物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』感想と解説 シリーズ1作目としては文句のつけようがない! ネタバレあり

カエルくん(以下カエル)

「このブログだとこういう海外のCGがすごい大作映画って、実は結構珍しいよね。邦画だとよく見るけれどさ」

 

ブログ主(以下主)

「普段アニメをたくさん見ているからかな? 実写までアニメみたいな世界観の作品じゃなくていいやって思ってさ」

 

カエル「実は『ロード・オブ・ザ・リング』もみたことがないんだよね。映画館で見ないと面白さ半減だし」

主「それこそ、ハリーポッターも『ハリー・ポッターと賢者の石』は映画館で見て、3作目のアズカバンの囚人までは本で読んだけれど、その先って読んでないんだよね。映画も前後篇で、原作もすごく長くなってくるし。読むと面白いんだろうけれどね」

カエル「今回はそんな……ハリーポッターシリーズに詳しくない人間の感想ということになるね

主「新シリーズだし、その手の意見も貴重でしょ? ということで不勉強に対して自己弁護するとして……じゃあ感想記事を始めようか」

 

 

 

 


映画『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』新映像 

 

あらすじ

 1926年のアメリカが舞台。魔法動物学者ニュート・スキャマンダー(エディ・レッドメイン)は、魔法動物の調査と保護のためニューヨークへと降り立った。

 そんな中、ふとした拍子に魔法動物のうちの1匹が逃げ出してしまう。その騒動はなんとか収まるものの、その際に知り合った一般の人間(ノーマジ、マグルともいう)と鞄が間違われてしまし、魔法動物たちが逃げ出してしまう。

 ニュートはその魔法動物たちを回収するために、現地の魔法使いティナ(キャサリン・ウォーターストン)と共に街中を探し回るのだが、その裏では恐ろしい陰謀が蠢いていた……

 

 

1 ネタバレなしの感想

 

カエル「まずは大雑把にネタバレなしの感想だけど……面白かったね!

主「きっちりと作り込まれていて、さすがに上手い作品だなぁ、と感心したよ。よく CGの凄さばかりが語られるけれど、やっぱり脚本の構造、テンポ、リズム感、テーマ性、暗喩、それから続編を作る際の伏線張りと、過去作のファンへのサービスシーンなどもあって、こういったシリーズ物大作のお手本になる作品じゃないかな?

 

カエル「シリーズのファンがどう思うかはわからないけれど、初見でも全く問題ないしね!

主「あとは設定とか、キャラクター配置なんかも絶妙だよね。個人的には、抱いた印象と少し違うところもあって、そこは気になったけれど……それは後々語るとして、おそらく劇場にお金を払って鑑賞する分にも、損を感じない作品となると思うよ」

 

カエル「映像も迫力満点、音楽も良かったし、飽きる展開とか、ダレたシーンもこの尺にしては珍しく、そこまで多くないんじゃないかな?」

主「あくまでもエンタメとして徹しているし、新海誠じゃないけれどお客さんを飽きさせない工夫で満ちた作品だと思う。これは続編が出ても見に行くし、多分大コケしないんじゃないかな?

 逆に言うと、手堅すぎて……って印象もあるぐらいかな

 

 

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字幕版? 吹き替え版? 3Dはどうだろう?

 

カエル「今回主が見たのは字幕版だけど……この作品はどのバージョンで見るのがいいのかな?」

主「自分は字幕版しか見ていないけれど……声優ファンとしては、吹き替え版で見たいなぁ、という印象かな。

 主人公を演じているのが宮野真守でさ、これがまた、宮野真守のイメージに合いそうなキャラクターなんだよね。少し天然でオトボケっぽいけれど、やるときはやるというさ。

 他にも伊藤静、遠藤綾、津田健次郎、平田広明などもいるから、こういった声優が好きだったら吹き替え版でもいいかもね。映像に集中できるし、時間が合わなかったから字幕版にしたけれど、今から選べるなら吹き替え版にするかな?

 

カエル「それと3Dとかはどう?」

主「今回は音響のいい劇場で2Dでみたけれど、印象としては3D向きの映画だと思う。あと、音もこだわっているし、BGMなどもいいから、お金があったり都合がつくならIMaxとか、3Dで観てもいいんじゃないかな?

