アニメーション映画には注目しているけれど、この映画はよくわからないんだよねぇ
どうしてもピクサー/ディズニーとイルミネーションばかりに注目してしまうからね
カエルくん(以下カエル)
「宣伝もあまりしていないようだし、あんまり事前評価も聞かないかなぁ」
主
「だからこそ、先入観なく見られる良さがあるんじゃない?」
カエル「今回は行った映画館が吹き替え版しか上映していなかったため、吹き替え版の感想になります。
それでは記事を始めましょう!」
映画『スモールフット』予告【HD】2018年10月12日(金)公開
感想
Twitterの短評からスタートです!
#スモールフット
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年10月13日
素晴らしき大傑作!
本物の豪華声優陣による歌と映像美で目と耳も幸せなエンタメ作品…かと思いきや、実はとてつもない社会派作品
よくあるテーマかと思いきや、中盤以降は自分も答えが見つからない難問に真正面からぶつかっていく
伏線の引き方と回収も完璧、全ての人にオススメ! pic.twitter.com/sGO5x2DvKR
これは大傑作じゃないですか!
カエル「思わぬ掘り出し物だったけれど、そんなに褒めるほどなんだ」
主「近年のアメリカのアニメ映画はどうしてもディズニー/ピクサーが大きな注目を集めてしまう現状にある。そして、そのクオリティも間違いなく高くて、確かに素晴らしいと納得する出来の作品が多い。
何よりもメッセージ性がとても強いんだけれど、それが一方的な、ある種の結論ありきのものが多いように見えてしまい、自分は批判することが多い。
だけれど、本作は違って……もちろんメッセージ性がとても強いけれど、それを活かすために適当な悪役を作るなどはしていないんだよ」
カエル「Tweetでも書きましたが、中盤の展開などは本当に頭を抱えてしまうほどの難問で……まさか子供向けのアニメーション映画で、こう来るとは! と驚いた一面もあります」
主「そのテーマ自体は今ではありふれた、とても重要だからこそどの映画も取りいれているものばかりだ。この映画オリジナルのもの、というほど斬新なものではない。
だけれど、その見せ方がとにかく素晴らしい!
自分が何となく決めつけていた方向性ではなく、かなり捻ってくるんだ。
だからこそ、大いに悩む。
本当にこれでいいのか? 道は他にないのか? とね」
カエル「これだけ聞くとかなり難しい物語のようですが、もちろん圧倒的なエンタメ性も備えた作品だよね」
主「誰が見ても万人が楽しめるよう作品であり、子供だって一緒になって歌ってしまう部分もあるかもしれない。
大人だと世界的に有名な名曲のカバーもあって、ちょっとニヤリとするだろうね。
そういったエンタメ性があって、作り込まれたメッセージ性があって……いや、今年の海外のアニメーション映画の中でも、ここまで完成度が高い娯楽作品ってそんなに多くないんじゃないかな?」
5人? のイエティの個性も爆発!
(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
吹き替え版の感想〜とにかく豪華声優陣の歌唱力が素晴らしい!〜
今回は吹き替え版で鑑賞しましたが、豪華声優陣の歌唱もあります
普段吹き替え声優で文句を言いがちな人は是非劇場に向かって欲しい
カエル「本作はYahoo!映画によると公開直後でも全国で33館しか上映されていない、比較的小規模なアニメーション作品となります。
だからこそ……と言っていいのかわからないけれど、芸能人声優が一切いなくて、本当に歌の上手い人気声優を集めてきた、という印象だね」
主「作品自体はとても好きなんだけれど『SING』の吹き替え版で少しがっかりした部分でもあって、せっかくミュージカル映画に宮野真守を起用していてもほんの少ししか歌わなかったりね。今、歌唱力も含めて大人気声優のマモちゃんですよ!?
もちろん、MISIAやスキマスイッチの大橋卓弥の歌声だって素晴らしかったけれど、声優ファンとしてはほんの少しだけモヤモヤした気持ちを抱えたのを覚えている」
カエル「その点、今作は歌唱力も高く評価されている声優陣ばかりだからね。
主人公のミーゴを担当するのは、ジャイアン役でもお馴染みの木村昴。ヒロインのミーチーは早見沙織、人間で重要な役割を果たすパーシーは宮野真守と、歌唱力がとても高くてライブ活動も人気の声優陣ばかりです!
さらに、若手声優だけではありません!
声を知らぬ人はいないとされる立木文彦もその歌唱力を披露するなど、声優ファンには事件と言っても過言ではないでしょう!」
主「このメンバーが揃っただけでも、魅力的だよね。
世界各地で吹き替えされていることもあって、英語バージョン以外にも幾つか見比べてみたけれど、歌唱シーンも含めて全く見劣りしません!
