物語る亀

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物語愛好者の雑文

テレビアニメ『アクティヴレイド -機動強襲室第八係』の感想、評価を谷口悟朗ファンが語る

はじめに

 

 今この記事を読んでいる方はアニメが好きな方が多いと思われるが、皆さんがアニメを見るきっかけになった作品は何だろうか?

 世代、性別によっても違うだろうが、私にとってその作品こそが『スクライド』だった。

 

 

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 今では名作という評価が固まったように思うが、最近アニメを見始めたという人がいたら是非見て欲しい。

 その熱量は『天元突破グレンラガン』に勝るとも劣らないとんでもない熱血アニメだ。(平井さんのキャラクターデザインが古いと言われることがあるが、ファフナーが大丈夫なら見れるだろう)

 そのスクライドの監督を務めたのが谷口悟朗である。

 

 

 監督に注目してアニメを見る人間ならば誰もが知るヒットメーカーであり、私の最も好きなアニメ監督の一人である。代表作には無限のリヴァイアスプラネテス、ガンゾード、そして今でも映画が続く大ヒット作品のコードギアスがあるが、どれも一つでも作れたら監督としての実績が十分な作品をいくつも作るあたり、怪物に違いない。

 だがコードギアスの後はテレビ特別編のジャングル大帝がありはしたものの、しばらく監督として作品を発表しない時期が続いた。

 そしてしばらくの沈黙を破り、制作したのが『純潔のマリア』であったが……うまくいった作品かと問われると難しいところだ。これは明らかに絵が納期に間に合ってなかったし、次週からは面白くなりそうな雰囲気がしていたりと、酷いというほど悪くはないのだが、一話から最終話まで60点(ギリギリ合格点)で駆け抜けた印象が私はある。

 

 

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 作品自体は悪くないのだが、他の作品のレベルが高すぎて一つ落ちる印象ができてしまった。

 いやいや、大ヒットメーカーでもハズレはできるはずだし、原作もあったし、作画のスケジュールもたくさんあったし……などと誰にするわけでもない言い訳がたくさんできたが、私の中でどことなく才能が涸れてしまったのかと残念に思うこともあったのも事実だ。

 

 そんな谷口監督が総監督という立場で新作を、しかもオリジナルアニメとして始まるという。

 これは見なければならぬといき込んでみた感想がこちら。

 

 

 

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1話に注目して語る

 

 うん……悪くはない

 総監督というのは名義貸しという話もある中で、絵コンテを担当しているのだから紛れもなく谷口監督の作品と言ってもいい作品になるのだろう。

 その中では作り方も魅せ方もしっかりしているし、そう悪くない作品のはずなのだ。

 

 では本作の作り方で気がついた点を挙げていく。

 

 

 

 

プラネテスとほぼ同じ1話の構成

 

 本作は谷口監督の他作品である、プラネテスと一話の構成はほとんど同じだ。

 私は魅力的な一話の作り方において、プラネテスという作品は王道的なお手本だと思っているが、本作もそれに則ったものになっている。

 ではプラネテスの一話について軽く解説をしていこう。

 

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 人が宇宙を開発して住むことが可能になった近未来、ヒロインの田辺愛は大企業であるテクノーラに就職が決まり、宇宙のゴミ、スペースデブリを回収する部署に配属される。そこで出会うのが同じ会社の先輩であり、主人公のハチマキこと星野八郎太だった。仕事に対する考え方などがぶつかる中、同僚たちとの交流や、この仕事のやりがいなどを描く。

 

 

 この一話が非常に優れている点は、あえて主人公であるハチマキではなく新人である田辺を軸に添えることにより、視聴者と田辺の状況が一致することだ。

 つまり作中の登場人物が田辺に説明することはすべて視聴者への説明であり、田辺の疑問は視聴者の疑問と一致する。

 これによりSF特有の難しい単語や設定の説明ができるし、その世界観に入っていきやすくなる。

 何よりも大きいのが不自然な説明台詞を、自然にすることができるという点だろう。

 

