今回はジャンプでも大人気連載中の『僕のヒーローアカデミア』の劇場版作品のお話になります
前作がとてつもない傑作だったから、今作はどうなるのかなぁ?
カエルくん(以下カエル)
「前作は原作未読の状態で映画に向かい、あまりの面白さに驚き原作を全巻読んだほどの作品でした!」
主
「ヒーロー映画がそこまで得意ではないけれど、本作はかなりはまったな」
カエル「そんなヒロアカの最新作はどのような物語になっているのでしょうか?
早速ですが……語ることが多いので記事のスタートです!」
『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング』予告【12月20日(金)公開】
感想
それでは、Twitterの短評からスタートです!
#ヒーローズライジング
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2019年12月20日
熱きヒーローたちの活躍を描いた前作に匹敵するほどの熱量とヒーロー愛を兼ね備えた傑作!
1年A組の(ほぼ)全員を活躍させるし話運び、迫力ある映像、そしてヒロアカが大切にしてきた思いが限界突破したプルスウルトラな熱さに酔いしれた!
ありがとう、ヒロアカ! pic.twitter.com/uovpVAM6xU
1作目に引き続き、熱きジャンプアニメの魂を見せつけた傑作バトルアニメ!
カエル「前作の劇場アニメも年間ランキング上位にランクインするほどの傑作でしたが、今作もそれに負けず劣らずの見事な作品でした!」
主「ジャンプアニメの劇場版作品に求められるのは、何と言っても”友情・努力・勝利”を体現したような大迫力バトルと、仲間たちの熱い友情だと思うわけですよ。
それを見事に体現し、さらに”ヒロアカだからできること”を見事に発揮した本作には、惜しみない称賛の拍手を送りたい!」
カエル「年末に途轍もない映画がまたきてしまって、年間ランキングの制定が難しくなるという、嬉しい悲鳴が巻き起こっています!」
主「迫力のある作画・演出は前作に引き続き長崎監督たちの力が見事に発揮された形になったし、個人的には何よりも脚本の黒田洋介らしい激アツなボーイ&ガールの熱意が反映された物語に恐れ入った。
また、様々な物語や過去のヒロアカの要素をうまく拾いつつ、昨年の映画や原作を読んでいる人はもちろん、そうでない人にも伝わるであろう親切設計とバランスも見事。
また『映画HUGプリ』から注目しているけれど、林ゆうきの音楽が物語を見事に引き立てており、1番の盛り上がりポイントは鳥肌が止まらないレベル!
というわけで……全方向に称賛が続く作品です!」
ジャンプアニメ映画の難しさとヒロアカの挑戦
今作の大きな挑戦というと、どういうところになるの?
やっぱり”1年A組の全員を活躍させる”というチーム戦を選んだところにあるのではないだろうか?
カエル「前作の劇場版では、やはり尺の問題ややりたいことの問題もあり、全員が満遍なく活躍する物語とは言い難い部分がありました。
しかし、今作は予告にもあるように、1年A組の生徒が全員島に向かっており、見せ場をしっかりと作っています」
主「これがすごいことなんだよね。
例えば、同じような特殊能力のあるバトル漫画というと『ONE PIECE』の原作などもチーム戦はあんまり行われておらず、個人対個人の対決で話を盛り上げる。それはヒロアカの原作も同じなんだけれど、これは批判ではなくて、チーム戦というのはそれほど作るのが難しいわけだ。
しかも今回は20人もの生徒に加えて、映画オリジナルの敵がいるわけで……その説明もしつつ、初見さんにも分かりやすいように物語を作るのは至難の技なわけ」
今作の場合は以下のような人たちを満足させるわけじゃない?
- ヒロアカ初見の観客
- テレビアニメのみ鑑賞している観客
- 原作・前回の映画も鑑賞している観客(熱心なファン)
その難しいハードルを飛び越えたのが、前作の映画だったわけだ
カエル「うちも前作は原作も何も知らずに見に行って、すっかりハマって原作本を全部読んで、今でもジャンプ本誌で追いかけているくらいにはファンになってしまいました」
主「本作は基本設定の説明、キャラクターの見せ方、順序、能力バトルの見せ方、回想などを含めて網羅している。
本来ならば20人ものキャラクターを映画内で活躍させるのは難しいけれど、ヒロアカはそれができる限り求められる作品なんだ」
カエル「メインキャラクターはもちろんいるけれど、クラスメイトの1人も、いわゆるモブのような扱いはしていないもんね」
主「本作の”ヒーロー”というのは、警察官や消防士、レスキュー隊員なども兼任しているような存在であるため、状況に応じて様々な個性の活用ができる。だから、バトルだけが全てではないわけだ。
本誌でも出来ているとは言い難いことを、この2時間の短い時間で全員の見せ場を作り、物語を盛り上げる。この高いハードルを飛び越えただけでも称賛に値する。ここまでうまくそれが出来た作品というのは、もしかしたら過去にジャンプ作品のアニメ化ではなかったのではないだろうか?