もちろん、チャイング・テンタムやゼンデイヤなどの活躍する字幕版の方がいいという方もいるでしょう。
全国ほとんどの劇場が吹き替え版になるだろうけれど……でも字幕ファンでも納得してもらえるんじゃないかな?
満足度が高い作品です!」
欠点として
これだけ褒めていて、欠点はあるの?
僅かながらに、ね
主「これは本作特有のものではないけれど、特に歌唱シーンの歌詞の合わせ方が、ね。
ラップの場面になると、それがより顕著になってしまうから、せっかくの歌唱力や音楽シーンが吹き替え版はノイズになってしまった印象はある」
カエル「これはねぇ……もともとラップを日本語にすることだけでも難しいのに、作品世界観を壊さないで、メッセージ性ももたせたまま……となるとどうしてもね」
主「この部分だけはどうしようも無いのかなぁ……とてもいい作品だけに、ほんのちょっとだけ惜しいな、と感じた部分です」
カエル「それ以外は?」
主「えー?
自分は全く気にならなかったけれど、オチが弱いと感じる人はいるみたいだね。
そこまでの作り込みは素晴らしいんだけれどさ」
カエル「そういう意見はどうしても子供向けのアニメーション映画なら出てきてしまうのかなぁ?」
主「まあ、でもそんなところぐらいです。本当にイチャモンレベルの欠点だけ。
本作はとてつもなくレベルが高い作品であり、脚本に関しては今年最高クラスのものだと、非常に高く評価しています。
まあ、あれだね。
欠点らしい欠点は公開規模が小さいことと、宣伝が少ないこと、日本人に響く大きな売りがイマイチ少ないことくらいかなぁ」
以下ネタバレあり
作品考察
本作が描いたテーマ
では、ここからはネタバレありで語っていきます
本作が語ったテーマは、大きく分けると2つある
- 伝統と革新
- 差別問題と融和について
カエル「この2つの問題はとりたてて珍しいものではないし、むしろこの手の問題がない作品を探す方が難しい時代じゃないかな?
まず、1番の伝統と革新の問題は”ストーン(昔からの教え、習慣)を守ること”と”ストーンを教えを疑い、新しい世界に興味を持つこと”を中心に描かれています。
そして2番は主人公であるミーゴをはじめとした”ビックフット(イエティ)”と”スモールフット(人間)”の関係性を通して語られています」
主「この、ある種使い古されたテーマをいかに描くのか? というところで作品の味が出てくる。
そして多くの作品では”古い常識を捨てようよ!”と”差別は絶対ダメ! 話し合えば人は分かり合える”ということを描くことで、作品としてのオチをつける。もちろん、その主張自体は間違ったものではなく、子供向けのアニメーション映画ならば、むしろ満点の回答だろう。
ただし、それがあまりにも一面的過ぎるのではないか? という懸念もあるんだ」
カエル「こういうとなんだけれど、近年のディズニー/ピクサーの映画に手厳しいのはここが理由だったりするからね……」
主「はじめから解答が決まっているからこそ、そこに導くために問題を設定しているように見えてしまう。
適当な悪役を作ったり、あるいはご都合主義にも受けとれる展開を用意しているんじゃないの? それって政治的なメッセージ性を語りたいだけなんじゃないの? という違和感だって大いにある。
だけれど、本作はそのような違和感を全く感じなかった!
その理由をこれから説明していくね」
多くの作品では悪役になりやすいポジションのストーンキーパー
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悪者なき物語
本作の特徴の1つとして”悪者がいない”というものがあるよね
もしかしたら、これは大きなネタバレかなぁ?