 本来、それはその世界の人間にとっては常識だから説明する必要もないはずのことをくどくどと説明すると世界観を壊してしまうことにもなりかねないが、田辺への説明という形をとれば、何も知らない新入社員に対する説明という形になる。

 さらにたくさんの登場人物が出てきても挨拶を交わして交流をしていくことで、少しずつ近づいていく雰囲気がこちらにも伝わってくる。その中で一癖も二癖もありそうな面々の紹介と、これから少しずつ知り合っていくんだよという一話のつかみにも繋がるのだ。

 

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本作は新人の目線で物語が説明されていく

 

アクティブレイドの1話の構成

 

 本作もスタートの段階ではプラネテスと同じく新人の女の子が登場するところから話は始まる。

 そして主人公らしき人物である黒騎(この時点では主人公とはわからない)と少しだけ会話をした後に、初めての出勤を迎えることになる。

 この時のメガネを通した動画を見るなどといった近未来的な演出は中々いいと思うが、この時点におけるヒロインのあさみが有能すぎる。

 だからペラペラと設定をずっと説明しているのだが、それが『知らない人への分かりやすい説明』になっておらず、単なる設定の羅列になってしまっている。

 

 

 そしてあさみはほどほどに有能なので今の状況がどういう事なのか、把握してしまっている。だから説明する事もなく専門用語が次々と羅列されてしまい、理解する前にまた次の単語が出てくる上に、地名やら犯人の意図やら官省庁の思惑とか次々と話が展開してしまうために余計に混乱してしまう。

 これでは視聴者=新人という図式は成り立たず、説明にならない。

 

 ただ、そんな細かいことはいいだよ、とばかりにCGを多用した後半は勢いよく戦闘する絵で魅せてくれているので、ただなんとなくボーッと見ていても楽しくなってくる。

 本来戦闘アニメーションなのだから、これでいいのかもしれない。

 そしてそのあとはきっちりと気持ちよく敵を倒すシーンを出して、落ちとなるネタを入れた後、飲み会を入れて一話を締めた。これはプラネテスの一話においてもハチマキがカッコよく締めたにも関わらず、実は手当目的だとわかり田辺に怒られるというオチを用意したのと同じだ。

 

 このように全体的な構成はプラネテスと同じながらも、細かな部分が違うからこそ新しい感覚を呼び起こすのだが、過去作を超えたとは思えないところが惜しい。

 だが、この記事を書くために二度目に見返してみると、内容がすんなりと頭に入ることができた。

 これは設定や状況が1回目よりも頭に入っていたためで、おそらく制作陣も頭の中にストーリーができている状況下で一話を作ったから、少しゴチャゴチャするような作品になってしまったのかな……。

 だが厳しいことを言ったようだが、現代の連続テレビアニメシリーズの一話としてはそこまで悪いものでもない。

 

 

正義で解決しない警察もの

 

 本作において個人的に評価できるポイントは「正義はないよ、お仕事だもん」という警察官ものにありがちな熱血正義漢がその熱い思いで全て解決にしようとしていないところ、そして様々な現実的な問題があるために、好き放題に暴れておしまいにならない所である。

 この部分において、新しいものを作ろうという気概を感じることができた。

 

 ここからどのような展開になるか、オリジナル作品のため誰にもわからないが、刺激的な展開を用意してくれる谷口監督だけに期待したい。

(でも谷口監督の名作は2クール以上が多いんだよなぁ……)

 

 

 

 

6話に注目

 

 アニメにおける6話というと、大体1クールの半分にあたる。二クールならば4分の1であり、大体お話の起承転結でいえば起、承の部分が終わり、大体どのような作品かわかるところである。

 なので中間まとめとして感想と考察を書いていきたいと思う。

 まずはアクティブレイドから。

 

 さて、ここまでの展開を見てまず一言で表すと

 

 悪くはないんだけどなぁ

 

 

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6話までの作り 

 

