物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『ガールズ&パンツァー 劇場版』感想と批評 なぜこれほどまでにヒットしたのか? その理由は『リアリティの無さ』にあった!

カエルくん(以下主)

「……あれ? 劇場版ガルパンについて、過去にも言及した記事があったような気がするけれど……」

 

ブログ主(以下主)

「あったね。うん、過去形」

 

カエル「……消したの?」

主「というか、初期の記事だからあまり納得のいかない記事でさ……どうせなら書き直したいし、それならいっそリメイクするよりも、1から書き直した方が早いような気がしてな」

カエル「まあ、途中まで書き上げていると、その形を重視しちゃうからそこから書き直すのって意外と大変だしね」

主「そう。あれよ『スクラップ&ビルド』ってやつよ。こうしてブログというのは発展していくものさ」

カエル「……使い方が若干違う気がするけれど、まあいいや」

 

 

 

 

 1 なぜこれほどのロングランになったのか?

 

カエル「それにしてもロングランが続くよね。もう公開開始から1年以上経つのに、さらに爆音上映とか4Dとか再上映もある人気の作品だよね

主「それだけの人気が出るのもわかる気がするしな。好きな人はもう2桁くらい行っているんじゃない?」

カエル「主は何回見たの?」

主「2回。初見の時は友人にオススメされて、半ば嫌々見に行った。テレビシリーズも見ていないのに、総集編ですらない続編を見に行って、面白いわけないだろ? って思っていたよ。

 そんで、そんな思いを木っ端微塵に粉砕されて『すみませんでした!!』って言いながら映画館を出てきたわけですよ」

 

カエル「……はた迷惑な客だね」

主「そうだけどさ、でもそれまでは『可愛い女の子萌え〜』な作品だと思っていたわけ。テレビシリーズも……実は最初の5分だけ見たけれど、戦車と女子高生の組み合えあせに『あー、はいはい』って思って観るのを辞めちゃったのもあるし。その時期は萌えに対して食傷気味だったのね。

 だけど、そういう人間に、しかも劇場版だけ見て受けるというのが如何にすごいことかって話だよね。元々オタクとはいえ、趣味が違うんだからさ」

 

カエル「こち亀の秋本治もハマっていたし、萌え好きだけでなくてミリオタからも支持されているもんね」

主「そういう魅力があるというのと、あとはやっぱり音といい、演出といい、色々な上映形態にマッチしているんだよね。4Dで最寄りの劇場でやってくれたら、今でも一目散に駆けつけるしさ、2度目に鑑賞したのも高音質で上映してくれたからなんだよね。

 ここ数年で一気に映画館のアトラクション化というか、3Dや応援上映やらと色々と鑑賞形式が増えたけれど、それにマッチしている映画でもあると思う。だからこれだけのロングランが続くんだろうね」

カエル「同じアニメでも『君の名は。』とか『聲の形』だったら応援上映とかやりようがないもんね」

 

 

2 リアリティラインを徹底的に下げる演出

 

カエル「まず、ここまで受けた理由の一つは間違いなくこの『リアリティの無さ』だよね」

主「ガルパンって設定自体はガバガバなんだよ。まず『戦車道』っていう設定自体がおかしいじゃない? 女子のたしなみが戦車で、花道、茶道と並ぶという設定がおかしいわけ。

 さらに街中を次々と破壊してさ、空砲とかでなくで実弾で戦闘しているわけでしょ? でも、すべて『特殊なカーボン』によって搭乗員は無事。さらに言えば、戦車から顔を出しても絶対に当たらないという安心感がある」

 

カエル「本当、設定だけ見たらツッコミどころ満載なんだけどさ、それを指摘したら指摘した人が恥ずかしいみたいなところってあるもんね

主「多分、制作サイドにそれを言っても『だからなに?』で終わると思うし、ファンも含めて一同そういう反応すると思う。自分でもそうする。

 この作品はそういう……リアリティのある描写などを一切避けることによって、よりエンタメ要素を増して徹底的に面白くしているんだよね

 