カエル「作中では色々な考えの人がいて、立木文彦が吹き替えを担当する村の長老であるストーンキーパーは、とても頭の固い保守的な人です。
そして最初はミーゴもその保守的な教えを信じており、ストーンの教えこそが絶対! と信じていました」
主「ここで凡作であれば、ストーンキーパーを老害の悪役として描き、力自慢の息子を中ボスのような立ち位置にする。
でも、この作品ではそんな描き方は一切しない……だからこそ、本作は傑作たりえるんだ」
カエル「つまり、なぜその頭の固いストーンの教えがあるのか? というお話だよね」
主「……これは例として適切かはわからないけれど、偏見というのはどうしてもある。
そして、中にはそれは偏見ではなく、事実と思われるものもある。
例えば、日本では外国人に対する偏見があるけれど、海外のようにおおらかであったり、あるいは土地が広くて家が密集していない地域であれば、家でパーティを開いたりしてもいい。だけれど、日本では集合住宅も多いから、夜にパーティなどを開くとうるさくて迷惑だ、という現実がある。
その点を考慮すると、文化や習慣の違う外国人は入居拒否、というのは差別的な態度ではあるけれど、でもある程度仕方ないと受け止められやすい話だろう」
カエル「そして、その外国人入居拒否という文言だけが一人歩きしてしまい、それを止めよう! 差別はダメだ! となっても、現状は何も解決していないから、余計なトラブルが始まってしまったりして……それならば、外国人を受け入れない方がいいよね、という話になっていくわけだね」
主「本作はそういう部分をきちんと描いていて、なぜ閉鎖的な社会なのか? スモールフットを認めないのか? と言うと、それはイエティ社会を守るためなんです。
単なる社会の歯車だ! なんて若者が文句を言う作品などもあるけれど、その社会の歯車にも、一見意味がないような行為でもきちんと意味があり、文化がある。
本作では”なぜそこまでストーンを絶対視するのか?”という疑問に対する答えは、ものすごく納得します。
その理由は……誰よりも、人間が1番よく知っていることだからね」
知識の探求の物語
だけれど、ミーゴやヒロインのミーチーは真実を探求するんだよね
その姿勢がまた素晴らしいんだ
カエル「予告でも流れているけれど、スモールフットに関する資料や証拠となるものは少ししかない。だけれど、そこから間違っていたとしても、どのような世界なのか? ということを論理的に考えて答えを探そうとします」
主「今作は”マンモスの上にビックフットの世界がある”という中世のような世界の考え方がされている。
でも、すべてのものが下に落ちるということは、マンモスの下には何かがあるはずだ、という疑問を抱く姿勢……これは地球平面説から地球球体説に移り変わる様子を描いている」
カエル「予告ではトイレットペーパーを巻物だ! と考えてコメディにしているけれど、その姿勢でも自分は感動しました!」
主「ストーンに支配された旧社会に閉じ込められた者と、そこから脱しようとする新社会への革命児。当然のように、革命児は変人扱いされているけれど、それでもめげずに立ち向かう姿勢。
その他、多くのシーンで納得する描き方がされていて、自分は感動したし、だからこそ”この作品は旧社会の老害たちを、新社会の革命児たちが倒す物語なんだな”とミスリードした部分もある。
多分、それは製作者たちもミスリードさせようとしているだろうね。
本当に……褒め言葉として、すっごく意地悪であくどい映画ですよ!」
圧倒的な歌唱シーンも楽しい作品!
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知識の功罪
今作で強く印象に残ったのは”知識の扱い”についてかなぁ……
本当のことを知るのは、真実はいつも人にとって嬉しいものではない、という描き方だ
カエル「なぜストーンが閉鎖的な社会であるのかを知ったミーゴは悩み苦しみます。
その悩みは本当に切実なものであり、彼のとった行動は決して人から非難されるものではなく、むしろ多くの人が選択するものではないでしょうか?」
主「これは……アインシュタインを例にあげようか。
アインシュタインは核分裂反応の研究に貢献し、核兵器を作ることを大統領に進言した手紙を書いている。結果的に核兵器という最悪の武器を作ることにつながってしまい、晩年は悩みや後悔を抱えていたいう。
では、もしも歴史を遡り……その膨大な威力を知っていて、アインシュタインが核兵器を作ることに反対する、あるいは核兵器を止めるために、製造は不可能という嘘の研究結果を発表するというを道を選んだ場合、その選択を非難できるだろうか?」
カエル「……原子力に関する多くの研究が遅れていって、原爆などがなくなるかもしれない、という仮定だね。もちろん、アインシュタインの意見がどこまで状況を左右するかわからない家庭ではあるけれど、その場しのぎにはなるし、核兵器は製造不可だという嘘を流せば、その研究も行われないかもしれないかな」
主「世界レベルでは無理かもしれないけれど、一部地域レベルならば容易に真実の隠匿はできるだろう。
ミーチーたちは”真実の探求は幸せになる”と信じている。
だけれど、必ずしもそうでないことは、人間の歴史が証明している。
もちろん、核兵器がなければ核抑止力がなくなり、大国同士の戦争はより過激化して、第三次世界大戦が起こったかもしれない。原子力発電技術が生まれなくて、経済発展などが遅れるかもしれない。
少なくとも、ドラえもんの原動力は原子力ではないだろうね」
カエル「そういった難しい問題に正面からぶつかっていった作品なんだね……」
差別の先の融和の描きかた
本当に上手い作品だ、と連呼しているけれど、そのラストについてはどう考えるの?