 まず1話から3話まではわかりやすいお話の導入だったと思う。

 

 まず第1話において世界観とこの作品の見どころ(ロボットによる戦闘描写と組織的な味方の陣営紹介)をギャグを交えながら重ね、4話で瀬名の過去や未来を暗示させ、5話で円、6話で船坂をフューチャーし、7話ではるかを取り上げるようだ。その見方をすると、2話は状況説明と共に、ヒロインであるあさみとボスである凛の深掘りをしたと言えるだろう。

 

 ギャグを交えて脇役を深掘りすることでお話の土台を固めている印象がある。これは当然悪いことではなく、2クールあるからこそできる丁寧な作りだろう。おそらくこの流れからすると8話で協会さんの話が来るのだろう。

 特に6話は昔ながらのスーパー系ロボットを思わせる敵と味方の大立ち回りがあり、王道の展開などの熱い描写が続いていた。音楽や演出、博士のキャラクターデザインなどもそれを意識したようなものが多く、ギャグとしてもロボットものとしても中々秀逸なものがあった。

 

 これの作りは同じ谷口監督でいえばガン・ソードに近い。

 伏線とキャラクターを次々と紹介して、敵もどういうことをしようとしているか、ギャグを含めながらも少しずつ開示していく。

 そしてOPに出てくるキャラクターも黒塗りされていたのが、少しずつ色がついていくという演出もあり、お話が進んでいる感があった。

 それに比べるとだいぶギャグ色は強いが、作りは似ていると思う。

 

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惜しいポイント

 

 まず第一に今作では不思議なほど主人公が空気なのだ。

 

 空気というほどの活躍していないわけでもないが、黒騎の情報を不自然なほどに開示してこない。今の所わかるのが、彼が無鉄砲でガサツな人間であるという、戦隊物でいえば典型的なレッドの人格であるということのみだ。

 本来では視聴者が最も大事な主人公の情報が一切開示されないというのも、ここではガンソードと似ているような気がしている。なぜかぎ爪の男を探しているのか? かぎ爪の男は何をしようとしているのか? その情報が公開されたのはそこそこ後になってからだった。

 

 なのでこの作品の欠点はやはりガンソードと被る。

 あの作品は後半の展開は非常に熱いのだが、前半は1話完結の話も多く、少し勢いが足りないような気がしていた。その原因は主人公の目的があまり開示されないこと(かぎ爪の男を探しているのはわかるが、その理由が開示されない)、その相手の意図や規模がわからないことだ。

 今作も敵であるロゴスの目的がイマイチはっきりせず、愉快犯のように見える。吉祥寺に何かがあるらしいので、これが後々重要な伏線になるのだろうが、おそらく全てが終わって一から見直さなければ、この前半の意味はわからないのかもしれない。

 

 この主人公と敵の描写の薄さはやはりこちらとしてもモヤモヤ感が残ってしまう。

 戦闘描写もいいし、ギャグとしても面白く、特に6話においてスーパーロボットの話を書いた後、CMで伝説的スーパーロボットアニメ、ガオガイガーのCMを入れるなど小ネタにも力を入れている。

 決して工夫のない、つまらない作品ではないのだ。

 

 

 

 

 

9話までの脚本構成

 

 前回の記事でも言及したが、今作はある程度統制された脚本構成をしている。

 

 1〜3話 主人公たちや味方組織の説明

 4〜6話 仲間の深掘りと伏線張り(ギャグ強め)

 7〜9話 ロゴスの暗躍

 

 このように典型的な3話理論に基づいて、3話ずつ物語を展開していき、さらに4つにお話を区切ることで、しっかりと起承転結をつけることができている。

 週間アニメはスタート時に物語が固まっていないこともあり得るし、テコ入れや諸事情により話が変わる可能性もあるため、このようにしっかりとした脚本構成が出来ている作品ばかりではないのだが、この辺りは入念に作られているなと感心する。

 分割2クールと聞いているが、1クール目の締めに相応しいようにロゴスの本格始動ということが始まったので、10話以降はロゴスとの激闘ということになるのだろう。

 