カエル「その意味では……この意見自体は賛否があると思うけれど『マッドマックス 怒りのデス・ロード』と同じだよね。あれもリアリティを排除して、徹底的にエンタメに終始した結果、異常なクオリティとハイテンションムービー、さらにコアなファンを獲得するというね」

主「自分なんかが鑑賞しても同じような感想を持った。マッドマックスはレンタルでDVDで見ちゃったけれど、これを映画館で見たらすっげえ興奮したんだろうなぁ」

 

 

blog.monogatarukame.net

 

擬似的な戦争

 

カエル「で、そのリアリティを下げた先にあるのが、この擬似的な戦争ってやつなの?」

主「そう。ガルパンの劇場版って、結構見方によってはシリアスなシーンもあるのよ。ブラウダ高校の面々がリーダーを1輌残して華々しく散る場面とかは、戦争映画だったら号泣ものだよ。今まで共に戦ってきた仲間が……! っていう場面だし。

 もちろん、散った彼女たちは命を落とすわけではない。所詮はゲームだし、さらに言えばご都合主義的な設定により、必ず生きていることは保証されているんだよ。だから、本来は徹底して『死』という現実がない以上、感動するわけがないんだ

カエル「まあね。アバン先生みたいに死んだと思っていたら生きてましたっていうのは、結構賛否がある演出だからね」

 

主「だけど、事前の設定において彼女たちは必ず無事であるということが示されている。それでも感動したり……あるいは、高度なギャグとして成り立つわけだ。

 こうすることによって、ある種の1つの疑問が生じてしまう」

カエル「……疑問?」

主「つまり、戦争ものにおける死というものは必要なのか? という疑問だね」

カエル「……まあ、元々物語自体が嘘っぱちなわけで、それでも感動するというのはおかしな話だからね」

主「そう。特にアニメなんて、実在しない青少年、少女たちの生死に感動するというのは、端から見ているとおかしいわけだ。だって、実際に存在しないわけだから。

 だけど、それでも感動するということは……そのアニメキャラクターというのは、そのファンの心の中には実際に存在するということなのかもしれないね。

 そして、それであるならば、実は作中における死というのは関係ないということの証明でもあるのかもしれない

 

カエル「……え〜と、もっと簡単に言うと?」

主「つまり、これだけエンタメとして、そしてありえない設定のもとに作られた物語だと、そのご都合主義によって生き残るのが確定していても感動するってことなんじゃないかってことだよ。

 だから、物語においてリアリティラインが非常に重要というのは、これでもわかると思う。重要なのは、その作中で死ぬことであったり、リアリティのある描写ではなくて、生きていてもいいから納得のできる演出なんじゃないかってこと」

カエル「……う〜ん、わかったようなわからないような」

 

3 破壊の享楽

 

カエル「これは……宮台真司が語っていた、シンゴジラがなぜ流行ったのかということに関してだね」

主「そう。簡単に言えば我々が見知った光景が簡単に破壊されていく姿、そこに『破壊の享楽』という快感があるのではないか? という論理だね。

 シンゴジラでいうと、圧倒的なリアリティのもとに見知った街が……鎌倉や東京が破壊されていく。地方の人でもテレビなどでよく見る光景が壊されていく。その光景にこそ、快感があるという論理だね。まあ、個人的にもわからないでもないんだけど」

 

カエル「じゃあ、主はこのガルパンにも破壊の享楽があると?」

主「そうなんだけど……面白いのはさ、この破壊の享楽って本来『圧倒的なリアリティ』とセットに語られるべきものなんだよね。そうじゃないと、単なる特撮番組で終わってしまうから。

 そういったリアリティのある光景が破壊されていく、その姿に快感を感じるわけで、リアリティがないと単なる破壊劇だったり、爆発劇になるわけよ

カエル「……でもガルパンはそのリアリティラインを徹底的に下げているんでしょ?」

 

