亀爺(以下亀)
「さあ! いよいよ公開されたの! 亀が主役の映画ということで、わしも張り切っておるぞ!」
ブログ主(以下主)
「……そうねぇ。久々のスタジオジブリの新作ということもあって、世間ではびっくりするほど……盛り上がってないねぇ」
亀「そんなことは関係ないじゃろう! わしらが盛り上げればいいんじゃ! 盛り上げていくという心持ちが大事なんじゃ!」
主「……テンション高ぇな」
亀「さあ、絶賛記事を書いて、どんどん観たくなるようなレビューを書くんじゃ! そして一躍亀ブームを巻き起こすんじゃ!!」
主「……この作品で観たくなるようなレビューを書くのって、すごく難しくない? いや、作品クオリティはとんでもなく高いけれどさ、これをオススメできる層ってどれだけいるのよ?」
亀「つべこべ言わずに書いていくぞ!」
主「……じゃあ、感想記事始めるよ」
ジブリの選択
亀「さて、気を落ち着かせて……この作品の最大の特徴はなんといっても『台詞のない物語』ということじゃろうな」
主「物語性……ストーリーというか、筋自体はあるけれど、それを一切言葉で説明することなく絵の動きだけで説明するという手法だね」
亀「ある種の、アニメーションの原点に立ち返った作品とも言えるの。絵の動きだけで表現する、アニミズムの権化というべき作品じゃの」
主「別に、この手法自体が悪いととは思わないんだよね……最近だと『ファインディング・ドリー』の同時上映だった『ひな鳥の冒険』もその手法で、個人的にはドリーよりもこっちの方が評価が高いんだよね。すごくいい作品だった。
ひな鳥の冒険がCGを駆使したデジタル時代の表現だとしたら、レッドタートルは手書きの良さをフルに生かした作品でさ、確かに動きとかに関しては素晴らしい作品になっているよ。このレベルの作画は他に例があまりないかもしれない」
亀「じゃがの……」
主「でもねぇ……」
亀「……これは、ダメじゃろうなぁ」
主「日本じゃ流行らないよねぇ」
理解が難しい作品
亀「この映画はおそらくまっっっっっっったく話題になることもなく、ひっそりと終わると思うがの、その原因は何なのかというと、考えるまでもないの」
主「この映画を80分近く上映されても、本当に楽しめるかというとそりゃあね。観客も安くないお金を払っているわけだし。毎週映画を見て、特にアニメは重点的に鑑賞している自分だったら、物は試しでお金を出すけれどさ、1年ぶりに映画館に行く人が見たいと思うような作品ではないよね」
亀「特に今は『君の名は。』や『聲の形』『シン・ゴジラ』やらがある中で、アニメ映画を見ようと思ってこの映画を選択はせんじゃろうな」
主「宣伝もほとんどしていないしね。というか、宣伝のしようが無いでしょ、この映画」
亀「絵は確かに素晴らしいがの。鳥やカニ、亀などはまさしく芸術のような動きじゃった。原画枚数も相当多いじゃろうし、技術力の高さはまざまざと見せつけられた形じゃな」
主「でも、それなら10分くらいの短編映画でいいわけでさ、これをエンタメというのには無理があるし、芸術作品として公開するには手間がかかりすぎているからね。採算度外視で作るほどの余裕が今のジブリにあるとは思えないけれど……」
亀「日本だけで作られた作品でないから、これまでのジブリ作品と同じようには語れないかもしれんが……
結局のところ、今回は『かぐや姫の物語』と同じことを繰り返してしまったような気がするの。高畑勲が目指した手法だったり、試みというのは確かに素晴らしい。この作品もその流れにあることは明白じゃし、素晴らしいが、それは一企業がやることでないじゃろう。
それがやりたかったら短編にするしかないと思うがの」
主「手法そのものはいいものだし、評論家は絶賛すると思う。だけどねぇ……お父さんと一緒に来ていた子供は退屈していたよ」
物語のメリハリ
主「言葉がないことによる最大の弱点ってここになると思うんだよな」
亀「どうしても物語に起伏がつきにくくなるからの。いや、物語性はあるがの、それが弱い気がするの」
主「結局のところ、背景もずっと暗めで光をあまり使わないわけじゃない? 明るい描写もあるにはあるけれど、それを強調するようなことはしていないわけだ。
まあ、そこが品があるとも言えるんだけど、それが物語にメリハリを生むことができなくなってしまっている」
亀「難しいバランスじゃな。あまりにも強調しすぎると、この語らない良さというものがなくなってしまうし、かといってこの作品のように強調することがないと、それはあそれで面白みがなくなってしまうの」
主「そう考えるとさ、試みとしては面白いよ。構想10年だっけ、それだけのものをかける価値はある。多分、10年後、20年後に『名作アニメ』として語られることになる。ほら、高畑勲とかに影響を与えた名作アニメの『木を植えた男』とかと同じ扱いになるんじゃないかな?
