのって時間の調整なんだよね。1日6回とかやってくれる作品ならともかく、映画によっては公開初週なのに1回しかやらないところもザラにあるし……」
主「で、予定を組むわけよ。この映画を見るにはこの時間の電車に乗って……とかね。それで観る映画は決まる。
記事を書くのは……気に入った作品が優先。あとは注目度の高い映画と、自分なりに語りたいことが多い映画」
カエル「……あれ? そう考えると今週は8作観るんでしょ?
それですでに記事を書いたのが『関ヶ原』だけだから……」
主「ヌフフフ……
それだけで何となく伝わってくるでしょう? もちろん、アニメ映画だからというのもあるけれど、この作品は先に記事を作りたかったんだよ。
というわけで感想記事のスタートです!」
作品紹介
湘南、鎌倉を舞台に、ミニFMラジオを復活させるために奔走する女子高生たちを日常と青春を描いたオリジナルアニメ。
本作の声優陣は全て新世代声優を発掘する番組のオーディションで6人選ばれており、さらに三森すずこが共演している。
監督は『ONE PIECE FILM STRONG WORLD EPISODE:0』や『オーバーロード』の監督を務めた伊藤尚往。制作は『時をかける少女』『ちはやふる』などのマッドハウス。
海辺の町に暮らす女子高生、なぎさはいつもと変わらない日々を送っていた。彼女は幼い頃に祖母に聞いた『言霊はある』という話を信じており、時折友人の悪口を言うかなでに対してやりきれない思いを抱えていた。
ある日、突然降り出した雨やどりのために、閉店になっていた喫茶店へと立ち寄る。そこにはラジオの機材一式が置かれていた……
1 感想
カエル「では、まずはTwitterの短評からご覧ください」
#きみの声をとどけたい
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2017年8月26日
なんや、この映画……全くのノーマークだったけれど、終盤は涙で画面が見えなくて……
ほっこりとするアニメで……掛け替えのない平凡な日常が大事なんて手垢がついたような言葉がこれ以上なく沁みてくる……
この映画は必見でしょう
カエル「おお! 絶賛評!」
主「たださぁ……自分は安易に『絶賛!』って言いたくないんだよね」
カエル「えー? 何でよ?」
主「何というか、絶賛ってさ、ハードルが上がるじゃない? この映画ってミニFMラジオの話で、100m圏内くらいにしか電波が届かないということが前提となっているけれど……
劇場版のアニメだしさ、まるで『今年1番の大傑作! 観ないと損だ!』みたいなノリで行ってほしくないのよ」
カエル「また難しいことを要求するねぇ」
主「ラジオってそういうものじゃない?
面白いラジオがあるからといってさ、すごくハードルを上げて気合を入れて聞く、ってものではないでしょ?
何となくチューニングを合わせて、偶然好きなラジオ番組があって、それを聴く。特別ゲラゲラ笑うわけでもないけれど、ほっこりして、時々感動などもあって、ああ今日もいい番組だったなぁ、と満足してスイッチを切る。そういうものじゃない?
個人的にはこの映画、そのノリで見てほしんだよね」
カエル「……え? 何? 劇場のアニメを見に行くのに?」
主「その意味では『劇場で見に行く価値があるんですか?』って言われそうだけれど、でもその価値はある。音響のいい劇場で観るからこその感動もあって……特に音楽映画でもあるからさ。
アニメ映画が好きな人だったら是非見に行って欲しい。
それと10代の子供達に見て欲しい!
『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』が酷評されてしまったけれど、多分みんなはこういう映画を望んでいたんじゃないかな? と思える作品だから」
カエル「アニメでいうと『たまゆら』とか、たまゆらと同じスタッフの『ARIA』とかが好きな人にオススメかもね」
主「本当にささいな日常のお話だけれど、それが如何に大切なことなのかってことをじんわりと訴えかけてくるアニメ映画だからね」
主人公のなぎさは明るくて元気いっぱいの女の子
クオリティについて
カエル「今作は劇場で公開される作品だから、よっぽどいい作画だったんだね」
主「いや、そうでもないよ?