主「そう。そもそも、アニメという絵が動く表現手段だから実写などに比べるとリアリティは元々薄いんだよ。その分、批評の目はだいぶ緩くなる。

 ほら『君の名は。』とか『カリオストロの城』とか、他のジブリアニメも含めてもいいけれど、相当に嘘が多かったり、脚本の粗がある名作って多いじゃない? 多分これって、アニメという表現手段がそういった『リアリティ』という評価を一段下げることによって、評価が甘くなるところがあると思う。

 で、このガルパンはそのリアリティラインを、アニメの中でも珍しいほどに下げている。だけど、そこには破壊の享楽があるわけだ」

 

破壊の享楽に関して詳しくはこちら

 

blog.monogatarukame.net

 

 

冷静に考えるとおかしな反応

 

カエル「そのリアリティがない表現として上がるのが、街の破壊であったり、遊園地を舞台にした戦い、そして観覧車が転がるなどの場面だね」

主「しかもその登場人物たちはそのことに何の躊躇もないし、むしろ単なる障害物程度にしか思っていない。破壊された店主などもむしろ喜ぶでしょ? 本来ならばありえないんだけど、それでも『破壊の享楽』は宿るわけだ。それは不思議といえば不思議な話なんだよね」

カエル「それは……ある種でリアルだから?」

 

主「多分、徹底的に下げられたリアリティラインによって、ご都合的な部分というのは見えにくくなっている。見えても脳内で勝手に『そこに突っ込んだら負けだ!』ということになっているんだよ。

 だけど一方で……例えば音響だとか、戦車の動きだとか、戦術とかというのはある程度リアルに出来ている。そこでリアリティがあるからこそ、勝手にリアリティラインの引き上げが観客の中で引き上がっているんだろうね」

カエル「……エンタメとして振り切ったことで、逆にリアリティがある話になっているの?」

主「音とかリアリティがある部分をより強調している。だからミリオタと呼ばれる人もハマるんじゃないか?

 多分、自分みたいなストーリー云々だとかいう人間は一番ハマリにくいと思う。あとは評論家とか。そういう細かい部分を見ていく人ほど、本来はハマリにくいけれど、この作品はすごく……こだわる部分と切り捨てた部分が極端にあるからこそ、逆に切り捨てた部分が目立たなくなっているんだろうね。これはまあ、すごいことだよ」

 

 

4 音響と音楽

 

カエル「今回はいい音響で聞いたんでしょ? その感想としてはどうだった?」

主「やっぱり面白いし、とんでもない作品だなって思わされた。最初に流れる3分の説明によって、まずこちらにその世界観の説明と共に違和感なくのめり込まされるんだよね。

 ここもいっそ思い切った選択だなと感心した。普通はさ、登場人物を出してモノローグとか、説明ゼリフで説明するところを、もう『振り返りコーナー』として成立させてしまったんだから。

 これは一周回って……トンデモナイ大英断だし、ここでまずリアリティラインの引き下げに成功していると思うよ」

 

カエル「そして何よりも音だよね」

主「もちろん、戦車の音や砲撃の音などもすごいし、迫力がある。そこである種のハッタリが効いているし、エンタメとして満点の出来だよね。

 あとはやっぱり劇伴だよ。最初の整列して進軍している時に流れる音楽とかはその映像とともに『大脱走』を思い出すんだよね。ここいら辺も往年の映画ファンに向けてうまいなぁ、と思わされた。

 何よりもマーチだよね。やっぱり、戦争映画といえばマーチなわけじゃない。あの底なしの明るそうなテーマがより悲壮感を誘うのも一つの手法だと思うけれど、本作の場合は本当に明るいんだもん。だからさ、よりエンタメ要素が引き立つんだよ」

カエル「ある意味、正しいマーチの使い方だよね」

 

 

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各国の音楽たち

 