 ただ、ちょっと画面の揺れがあるシーンが多い印象だから、酔いやすい人は2Dが無難かも。自分はちょっと酔ったかな」

カエル「CGの演出でカメラが動いていたからね。それもいい工夫ではあるけれど、少し見にくかったかな?」

 

主「ただ、当然のように残虐な描写もほとんどないし、子供が見ても楽しめると思う。ファミリー層、カップル、お一人様でも楽しめる映画に仕上がっているよ」

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

2 序盤について

 

カエル「じゃあ、ここからネタバレありで語っていくけれど……」

主「まず、こういったSFだったりファンタジーのような特殊な世界観の作品って、どうやって映画の中の世界に引き込むか、というのが大事なんだよね。現実を忘れてもらわないといけないわけじゃない?

 そこを考えた場合、この映画はやっぱりうまい。

 今のハリウッドらしい、手堅い技術かもしれないけれど、しっかりと固まった作品世界で演出してきた印象だな

 

カエル「まず、ロゴが出てタイトルが出るじゃない? あそこからもう作品世界に没入できるもんね」

主「この例で語るとすると、やっぱり上手いのが『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』でさ。あれも、大音量の音楽で一気に盛り上がって、そこで字幕がサラリと流れて作品世界の説明をするわけじゃない? 

 簡単に言えば、音楽と演出でハッタリを効かせて、文字を読ませることで集中させるのよ。そのまま作品開始となって、一気に世界観に引き込むわけ。

 この映画も同じ。そのやり方が新聞の文面だったり、タイトルのロゴだったりということで独自性を出しながらも、やっていることは世界観の説明と没入させるためのハッタリなんだよね」

 

設定のうまさ

 

カエル「この1926年という時代設定もうまいよね

主「ハリーポッターシリーズを全て見た人に少し聞いたけれど、魔女狩りが起こる前とかなんでしょ? よくは知らないけれど、ハリーポッターの前の時代というのはわかる。

 もちろん、その作品世界とのリンクも……ダンブルドアとかさ、ホグワーツとかもファンならニヤリとするいい部分だけど、もっとうまいなぁと思うのは、この1926年のアメリカという設定だよね

 

カエル「……というと?」

主「現代のアメリカで魔法を使うとかなり浮いてしまうと思うんだよ。

 あんなビル群でさ、しかも監視カメラやら記録媒体やネットがある中では、魔法というものがあまり活きてこない。携帯電話やスマホだって、考えてみれば魔法みたいな技術だし。

 だけど、それを1926年とすることによって、そのような科学的にまだ発達する前の時代だから、魔法の万能性が保たれるわけだよね

カエル「銀行強盗とか、宝石泥棒とかやっても証拠も消せればカメラにも残らないわけだからね」

 

主「もちろん、科学以外の分野でも現代のアメリカだと魔法というファンタジーが浮いちゃうんだよ。

 この作品は劇中、ずっと魔法を使って、それが当たり前にある社会だ。ということはリアリティを下げてやらないと、現実のアメリカだったり街中を連想させるから、作品世界に酔わせてくれない。どこかで冷めてしまう描写になる。

 だけど、1926年は約100年前とかなり古いけれど、古すぎないからさ、なんとなく魔法が存在しそうな……神性が残ってそうな雰囲気もあるし、だけど古すぎないから現実の延長線上にある気もするという、絶妙な距離感だよね

 

 

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1926年という時代

 

カエル「この時代に意味があるの?」

主「1926年のアメリカというと……まあ、アメリカだけじゃないけれど、世界中が混迷の時代だったわけだ。第一次世界大戦が終わり、ギリギリ大恐慌の前にあたる。

 さらに言えば禁酒法時代でマフィアが活発化したりと、治安も安定してない。教会も力をさらに強大にしているから、対立するであろう魔法使いとしたら厄介な時代だよね。

 そういった、様々な要因が複雑に絡み合っていく時代が1926年なんだよ。だから、この時代で魔法使いが云々とやっても、社会情勢とも絡めることができるし、発展性は他の時代に比べて非常に大きいと思う」