深夜アニメでは観るレベルじゃない? もちろん、安定しているけれどね」
カエル「……じゃああれだ! よっぽど演出が良かったとか!」
主「もちろん一定の水準は超えているけれど、とりたてて語るほどではないかなぁ」
カエル「……声優の演技とか?」
主「無名の新人声優ばかりだよ? そんなアッというような演技が出てくるわけないよ」
カエル「……ちょっと待って。じゃあ何を絶賛しているの?」
主「この映画はアニメのクオリティとしては特別高いものではない。目を見張るような映像美や、圧倒的な演技力、過剰に可愛らしくなったキャラクター、起伏に富んだうまい展開……そういったものはあまりない。
多分、平凡って言われるかもしれない。もっとああしたほうが……こうしたほうがって意見もあるかも。自分もキャラクターデザインが最初の2分くらいは少し苦手だったし。
あ、音楽は別だよ!」
カエル「この作品の音楽は松田彬人が制作しているんだけれど、最近だと『響け!ユーフォニアム』の音楽などを担当していて……下敷きになる曲もあるとはいえ、吹奏楽部という音楽が最も重要な作品において、非常に魅力的な楽曲を次々と作り上げてきた、今アニメ業界注目の若手作曲家だよね」
- アーティスト: 松田彬人,龍ノ口かえで(田中有紀),土橋雫(岩淵桃音),浜須賀夕(飯野美紗子),中原あやめ(神戸光歩),琵琶小路乙葉(鈴木陽斗実),矢沢朱音(三森すずこ),結城アイラ
- 出版社/メーカー: ランティス
- 発売日: 2017/08/26
- メディア: CD
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主「今作も音楽がとても大きな意味を持っているし、力がある。
それを実感させてくれる映画に仕上がっている。
でも突出はしないんだよ。
なんというか、音楽だけが主張するわけじゃない。もちろん、主張するシーンは全面に出てくるけれど、その他はBGMなどとして後ろで流れているだけれだからさ、作品に見事に溶け込んでいる。
この映画って決して『派手な映画』ではないの。
まあ、ある意味ではファンタジーで派手な映画なんだけれど、わかりやすい派手さはそんなに多くない。だけれど、派手な映画=いい映画ではない。逆もまた然り。
日常系の作品だからさ、そこまでハードルを上げないで欲しい。よく言われる『平凡な日常が何よりも大事なんだ』と云うセリフが本当に染みてくる……そういう映画なんだ」
舞台は湘南、鎌倉。どこも絵になる街です
声優について
カエル「今作の特徴として、声優発掘番組からスタートした企画らしいね。
きみに声を届けたいってタイトルもその番組からスタートしたとか……」
主「見たことないなぁ……まあ、名前を見たときから『劇場でやるってことは、テレビ番組プロデュースか?』という思いはあったけれど。
うまくはないよ、特に主演の子は賛否割れると思う。自分もどちらかというと苦手なタイプの新人演技で、最近の若手女性声優に多いけれど、萌え声やアニメ声に寄せようとしすぎて喉を締めすぎているのか、キンキンしてくるんだよ」
メインキャラクターを務めるのはオーディションで選ばれたこの6人と、三森すずこ
カエル「そのあたりは経験だし、新人だからということを考えると聞いてられないってレベルではないけれどね」
主「この子はうまいかなぁ、と思ったのはかえで役の田中有紀かなぁ。ただ、声質がボーイッシュで低めだから、他の演者と差別化ができたってだけかもしれない。少なくとも声優の演技を期待して観にいくレベルのアニメではない」
カエル「……それってさ、酷評なの?」
主「だからさっきも言ったじゃん! 『いい演技=いい映画か?』ってことだよ!
監督インタビューも少し読んだけれど『演技の上手い下手ではない味を出したかった』と語っているんだよね。
その意図からしたらこの作品はそれに成功している!