 ここまでは大きな破綻も特に見受けられず、作画面も大きな乱れはないかなぁという印象。前回の谷口作品である『純潔のマリア』はそこが評価を下げた一因でもあったので、少し心配もしていたので、安心している(とは言ってもここからが耐えどころだが)

 

 

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変わらず描写が少ない主人公

 

 それにしても、本作の肝となる部分は非常に謎が多い。

 

 ロゴスの目的や『オロチのロ』はこれからその正体を現すとしても、黒騎の情報は全く公開されていない。

 他の面々、例えば相棒の瀬名は元恋人の存在まで出てきたし(ここいら辺が2期の伏線になりそう)船坂は左遷組だったり、円との過去の因縁があったりと過去についても少しずつ明かされてきている。脇を務める人たちは情報が多く公開されているのに対して、黒騎はあまりにも情報公開が少ないのだ。

 

 ここまで公開してこないとなると、ここは2期までの伏線か、1期最終話での衝撃の展開が待っているような気がしてくる。(例えばロゴスのトップは黒騎だった、など……)まあ、10話で少しだけ過去を公開したから、その可能性は少ないかもしれないが。

 あさみも決して情報公開が多いわけではないが、彼女は上に踊らされていたことが発覚してし、ここまでのポンコツ具合を見るからに、何か裏がありそうには思えない。

 むしろ一番怪しいのはやはり協会さんだろう。

 ウィルウェアにも非常に精通しているし、本名も明かされていないというのは、裏を疑われても仕方ないだろう。10話で話した本名かもわからないし。

 

 それはうがった見方だとしても、本来一番に描写されるべき主人公(それにヒロインがあさみであるならばヒロインも)の描写が非常に少ないというのは気になるところで、これだけ上手に構成して作られているのだから、それが意図的であることはほぼ間違いないと思われる。

 これは2期に入る頃には化けるかもしれないなぁ……

 

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黒騎の描写の薄さが気になる……

  

基本的な作り方はガンソードと同じ

 

 谷口悟朗監督作品を見ている人ならば、この作品のOPを見てガンソードを思い浮かべる人は多いだろう。ガンソードの方は登場人物が出てくるごとに、OPの黒シルエットが開示されていくようになっている。なので初期の方はキャラクターがほぼ開示されていないため、OPだというのに真っ暗な絵がつづいて当時の視聴者たちを困惑させたものだ。

 

 今回も人物こそは全員解放されていたが、ウィルウェアはシルエットしかわからない状態だったものが、少しずつ開示されていくというOPだった。これは監督の秋田谷監督がガンソードから谷口監督と関わっているということも大きいのだろう。

 作品の作り方も基本的にはガンソードと同じで、馬鹿馬鹿しいギャグ回とシリアス回が交差している。そのギャグ回だと思っていた部分に重大な伏線を入れてくるのも似た作りだろう。

 監督のインタビュー記事があったので詳しくはこちらも参照して欲しい。

 

s.akiba-souken.com

 

 CGも違和感なく絵と混ざっているし、ここまでは特に問題ないように思える。もっと人気が出てもいいのになぁなんて思いながら、最終回まで見届けたい。

 

 

 

最終回まで見届けて……

 

 では最終回まで見届けてみた感想としては……悪くはない、のまま60点で駆け抜けてしまったような印象である。

 これまで上げていったように計算された優等生な作品ではあるのだ。あるのだが、どうにも面白さに欠けてしまった印象が残る。

 一言で表すならば『惜しい』作品だった。

 

 もちろん、2期に残しておきたい伏線などもあるのだろうが、制作はあらかじめ決まっていたということなので、ではなぜこのような構成にしたのか? というのがあまりわからない。

 最後が走ってしまったのは仕方ないとも思うのだが、どうしても解せないポイントが多いのである。

 是非とも2期ではこの評価を覆してもらい『すみませんでした!』と言わせてもらいたいものである。