 

カエル「ここから10年後だと第二次世界大戦の影が見えてきちゃうしね……」

主「混迷の形がまた違うからさ。どうなるかわからないけれど、まだどうにかなりそうな雰囲気も漂わせている時代……それが1926年だと思う。

 だから、これはおそらくJ,Kローリングの発案だと思うけれど、抜群に上手いよね。感心した。これは流行るのも納得だわ」

 

 

 

 

3 キャラクター配置

 

カエル「今回のキャラクター性も良かったよね」

主「今回は主人公が魔法使いでも、動物を専門に扱うというキャラクターになっている。彼の優しさだったり、天然ボケなところ、やるときはやる性格なども含めて、人気が出そうだよね」

 

カエル「そして何よりもヒロインにあたる……と言っていいと思うけれど、太った一般人のジェイコブだよね!

主「つまり、この世界における我々一般大衆の鏡となるのが、このジェイコブなわけだ。

 彼が感じたこと、驚きだったり、焦りだったりというものは、我々観客と同じような反応になってくれる。この映画における案内人が主人公のニュートであり、そこで案内されるのがジェイコブであり、ひいては観客であるというわけ。

 うまい作りだよね」

 

カエル「あとは魔法使いと一般人の対比も良かったよね!」

主「この映画において……魔法使いと一般人の対比って、考えてみると白人と黒人的だな、と思ったわけよ。どちらがどっちということもないけれど、お互いに確かな壁があってさ。一般人は魔法使いの存在を知らないけれど、魔法使いからしたら……ノーマジとかさ『怒らせると何をするかわからない』という発言一つ取っても、どこか上から目線で気になる部分があるのね。

 こういった、明確な壁があることが、ある意味では『差別』とか『分かり合えない』といったようなテーマ性を含んでいるのかな? なんて思ったり」

 

カエル「だからジェイコブのラストがああいう形になったわけだ」

主「お互いの文化が入り混じった後で、繁盛する店というのが『文化の融合の先にある融和、繁栄』という象徴だとも思った。

 その意味でもいい作りだと思うよ」

 

 

 

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少しだけ苦言を

 

カエル「苦言というか、誰もが思うだろうけれど……あのヒロインにあたるのかな? 女性のティナって、必要だったのかな?

主「う〜ん……わずかにうまくいっていないなぁ、と思わされたのが、このティナの扱いなんだよね。

 結局彼女は最後まであまり役に立たなかったし、窮地に陥れるだけの存在だったように見えちゃう。もちろん、ラストの対決では少しだけ意味があったけれど、あのラストだと、単に足止めしただけだからさ。

 彼女が救いました、だったら意味があると思う。だけど、そうじゃないし……単なる『アメリカ側の案内人』以上に意味を見出せなかったかな。そこは減点」

 

カエル「キャラクターに関してはそれだけ?」

主「いや、あとは……先に挙げた『文化の融和』という観点を挙げるならば……まあ、これも勝手に言っているだけだなんだけどさ、もう少しジェイコブが必要だった場面が欲しかったな。

 特にラストの対決で、彼は何もしていないじゃない? 彼が最初に孵化させた動物だったり、仲良くなった動物が窮地を救ったりとか、敵を倒すヒントを思いつくとかがあれば、仲間感やチーム感がもっと出たと思う。

 結局はただのカバン持ちで終わっちゃったのは残念かな? でも、個人的には好きなキャラクターだけどね」

 

 

 

 

4 卓越した脚本構成

 

カエル「ここは最初に語った『飽きさせない工夫』の場面だね」

主「基本的にはこの映画って、3段構成だと思うのね。

 

 冒頭から魔法動物が逃げ出し、トランクの中に確認にいく1幕

 魔法動物を追いかけて、トランクの中に連れ戻す2幕

 敵との戦いとラストまでを描く3幕

 

 となっているわけだ。この映画は全部で133分だけど、大まかに構成を話すと、1幕で50分、2幕で50分、3幕で30分くらいを使っていると思う」

 

カエル「体感で正確な時間ではないけれど、多分そのくらいかな?」

主「さらに細かく話すと、1幕の中でも銀行で大暴れをするアクションを入れる。これが多分スタートから20分から30分ぐらいじゃないかな?