カエル「それでいうと各学園のテーマソングなども練られているよね」

主「明確な原曲とかはわからないけれど、なんとなく『ぽい音楽』ってあるわけじゃない? 北欧っぽいとか、アメリカっぽい、ロシアっぽいって奴。その万人が共通して持っている……なんとなくのぽさを見事に表現しているよね。

 それがさらに各学園のキャラクターの良さも引き出しているよ」

カエル「劇場版でいうと『おいらポコだぜ!』の音も良かったしね」

主「あそこも水島努らしい演出ではあるけれど、それがいい……ガス抜きにもなっているんだよね。

 構成としては見事な3段構成で、最初の戦闘、日常のドラマパート、ラストの戦闘というもうはっきりとわかりやすい構成。で、その中でも飽きやすい日常パートにこう言う音楽を入れることで、バカバカしさを演出しつつ、重すぎないように配慮している。

 多分、これがないと廃校の話だったり、家族の話で相当重くなると思うよ」

 

ラストの音の演出

 

カエル「これは……何?」

主「『最後の15分ですべてが決まる』というセリフがあるけれど……これって、さすがに15分ではないけれど、映画としてもそうなんだよね。

 ラストの……5分くらいかな? そこはセリフもほとんどないし、ほぼ戦車の絵とキャラクターと、音楽で見せてくる。これは相当思い切った決断だよね」

カエル「さらに、本当に決着がつくラストの1分ほどはその音楽もないしね」

 

主「だから、多分この作品の『主役は戦車である』ということを熟知している制作陣だと思った。ここって、それまでとは打って変わって、余計な演出……例えば音楽とか、ドラマとか、台詞とか、そういうものを一切排除している。あるのは徹底して戦車の音と絵の迫力だけ。

 それまでの……下げられたリアリティラインのエンタメ重視の中でも、ここだけはリアリティラインを一気に引き上げたというか、無骨な演出で全てを表現しているわけだ。

 つまり、それまでの100分以上はこの5分……さらに言えばラストの1分のための撒き餌でもあったわけだな

 

カエル「そう考えると相当に練られた作品だよね……」

主「リアリティラインの設定が非常に大事だということはわかってもらえたと思う。そして、それをはっきりと裏切る……もちろん、いい意味で裏切る演出のためには、こう言う演出が極めて大事なんだよね」

 

 

最後に

 

カエル「でもさ、主の中では2015年度のアニメランキングでは4位なんだよね? これって一体何で?」

主「まあ、そこまで深く見ていなかったというのもあるし、好みの問題もあるし、テレビシリーズを初見時は見ていなかったからあのオールスター感がわからなったこともあるけれど……色々と文句はあるからさ」

カエル「文句?」

 

主「まず、撃墜された戦車が敵なのか味方なのかわかりづらいのと、いつの間にか撃墜されているメンバーもいるように見えたこと。あとは撃墜と修理可能の違いが結構わかりづらいかな。

 これが5対5とかの戦いだったらだいぶわかりやすいと思うけれど、30対30となると、もう両軍グッチャグチャに入り乱れているし、わかりづらくなるのは仕方ないと思うけれど、初見には辛かったかな」

カエル「そこまで初見向けの映画でもないしね」

主「個人的に戦車ってそんなに興味がないのよ。車も軽自動車と普通の車との見た目の違いってナンバープレートの色だけだと思っているし、多分トヨタとか日産とかのすごく大きいメーカーの有名ブランド車を見せられても、全部同じに見える人間だから」

カエル「あれだ。『アニメキャラって全部同じじゃない?』っていうお母さんとかと同じだ」

主「そうそう。電車も飛行機も新幹線も全然違うんだろうけれど、全部同じに見える。だから、機械を見るセンスが0なんだよ、きっと。

 でもそんな人間でも楽しめたというのがすごいところで……だからこそ、これだけ大ヒットしたんだろうね」

 

カエル「なるほどねぇ……このロングランはまだまだ続くだろうね」

主「最終章も決まったし、それもまた期待だな」

 

 

ガールズ&パンツァー 劇場版

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