もちろん、ある種のご都合的なものはあるよ
主「本作の脚本のうまさはもちろん上記のようなメッセージ性の強いテーマを上手く取り入れていることもあるけれど、その伏線の引き方と回収方法が本当に上手い。
ちょっとしたコメディ描写だったり……パーシーが初めてイエティに出会った時の反応や、彼が捏造をしてまでイエティ発見をしたかった理由、あるいはその方法も含めて非常に多くの伏線をさりげなく配置し、最後に回収している。
その描き方に、自分は鑑賞中に『上手い……』と思わず感嘆の声が漏れるほどだった」
カエル「だけれど、最後はちょっとご都合主義にも見えるという評判も聴くけれど……」
主「まあ、そうかもね。イエティたちの行動や理由も、人間たちの行動や理由もとても納得するものだし、それを覆すには弱かったかもしれない。
だけれど、その先を描くことがアニメーション映画ではとても重要でもある。
『結局融和なんてできませんでした、チャンチャン』なんて終わり方は、不可能なんですよ」
カエル「そりゃあ、そんな終わり方で納得はしないけれど……」
主「本作で連想したのは、今年公開した『映画クレヨンしんちゃん 爆盛! カンフーボーイズ拉麺大戦』なのね」
カエル「クレヨンしんちゃん自体は説明不要だと思いますが、本作は中国のカンフーを題材にしながらも、実は差別や才能などの社会的なテーマを取り入れた作品となっています」
主「まあ、そのラストって子供向けアニメ映画らしくご都合的、なんて言われることもあるけれど、でもその姿勢自体がとても大事なわけだ。
さらに言えば『スモールフット』に関してはそこまでのお話の流れが非常に丁寧だから、多くの人が納得すると思うんだよ。
特に、ミーゴとパーシーの欠点と課題をしっかりと描きつつ、成長を描いたからこその感動だってしっかりとある。
それを考えると……このラストだって感動するんじゃないかな?」
遊び心がいっぱい!
実はエンタメとしても面白い遊び心に溢れた作品なんだよねって話をしようか
見ている最中に何度も笑ったし、特徴的な描写があったね
カエル「例えば、今回パーシーが歌うのはQueen&デビットボーイの有名な楽曲である『Under Pressure』の替え歌などは、観ているこちら側も知っているからテンションが一気に上がるよね。
吹き替え版だと宮野真守が歌いますが、途中からスイッチが入ってのがわかるなど、単なる歌唱ではなく縁起として上手いこともわかります」
主「今回音楽を務めたヘイター・ベレイラは『怪盗グルーのミニオン大脱走』などのイルミネーション・エンターテイメント作品でも多くの音楽を担当している。そして、イルミネーションの作品は少し懐かしい楽曲を使うことで、大人にも届く作品に仕上げているんだ。
例えば前述の『SING』にはヘイターは関わっていないけれど、アンダープレッシャーを使用したシーンがあるし、そのノウハウを活かした形なんじゃないかな?
それと、原曲の歌詞がとても合っています」
カエル「簡単に説明すると、プレッシャーが多くかかるばかりで、色々なしがらみにがんじがらめ。あまり明るい未来が見えない社会だけれど、愛を忘れちゃいけないよ、もう一度信じてみないか? という歌だね」
主「正しくパーシーと、この映画を示した楽曲だよね。
それを替え歌とはいえ、使ったことで特別な意味合いが生じたよ」
カエル「それから、本作では世界的に人気なレトロゲームのオマージュなどもあったり、単純にドタバタ劇が面白いという非常に遊び心に溢れた作品になっています!
それがあるから、決して重いだけのお話ではなく、多くの人に届く作品になっています」
まとめ
では、この記事のまとめです
- 圧倒的な面白さとメッセージ性に心が震える完成度の高い作品!
- 人気声優の本気の歌唱も楽しめる吹き替え版もオススメ!
- 重いテーマを一面的に扱わず、しっかりと真正面から向き合う!
これはいい掘り出し物でした
カエル「劇場を出た後、キャリー・カークパトリック監督の関わった作品を全て調べたほどだもんね。これから順次鑑賞していこうと思います」
主「今年の年末に決める『物語る亀 年間映画賞 脚本部門』にノミネート決定だよ。子供向けアニメーション映画とは思えないほど、完成度の高さと色々な思いに心が打たれた。
それなりにアニメーション映画を見ているけれど、アメリカの作品ではこれ以上を望めないんじゃないかな? と思うほど、好きだし意義がある作品だと思います」
カエル「ぜひ観られる方は、音響の良い劇場で鑑賞してください!
今回、うちも非常に音響が良いことで有名な劇場で鑑賞したので、さらに評価が上がっているかも……」
主「多くの人に見て欲しい傑作だね」