それほどの高い評価だと思ってください。
詳しくは、またネタバレありのパートで書いていきます」
キャストについて
今作もおなじみのキャスト陣が多かったために、そこまで不安はなかったかなぁ
若手・中堅声優の中でも人気どころや実力のある人を起用しているからね
カエル「いつものメンバーには文句などあるはずもないですが、あえて印象に残ったメンバーをあげると?」
主「当然ながら山下大輝と岡本信彦ってことになるでしょう。
2人の熱演があったからこそ、この映画は相応の熱意があったし、あの映像に負けることがなかったのかな。
あとは映画では初登場のホークス役の中村悠一は今後の鍵を握るであろうメンバーだけに、印象深い活躍をしてくれたし貫禄勝ちだったのではないでしょうか?」
カエル「不安に思う人もいるかもしれない、芸能人声優に関しては?」
主「井上芳雄は舞台俳優の経験もあり、アニメ映画でも『劇場版SAO』などでも演技を披露していることから、ごく一部で芸能人声優らしさが顔を出しかけることもあったけれど、ほぼパーフェクト言えるのではないでしょうか?
一方でスライス役の今田美桜は……予告でもわかっていたけれど、芸能人声優であることを隠しきれなかった。特に、今作のように演技が固まった本職声優とは根本から異なるから、浮くことは隠しきれない。
でも、作品世界を致命的に破壊するほどではなかった。
一部ではアナウンサーを使ったりもしていたけれど……これは違和感がないといったら嘘になるけれど、許容範囲かな。
色々大人の事情もありながらも、しっかり気にならない範囲で面白くしてくれていました」
以下ネタバレあり
作品考察
今作の序盤の物語の巧さ
では、ここからはネタバレありで語っていきましょう!
序盤の展開の巧さが目立ったねぇ……
カエル「まず、ヴィラン連合とのカーチェイスで作品世界と盛り上がりを演出して説明し、アメコミ風のOPが流れるのがすごくよかったよね!
漫画原作だし、ああいうOPを見ただけでも今作の期待度が高いことを説明してくれているのかな?」
主「そして物語が始まるけれど、ここの手腕が鮮やかだった。
ここでは
- それぞれの個性の解説
- 主要なキャラクターの紹介
- ヒーロー活動の広義的な意味合い
というのを説明している」
カエル「例えば海で溺れている子供を、カエルのような梅雨ちゃんが助けに行ったり、あるいは轟くんが氷を出して売ったり……という描写だね」
主「それぞれのキャラクターによって固有の個性があること、その個性によってできることが違うことを紹介する一方で、今作で注目して欲しいキャラクターを自然に誘導する。
そして”何事も一生懸命で頑張る努力家の出久”と”怠けているように見える爆豪”という2人の対比関係を描き出す。そこでこの2人がこの映画のメインキャストであり、注目して欲しい人物だと伝える。
さらに1番重要なのは”彼らにとっての正義とは何か?”ということを伝えること。ヒーロー映画では1番重要なことだ」
うちがヒーロー映画を語る際に1番重要視していることでもあります
正義というのはそれぞれの形があるからこそ、どんな正義を追求するのか? という言及は必要になる
カエル「闇雲に敵を倒すことだけが正義ではない、ということだね」
主「実は前作はここが少し弱くて『ヒーローたるもの頑張らないと!』という理屈で進んでしまった。
でも今作は勝利条件の設定を改めて作り直しており、それは”誰かを助けること、守ること”という風にしている。
これにより、彼らの正義がわかると同時に、なぜ彼らが戦うのか? という勝利条件の設定も可能となり、物語の目的も整理される。その点においても、非常に整理されているうまい話運びと言えるだろう。
これほどうまく物語と観客の意識を誘導している作品って、そんなに多くないと思うので、ぜひとも多くの創作者志望者にも参考にして欲しい部分だね」
2人が主要であると伝わる序盤の描き方
今作のオリジナルキャラクター・真幌と活真の存在
前作も思ったけれど、今作も映画オリジナルキャラクターの存在感が見事だったね
彼らがこの映画における1つのキーになる明確な理由が与えられている
カエル「もちろん、敵が狙う最終目的であり彼らが守らなければいけない存在という、ある種の……なんていうかな、トロフィーというとあれだけれど、フラッグというか、そういう存在に近いのかな?」
主「どうしても言葉が悪くなってしまうけれど、そんな存在に近いかもしれない。
