(C)2018「ビブリア古書堂の事件手帖」製作委員会
大ヒット小説シリーズの劇場版作品が公開です!
テレビドラマとはキャストも一新したんだね
カエルくん(以下カエル)
「結構流行ったよねぇ。それこそ、小説を買って読んでしね」
主
「あの装丁を見た瞬間に『あ、これ売れるんだろうな』ってはっきりとわかったよ。
実際その通りに売れたし……アスキーメディアワークス文庫最大のヒット作だしね」
カエル「ラノベ作家だった三上延の代表作だもんね。
本作も確かにラノベらしさも残しつつ、一般小説として多くの人に受け入れられる作品に仕上がっているね」
主「本好きにはたまらない知識なんかも多くて、流行るのもよくわかるよ。
自分は1巻しか読んでないし、だいぶ前の知識だからほぼ初見みたいなものだからほとんど忘れちゃったなぁ……
映画もいい感じに初見のように楽しめるかな?
では、感想記事を始めましょう!」
感想
ではTwitterの短評からスタートです
#ビブリア古書堂の事件手帖
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年11月1日
好きです、この映画
小説を題材にしているだけでなく、本への愛に満ちている。あんまり気がつかれないだろうなぁ、という小ネタにもあふれていた
特に黒木華が過去最高に魅力的! 肌をほとんど見せていないのセクシーで大人の文系女性の方が色気に溢れていた pic.twitter.com/EMumzmV722
これは小説が重要なアイテムになる作品だからこその映画でしょう!
カエル「ちょっと地味な印象もあったけれど、本好きにはたまらない作品だよね。
もちろん、登場する作品たちも有名どころだから、小説に普段触れない人でもわかりやすい物語になっているし……」
主「何よりも小説に密接に繋がった演出がなされているんだよな。
全体的に淡白な印象もあるから、もしかしたら気がつかれないかもしれないけれど……」
カエル「ネタバレしない程度だと例えばどんなところ?」
主「この作品に出てくる東出昌大演じる田中嘉雄という男がいるんだけれど、そのファッションは太宰の服装をモチーフにしているんだよ。
だから、この写真を見慣れている人は、東出昌大が出た瞬間に『あ、あれは太宰がモデルか、彼に強く影響を受けているな』とはっきりとわかるんだよ」
映画内の服装
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有名な太宰の写真の1つ
カエル「……いや、でもこれって普段本を読まない人や、太宰の写真を探したりしないとわからないよね?」
主「そりゃそうだ。
だからこそ、本作はそのような『本好きならばわかるような演出』に溢れているんだよ。だけれど、それを過度に説明することなく、さらっと演出してしまうからわからない人には全く伝わらない。
他にもミステリーとしても重要な演出もあり、自分はそこも震えたけれど、多分伝わらないんじゃないかなぁ?」
カエル「そういうこともあって、ちょっと地味な印象もあるよね」
主「文芸映画とエンタメ映画のちょうど中間という印象かなぁ。
頑張って多くの人に届く映画にしようという意図は見えるけれど、それでも監督の作家性はあまり損なわないようにバランスをとっているように感じたね」
三島有紀子監督について
今作の監督を勤めた三島有紀子について語っていきましょうか
自分はかなり好きな監督だし、力もあると思うんだけれどね
カエル「人は選ぶのかなぁ? 昔の作品もチェックしています! って訳ではないけれど、過去2作(『少女』『幼な子われらに生まれ』)もかなりよくて、結構高く評価しているんだよね」
主「『少女』とか、大手レビューサイトで軒並み評価が低いのをみて、え? と思ったよ。自分は好きなんだけれどね……2016年の年間映画ランキングでもそれなりに高い評価をしたし。
幼な子われらに生まれなんて、現代日本の家族の問題でイクメンお父さんの実情と苦労をしっかりと描いていて、結構唸らされた。
日本ではあまり描かれにくい問題を独特の視点で描いていたんだけれどね」
カエル「そんな三島有紀子監督の魅力ってどこにあるの?」
主「今作を見ていても思うけれど、画面に”三島有紀子”って刻印があるようにも思える特徴的な絵作りかなぁ?