この作品が素晴らしい出来になっているのは、主役の片平美那の声質があるからなんだよ。すごく明るくて、積極的で、演技に嘘がない。よく言えば素直でまっすぐ、悪い言い方をすればお人好しなんだけれど、それがこの声ではっきりと出ていた」
カエル「じゃあ、これで仮にすごく上手い声優陣が起用されていたら……」
主「味は全く違っている。
むしろ、主役の子がちょっと難があるからこそこの映画は完成されている。
素人ぽさがさ、女子高生がやっている地域限定ミニFM感をさらに増しているんだよ。すごく小さなお話だから……鎌倉周辺の、町の中の商店街の人しか聞いていないようなラジオのお話だから。だからむしろ、その素人っぽさが1番重要になる。
だから演技の上手い下手だけでは測れない魅力に満ちているんだよ」
以下ネタバレあり
2 丁寧に練られた作品
カエル「ではここからネタバレアリだけれど……」
主「う〜ん……上手い映画ではないんだよねぇ。いや、これは題材が悪いというか、劇場アニメに向いていないところもある。
例えばさ、もっと派手な爆発だったり、見せ場があるアニメ映画だったら評価は全然違う。そこに向けて緩急をつけたり、ジェットコースターにしてみることもできる。だけれど、日常系作品ってそういうことが中々できないわけ。だから脚本としては緩急のつけ方がかなり難しい。
それを90分やるんだから、大変だよ」
カエル「でもそこまで飽きるような展開はなかったけれど……」
主「それは今作の構成がしっかりとできているからだよ。
まずは喫茶店とFM放送局を復活させるパート、それからよりラジオっぽくして復活していくパート、かなでと夕の仲直りのパート、そして最後のパートが始まるわけだ。4段構成になっていて、おそらくテレビアニメの構成とほぼ同じなんじゃないかな?」
カエル「OVAで全4話ってことだね。それをつなげてEDなども足して90分と云うことで……」
主「1話OP,EDやCMを除いて22分くらいになるはずだからね。見せ場見せ場となるところで音楽を使用していたりとか、とても丁寧な作りをしている。
その意味では『上手い』っていうべきなのかも……」
カエル「あとはキャラクター数がどうしても多くなってしまうというのはあるよね。先述の新人声優オーディションの関係上、キャラクター数は決まっていたみたいだし」
主「この内容で7人は多いよなぁ。やろうと思えば削れるキャラクターもいたし、どうしても目立つ、目立たないがでてきてしまう。でも、誰1人として欠かすことのできない人物であるとしようという苦心は伝わってきたよ」
登場キャラクター7名はそれぞれの個性もいっぱい!
カエルの導きによって……
カエル「ほら! でてきたよカエル! やっぱりいい映画の条件だよねぇ、カエルが登場する作品は名画ばかりなんだよ!」
主「いや、そんな馬鹿な話があるわけないから」
カエル「でもさ、なんでカエルだったのかな? もちろん雨の中ということもあるし、季節的にカエルが似合うということもあるけれど……」
主「カエルって幸運の象徴なんだよ。
例えばオタマジャクシから変態していくことから『復活』の象徴ともされているし、それこそ『帰る』ということから無事に帰るというところで、安全祈願の象徴でもある。たくさん卵を産むから安産祈願でもあり……世界中で幸運をもたらす動物であると言われているんだよ」
カエル「なるほど! さすが僕だね!」
主「……お前じゃないけれどな。
それを考えるとこの映画がカエルからスタートしたことってすごく象徴的だよね。
ラジオ局の『復活』だったり、お母さんが『帰る』だったり、たくさんの子供達が夢を持って社会に飛び出しいく姿だったり……
この映画はカエルの導きからスタートしている映画だと言ってもいい」
3 ラジオだからできる味
カエル「この作品は地域限定ミニFMラジオのお話だけれど、なんでそんな地味な作品にしたんだろうね?」
主「これはアニメオタク、声優好きだったらわかると思うけれど、ラジオと声優文化って密接なつながりがあるんだよ。今はルックスが重視されていることもあるし、動画配信もあるから動く姿を見る機会も増えているけれど、やはり声優の1番の武器は声。
その声が1番いきてくるメディアがラジオなわけだ」
カエル「声優ラジオも人気あるものも多いよね」
主「それと同時に高い表現力も要求される。身振り手振りができないから、顔芸などは一切できない。当然相手に伝わるように話さなければいけないし、さらに楽しませなければいけない。