前作もオリジナルキャラクターであるメリッサは、出久のある部分を対比させるキャラクターとなっている。
そしてそれは今作でも似たようなことをしているわけだ。
それはヒーローに憧れる少年である活真と、そんな弟を心配する姉の真幌の存在が、そっくりそのまま過去の出久とお母さんの構図に繋がるわけです」
カエル「ヒロアカって実はとても残酷な物語でもあって”誰でも頑張ればヒーローになれます!”というものではないんよね……持って生まれた個性の強弱というのもは避けられないわけで……」
主「実はそこも大きなテーマとして社会性を持ってくるけれど、後の項目で詳しく触れます。
彼らの子供らしい感情などは生徒たちを動かしていくし、観客にも”子供を守る”という最大のヒーローの行いとして説得力を持たせる一方で、ここまでの作品を見ている人には、出久の過去を連想させ構図を作り出し、物語上のカタルシスを生み出すための種を巻いているわけです」
今作における敵の役割
今回のナインは9つの能力を持つ、超絶強い敵だったね……
映画にふさわしい相手だった
カエル「前回も圧倒的な力を持つ敵だったけれど、今作もそれに負けず劣らず強くて、かなりびっくりしちゃった」
主「このナインは本編のラストに絡んでくるであろうラスボスのオール・フォー・ワンを仮想した敵となっています。
つまり、いずれは本編にもこのクラスの敵が登場する可能性が大いにあるわけだ。
相手としては全くの不足がないどころか、現状ではオーバースペックな敵だとも言える」
カエル「ナインのあの弱体化設定があったとしても、今の候補生たちでは勝つのは難しいかも……」
主「同時に、今回は敵を複数にしたのも良かった。
全員の活躍の場を見せることが求められるけれど、それは難しい部分もある。その点、1体多数にすれば凶悪なヴィランVSセミプロの候補生という力関係も、ある程度観客に納得がいくものになる。
そして何よりも勝利条件の設定を考えると、全く卑怯ではないのもポイントだ」
先ほど語ったヒーローたちの勝利条件は”子供を含めた島民を守り抜くこと”だったね
一方でヴィランの勝利条件は”活真の獲得”であるわけだ
カエル「全くフェアな戦いとは言えないね……」
主「現実でもそうだけれど、テロリストたちの目的は”どんな手段を使っても人を傷つけること”だとしたら、それを守る側の目的は”全員を助けること”になる。この条件下だと、守り手側が圧倒的に不利だろう。
そのために地の利をへて、頭を使って行動したところで、勝機は五分五分もないだろうね。
その知恵比べという工夫も交えつつ、戦いに臨むのは見事だった」
あまりにも強すぎるくらいなボスであるナイン
それぞれの見せ場を作るために
そして3つのバトルが展開されていくね
ちょっとだけ、大人の事情も絡んでくる部分はあるでしょう
カエル「大人の事情?」
主「……ヒロアカを語る際に欠かせないのは、人気キャラクターの存在だ。
で、今作は出久と爆轟がメインだから、それ以外はちょっとメインの話からは外れてもらわなければいけない。
そうなると、人気キャラクターの……お茶子、轟、飯田などが浮いてしまう。
そのための見せ場としての分断であり、戦いだった」
カエル「特にそのバトルの鍵を握る存在であるお茶子、轟、梅雨ちゃん、切島辺りは序盤からもその能力と性格を見せていた印象があるかな」
主「ここで強力な敵でありキメラと戦わせて見せ場を作る。
で、残ったもう1人のスライスを、同じく強キャラであり、今後の原作でも活躍するであろう常闇と芦戸で迎え撃つ。特に芦戸なんて能力的にはえげつないほどの強キャラすぎて、ちょっと扱いに困っているように見える部分もあるから、今回の常闇とのタッグマッチはちょうど良かったのかもな」
あとは護衛役だったり、後方支援が向いている耳郎などが後方に回る結果だね
ただ、一部残念だったのは”全員活躍”といかなかったところかな
主「動物と会話ができる口田などは撤退戦で活躍を見せたけれど、どうしても葉隠が出番が少なかったし、一応冒頭で活躍を見せたけれど砂藤などは出久とかぶる部分もあるから出番が減ってしまう。この辺りはなぁ……
特に葉隠だけは惜しかったように見える。
透明人間ってチート能力だから、扱いに困るし映像化に不向きなのはわかるけれど、惜しいと思ってしまう部分。
本来、上記のキャラクターは耳郎も含めて偵察などが向いているけれど、現実では最も重要とも言える役割が、漫画やアニメではあまり重要とは言えないものになりがちだ。