少し暗めにくすんだように撮るんだよね。それに、演出なども色々と工夫されているし、それでいながらも人間の業やえぐい部分をきっちりと鋭く描いている」
カエル「全体を通して三島有紀子らしさが出ているということでいいのかな?」
主「あとは無音の使い方だよね。
本作はどちらかといえば『少女』に近い作風に感じたけれど、特徴的な演出もあれば、静かに見せるシーンもあって、メリハリがしっかりとできている作品に仕上がっているなぁ、と思ったよ」
キャストについて
キャストはどうだったの?
良かったけれど……小説の印象があるからなぁ
カエル「やっぱり栞子さんだよねぇ。テレビドラマ版は剛力彩芽が演じていて、それに対して非難する声もあったし
……でも、今作の黒木華はイメージはぴったりじゃない?」
主「う〜ん……ちょっと違うかなぁ」
カエル「え〜? じゃあ、誰ならいいのさ?」
主「……文香」
カエル「え? 誰?」
主「鷺沢文香」
典型的な文学少女像の1つ
カエル「……そこでアイドルマスターシンデレラガールズのキャラクターを挙げるとは……」
主「まあ、それは冗談だけれどさ、やっぱり小説のイメージがどうしてもついているからね。
しかも、典型的な文学少女でもあり、実は多くの人にがっちりとイメージができてしまっているような存在だ。
それを実写化するのは、非常に難しいよ。
それこそ、昔の仲間由紀恵とかはどうだろう? なんて思いもあったけれど。
その点で言えば、黒木華はこの役にあっているし、イメージに近い演技だったんじゃないかな?」
カエル「文学少女っぽい印象もある人だもんね」
主「それに、今作は三島有紀子監督作品らしくて、しっかりと美しく撮っているんだよね。
別に肌の露出が多かったりしないし、服装も地味なものなんだけれど、だけれどなんとも言えない妖しい雰囲気が漂っていた。
それに何と言っても声がいい。
だから朗読のシーンもずっと聞いていたくなる。
正直なところ、自分は黒木華ってそこまで女性としての魅力が強い印象はなかったけれど、本作を見てそれは間違いだったと気付いた。
この人に手を出さない大輔くんはすごいね」
カエル「その五浦大輔を演じた野村周平は?」
主「これも失礼な言い方だけれど、決して器用なタイプの役者ではない。でも大輔の実直さと、彼はこの物語の中で本を読めない人間とあって……なんというか、本を読まないタイプの体育会系の雰囲気というのかな、そんなものも出ていた。
特に気になるポイントはなかったね」
カエル「他の役者に関しては?」
主「概ね良かったと思うよ。
特に強く印象に残ったのが栞子の娘を演じた桃果かな。
彼女も本作ではそこまで本が好きではなさそうに見える、快活な少女だけれど、ともすると重くなりがちな物語にある種の清涼剤となっていて、印象に残った。
もちろん成田凌や東出昌大、夏帆も良かった。それぞれの役者のイメージに近いようなキャラクターを見事に演じていたかなぁ」
以下ネタバレあり
作品考察
小説の物語として
ではここからはネタバレありで語ります
やっぱり、小説への愛を感じさせる表現が多かったね
カエル「結構わかりにくいところでもその演出は見受けられた、という話だけれど……」
主「自分が感銘を受けたのは”日光の差し込み方と本”の関係性だ。
これは映画の演出の問題も絡むから難しい部分ではあるけれど、現実の古本屋さんって、薄暗いイメージがあるでしょ?」
カエル「ちょっと埃っぽくて、古本の独特の匂いが充満している印象かなぁ。好きな人はそれがいんだろうけれど」
主「これは本が好きな人ならば常識だろうけれど、紙の本の弱点は湿気と日光なんだよ。
これがあると劣化しやすいから、愛好家ほどなるべく避けようとする。
だから古本の街、東京の神保町にある本屋さんの多くは、日光を避けるために北向きに店舗を構えていいる。
それは本作でも少し意識されているようで、日光が当たる場所は本が当たらないような作りになっているように見受けられる。
それでも窓から光は入っているけれど、これは映画的な演出と大目に見るポイントだろう。
それでいったら、現実の古本屋はあんなに綺麗に整理されている店はそんなに多くないんじゃないかな?