もしかしたら、2年後とかにDVDで見ていたら絶賛したかもね」
亀「娯楽としてメリハリをつけながらも、新しい表現を模倣し、エンタメとしてもある程度両立させるという難しいバランスをとったアニメとなると、何が思い浮かぶかの?」
主「それこそ今公開中の『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた 』になるんじゃない? 結構対の存在として、比較して語ると面白いだろうね。長編アニメーションでありながら、子供向けと大人向け、エンタメと芸術性という、ある種の相反する要素をしっかりとバランスをとって作られていたし」
外国では流行る?
亀「これは日本人むけではなかったがの、外国での評価は高そうじゃな。カンヌ国際映画祭では絶賛じゃろ?」
主「言葉がないから国を超えることができるし、むしろこういったアニメは娯楽としてアニメが発展した日本よりも、芸術として、表現形式の一つとして受け入れる余地の大きい海外の方が受けるかもしれないね。
その意味ではファンタジー性も含めて、時代、国境を超えた作品になったよ。ただ、興行的には難しいってだけでさ」
亀「こういった作品が日本で受け入れられる日が来るかというと……なかなか難しそうじゃな」
主「日本においてアニメって、宮崎駿もそうだけど『子供向けの表現』って意味合いが強いからね。大人向けアニメって言っても、実際は『オタク向けアニメ』になってしまっているからさ、こういうアニメが受け入れられる余地って、実はないのかもしれないかなぁ。
高畑勲もかぐや姫だけじゃなくて『ホーホケキョ となりの山田くん』があるけれど、あれもいい作品ではあるけれど、一般的には受け入れられなかったじゃない? テレビで放送したのも1回だけだっけ?」
亀「ジブリブランド自体が宮崎駿テイストを追いかけすぎていた中で、あえての高畑イズムに向かったのは評価できるがの」
主「日本アニメ界において宮崎駿の存在って大きすぎて、もう呪いと言ってもいい存在だというのが個人的な主張だけどさ、その呪いに一番縛られているのがスタジオジブリだからね。
それまで宮崎駿の後継者を生み出そうとして、結果的には……まぁ、失敗と言えるのかな。その路線変更のためにここまでガラリと変えてきたのはいいと思うけれど、この先どうするんだろうね?」
亀「鈴木敏夫も歳も歳じゃし、次を探さないといけないからの」
主「……ジブリブランド自体は存続して欲しいけれどね。これだけの作品を作り出せる製作会社ってそうそうないしさ」
最後に
亀「今回は暗い話が多くなってしまったかの?」
主「評価するのも、語るのも難しい作品だと思うよ。それこそ一本あるストーリーは誰にでも伝わりやすいけれど、その解釈自体は多種多様なものだし。結局、観客の感性に委ねる作品だからさ、どうこう論じるっていうのも意味があまりないんだよね」
亀「それがやりたかったじゃろうがの……」
主「う〜ん、ちょっと難解すぎたかなぁ……もう少し日を置いて……1年後とかの方が語れる気がする」
亀「しかしあれじゃの。亀が沢山出てきたのは良かったの。あの赤い亀も中々のべっぴんじゃったろう?」
主「ああ、あれね……今回は亀爺は出演していなかったの?」
亀「若い子が欲しいからと断られてしまった。だから、わしの娘を紹介したんじゃが……」
主「……あの赤い亀って亀爺の娘なの?」
亀「いや、そっちではない。そっちは隣に住む海子ちゃんの子供での、あの息子を案内する三びきのうちで一番のベッピンがわしの娘じゃ。赤いのと仲が良くての、近所じゃ評判じゃったわい……」
主(……生まれたての赤ちゃんを見た親の『うちの子が一番可愛い』みたいなものかな)
追記 祝! アニー賞受賞!
亀「アカデミー賞長編アニメーション賞ノミネートに続いて、アニー賞受賞か……比較的小規模な作品が対象というのもあるが、やはり海外、とりわけ欧米で評価される映画じゃの」
主「まあ、当然じゃない? 海外アニメって結構ああいう芸術性に溢れた作品が多いから……結局、日本アニメーションって、欧米と価値観が違うんだよ。アジアでは通用しても、欧米となると評価は少し下がるケースが多い。フランスは除いてね」
亀「これで本作の知名度もまた上がるの」
主「まあねぇ。
評論家受けはいいだろうね。だけど、一般大衆には届きづらい映画だと思う。面白いか? と問われると、エンタメではない、という回答になってしまうし。
賞レース狙いといえばそうだろうし。あと、アニー賞で押井守が表彰されたのももっと注目してほしいねぇ……」