この辺りは『ONE PIECE STAMPEDE』がロビンやブルックの見せ場も作っていただけに、ちょっとだけ惜しいなぁ」
カエル「それでも、しっかりと全員の見せ場を作ろうとするだけでもすごいことだけれどね」
本作が描く社会性
そして、本作を語る際に重要なのは”ただの娯楽作品”になっていないことです
きっちりと原作にも通じる社会性が込められている
カエル「それが”個性を尊重する社会=差別問題”などです。
生徒たちの中でも腕が何本もある障子のように、見た目からして異形となってしまう個性を持った生徒もおり、中には迫害のような目に合う人物もいることから、ヴィランに落ちぶれてしまう人もいます」
主「正義の味方を描くときは、そこと対立する悪をいかに魅力的に描くのか? という問題がある。
ここが弱いと正義も輝くことができない。
社会がヒーローを求めるからこそ、生まれてしまう悪もある。
その”正義とは何か?”ということを問いなおしていくのが、このヒロアカの魅力だろう」
カエル「原作20巻ほどの話なのでアニメではまだ先になりますが、そこで登場するジェントルに強く感情移入したし、この手の話には弱いんだよね」
主「ジェントルは完全に出久のありえた未来の姿だからね。
さらには”個性を持たない”あるいは”弱い個性で生まれてしまう”という、生まれつきの部分で将来が決まってしまう部分もある。
その宿命を背負ってしまったのが活真だろう。
そして彼の存在が最も輝くのが、あの後半のバトルとなる」
全員が活躍する物語を作り上げる!
本作の挑戦〜賛否が割れるであろう部位〜
あの後半のバトルは大迫力だったし納得ではあるけれど……でも賛否は割れるだろうなぁ
自分も正直「あ、それありなんだ」ってなったからね
カエル「どのような展開なのかはここでは語りませんが、ヒロアカを読んだことならば誰もが思うことでもありながらも、最大の禁じ手と一読者である自分たちは考えていたようなことです」
主「前作もそうだったけれど、今作の場合も堀越先生などが”原作ではできないことをやろう”ということが伝わってきた。
また、ここは音楽もかなり攻めていて、前作とは違う方向ながらも……言葉が難しいけれど、葬送曲と言ったら言葉が悪いかもしれないけれど、でもそういう性質が感じられる曲だった。
その後の物語の展開を考えても、前作の展開はヒロアカがやり損ねたことでもある。それをあの超絶作画で見せつけてくれたことに、強い歓喜の思いが上がった。そして今作は……仮想ラスボスだからまだ確定はできないけれど、おそらくあの展開を原作ではやらないからこそ、ここで使い切ったのだろう」
カエル「でもさ……あの後始末というか、ちょっと都合よすぎな部分もあったんじゃ?」
主「それはあるかもしれない。
でも、あれはあれで良かったんじゃないかなぁ?
ヒロアカって基本的には”継承”がテーマなんですよ。
ワン・フォー・オールもそうだし、受け継がれていく思いが大事だという作品だ。アニメの今後の展開を考えても、あのようにするのは決して間違いではないし、それが許されるギリギリの最大限だった。
さらに言えば、日本一熱いバトルが描ける脚本家、黒田洋介らしい熱い熱いバトル描写と、正反対の2人によるタッグマッチなどは手に汗握るじゃない」
継承かぁ……だったらいいのかなぁ
それはこの映画最大のカタルシスに繋がるわけだ
主「今作での活真の役割は”過去の出久”だと語った。
では、今の出久の役割は?」
カエル「語るまでもなく、かつてのオールマイトだね」
主「誰もが憧れるNo1ヒーローのオールマイトに憧れた2人だからこそ継承した思い、そして2人だからこそ見せることができた戦う姿。
その姿は”オールマイトに憧れたかつての少年たち”と重なり合う。
彼らはもうすでに憧れるだけの存在ではない。
誰かを守り、憧れの対象となる存在なんだ。
それ以上の成長というのはないのではないか?」
カエル「ふむふむ……」
主「だから……これはすごく個人的な思いだけれど、唯一不満点があるとすればどこかのタイミングで『私(ぼく、おれ、僕たちなど)が来た!』をやって欲しかった。それがあれば、自分は何一つ文句言わずに100点で拍手喝采をおくるだろう。
守る対象を安心させる、ヒロアカを象徴する言葉だからね。
もし、それを意図的に外したのだとしたら……今後その言葉を言える時が来ることを待ち望んでいます」