 そして2幕では拘束されて逃げ出す場面や容器なバーの店内をちょいちょいと挟むことによって、ダレさせるのを防いでいる印象があるのね。

 これだけの尺があると、一番ダレやすいのはやっぱり2幕なわけよ。そこをちょこちょことアクションだったり、歌や音楽を入れたりとすることで、あまり飽きさせない工夫に満ちている印象がある」

 

カエル「あー、そう考えるとうまい作りなんだね」

主「最後は約20分ぐらいを使って大団円としているけれど、これもうまいと思うよ。構成がすごくしっかりとしている」

 

 

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続編を意識した作り

 

カエル「やっぱり続編を作る気があるのかな?」

主「すごくあると思う。それは、この映画の基本的な作りを見ればなんとくなくわかるんだよ。

 この映画で起こる事件は2つ。

 1つは魔法動物が逃げ出したということ。もう1つはあの悪の魔法使いの登場だ。

 で、この映画でうまいのは、この作品の主題は『魔法動物を追うこと』に終始していることだよ」

 

カエル「確かにあの悪の魔法使いとかは、そこまで掘り下げられなかったね」

主「これはハリーポッターと賢者の石が、シリーズの第1作目だからホグワーツの説明だったり、魔法世界の説明を多くすることによって、ヴォルデモートや悪との対決を少し少なめにしたのと同じ。

 大事なのは、魔法世界の説明だから。

 シリーズでいうとまだまだ序盤なの。

 だから本作は魔法動物の説明と、その世界観の説明に終始して、そのほかのことは少し後回しにした印象がある。これは続編を意識した、うまい作りだよ」

 

カエル「ここで一気に悪役を強力な相手にすると、続編が困るもんね」

主「確かにあの悪役は捕まったけれど、あんなのいくらでもお話が作れるじゃない。だけど1作目ですごく強力な相手を生み出してしまうと、次の作品でさらに強力な相手、その次でさらに……とインフレが止まらなくなる。

 だから今回はニュートの失態が原因として、魔法動物を追うことを主軸とすることでこれから先の成長も描けるし、魔法動物の説明もして、さらに愛着も持ってもらえる作りだね

 

カエル「ニフラーだっけ? あの光るものが好きな動物とかも可愛らしかったしね」

主「一匹くらいはお気に入りが誰でも見つかるんじゃないかな? これだけ出して、人気が出たやつをマスコットにすることもできるし、シリーズで作ることをすごく考え抜かれたうまい作品だよ」

 

 

最後に

 

カエル「今回はベタ褒めになったね!」

主「シリーズ物の1作目という評価で言えば、ケチのつかない作品じゃない? 

 少し手堅すぎて挑戦という意味で面白みに欠けるキライもあるけれど、これだけの大作だから冒険したくないのもわかるし。

 映画単体としては……若干のツッコミどころや、物足りなさもあるかもしれないけれど、概ね満足いく出来だよ」

 

カエル「続編が出たら間違いなく見にいくもんね!」

主「本当にうまい作品だから、この後も心配いらないと思う。

 なんというか……JKローリングがどこまで映画に絡んでいるかわからないし、前作も読んでいないけれど、この構成だったり作りというのは確かに素晴らしい。天才的だとも思う。

 これだけ人気が出るのもよく分かるよ

 

カエル「あんまりファンタジーは得意じゃないもんね」

主「大作ファンタジーも傑作がやっぱり生まれるんだなぁ……

 これは過去に話題になった作品も見るべきかな? すごく勉強になったよ、この作品」

カエル「やっぱりハリウッドはレベルが高いね」

主「日本もこのクラスの脚本構成のうまい映画が出てくればいいのにな……大作ほどダメになるから……」

カエル「はい、愚痴はなしでね! ここで終わりにするよ!」

 

 

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『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』魔法映画への旅

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ユリイカ 2016年12月号 特集=『ファンタスティック・ビースト』と『ハリー・ポッター』の世界 ―J・K・ローリングと魔法とファンタジー―

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