ラジオは想像させるメディアなんだよ。声だけでその場の情景を想像させて、さらに膨らませていく。それってアニメにも近いものがあるし、声優にとっては非常に重要なことだ。
そして言霊という今作のテーマとも密接にリンクしていて……よく考えられているなぁ、と感心した」
カエル「ラジオで重要なのは下ネタというギャグ描写も今の声優ラジオだとあながち間違いじゃないしねぇ」
主「あんまり下ネタラジオは好きじゃないけれどなぁ。
そんなことはいいとして、ミニFMラジオって確かに小規模で地味なんだけれど、だからこそ生活に密接につながっている。商店街の人が店に流していることもあるだろうし、自営業の人であったらずっと聞いているかもしれない。
普通の女子高生がアイドルになってテレビに出て……とかだとよくある話になってしまい、サクセスストーリーになってしまうけれど、ミニFMラジオだったらありえそうじゃない? どんなに有名になっても地域限定だし。
だから日常と非日常の境目とも言えるわけで……それはこの先の進路の悩みなどを抱えている、高校生の日常と非日常との相性もいいんじゃないかな?」
芸能人ではない彼女たちの日常も楽しめる設定
『誰かのために』が『自分のために』
カエル「これももう使いまわされた言い回しかもしれないけれど、このことがすごく伝わってきたなぁ」
主「自分はこういう展開を『アイドルマスター』の20話からもらって『約束パターン』って言っているんだけれど……いや、神回なんだよ、本当に。最後でボロボロ泣いちゃうくらいでさ!」
カエル「あれはあれで神回だけれど、それはいいから! この作品の話をして!」
主「簡単に言えば『誰かのために全力で頑張ることの美しさ』ってことなんだよね。
なぎさは最初は興味本位からラジオを始めた。だけれど、紫音の母親のことを知りラジオを始めたわけだ。それは言霊はあるというシンプルな心情から始めたことだった。
やがてその輪が大きくなり、色々な人を巻き込んでいく。それはクラスメイトだけでなくて、商店街の人も巻き込んでいくことになった。
だけれど、その下地を作ったのは紫音のお母さんだよね」
カエル「みんな覚えていて、それを懐かしく思って復活させて聞いてくれていたわけだもんね」
主「多分さ、紫音のお母さんも最初は『誰か(みんな)のために』という思いがあった。だからこそラジオを始めたんだと思う。
でもさ、それを知っていた人が12年も過ぎてラジオの公開放送に来てくれているわけだよ。別に何か特別なアクションを起こすわけじゃない。現実は現実として、ラジオ局はああなるし、それに対して反対運動も始まらない。別におかしなことではないからね。
でも公開放送を聴きに来る、それだけだったら誰でも出来る。
それだけ人を動かしたのは、やはり紫音のお母さんであり、ラジオを再開しようと思った紫音であり、言霊を信じ続けたなぎさなわけだよ。
だからこそ奇跡は起きた」
カエル「奇跡へのロジックだね」
主「すごくミニマムなお話なんだよ。半径100mの、どこにでもあるような街で行われる、普通の青春群像劇。特別な事件なんて何も起こらない、日常の延長線上にある物語。
だけれど、そんな日常にも奇跡は起こる。だからこそ、この物語は尊くて感動するわけだ!」
最後に
カエル「この作品、全くのノーマークだったわけじゃない? 多分、アニメ映画を重視しようというこのブログを書いていなければ見に行かなかった可能性もかなり高い作品で。
でもさ、だからこそ感動したというのもあるのかもね」
主「この記事を読んで初めてこの映画を知ったという人は少し残念だろうね。これだけ評価している人がいるんだ、って知ってから見に行くわけだから。
ノーマークからの衝撃度ってかなり大きいからさ。
そして期待しすぎないでほしい。本当に地域限定のミニFMラジオを聴きに行くくらいの感覚で見に行ってほしいな」
カエル「劇場にミニFMラジオを聴きに行くくらいの軽い気持ちで行く人ってかなり少数派な気もするけれど……」
主「……あ〜あ、カエルは気楽でいいよなぁ」
カエル「え!? 急に何!? それ言いたかっただけでしょう!?
締めの言葉に使いたかったけれど流れが作りにくいからって、急にぶっこまないでよ!」
映画『きみの声をとどけたい』イメージソング「この声が届きますように」
- アーティスト: NOW ON AIR,結城アイラ,杉山勝彦
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