どこも倉庫がほとんどないから、店内に本が溢れかえっている印象がある」
カエル「そこは映画として、ね。本当に本で溢れかえっていたら、それはそれで映画として見苦しいというか……」
本と日光の関係性を頭に入れると、このシーンの見え方も違ってくる
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作中で生じた違和感
その演出が何か効果的なことがあったの?
あるシーンにおいて、非常に効果的に発揮されているんだ
カエル「そのあるシーンというのが、成田凌が演じる稲垣が商品を窃盗されてしまい、その犯人を探しに行くシーンということだけれど……」
主「あのシーンではレトロな家の書斎に本棚がびっしりと並べられて、いかにも本が大好きな人、という雰囲気を醸し出している。
だけれど、本当に本が好きならばあまりしないようなことをしてしまっている。
日光がガンガン当たる場所に本棚を作ってしまっているんだ」
カエル「わずかに陽に当てるだけならばともかく、あそこまでガンガン当たる場所には本好きならば普通は置かないってことかぁ」
主「価値がある漫画本はしっかりと棚の中に仕舞われていたけれど、これはもちろんその本が盗品であり、その価値を知っているから特別目の届かない場所に大事に仕舞われているということもあるだろう。
だけれど、それとはまた別にあの本棚にしまうと大切な本が劣化してしまうのがわかっていたからではないか?
だから、あの本棚には比較的価値の低いものばかりを並べてビブリオマニアのように演出しながらも、実際はそうではないということを描いていたのではないか? という解釈もできるんだよ」
小説らしい演出が色々と
他にも小説を意識した演出ってあったの?
随所にあったよ
主「まず、これはもう本作に限らず、多くの作品で使われているけれど”月=I LOVE YOU”のメタファーは本作でも発揮されていた。まあ、これ自体はすでに日本では演出の常套手段とも言えるほどで、ほぼ毎月のようになんらかの作品で見受けられるんだけれどね」
カエル「一番最近だと、先週公開した『旅猫リポート』でもあったね。
夏目漱石に軽くでも触れた後、月が出てくるとなんとなく察するものがあるというか」
主「今作では大輔が月を見上げるシーンだったけれど、直接的に恋愛関係を描かずに栞子に惹かれていく様子を静かに演出しているし、実際それがうまく活用されていたとも思う。
あとは過去のお話で東出昌大が演じる嘉雄と夏帆が演じる絹子が一線を超えてしまったシーンの後の問答もそう。
嘉雄が太宰に傾倒している若者らしく『一緒に心中しようといったらどうする?』と語ると、絹子は『頬を張って一緒に生きます』と答える。
ここでは嘉雄が太宰のようにはなれないことを暗示しながらも、作中でも登場した太宰治の作品である『ヴィヨンの妻』を意識しているんだ」
カエル「『ヴィヨンの妻』というと、以下の名言が有名だもんね」
人非人でもいいじゃないの。
私たちは生きてさえいればいいのよ。
主「この時点では2人は倫理的に許されない行動をしてしまい、人非人(人としての道を踏み外した存在)になってしまっている。
それでも生きる道があったんじゃないの? と読み取ることもできるし、太宰ファンからしたら色々と感じるものが多いセリフだよね」
松たか子と浅野忠信で映画化もされています
そのほか、多くの文学作品と絡めた演出
ほかにも色々あるんだよね?
まずは静岡の伊豆についてだね
主「今作のロケ地を少し調べたけれど、あまり出てこなかったんだよね……だからこsれは憶測になるけれど、伊豆で2人の逃避行の時にいた旅館はおそらく安田屋旅館なんじゃないかな?
エンドクレジットを見逃したから、もしかしたらロケ地とかで表記してあったかもしれないね」
カエル「太宰が斜陽の一部などを書いたということで有名な旅館だよね。
文学者と縁が深い関東近郊の名所というと、伊豆の他にも熱海などもあるけれど、多分この旅館の存在があるから、伊豆を舞台に選んだのでは? という憶測もできるのかぁ」
主「他にも、確か太宰の本の帯だったと思うけれど佐藤春夫の名前が見えた。
これもまた本が好きな人には有名な話だけれど、佐藤春夫は谷崎潤一郎の奥さんに恋をしてしまう。悩み抜いた末、谷崎に相談し、離婚してもらい、佐藤は谷崎の奥さんと再婚したという話もある。
これも本作と絡めると、なかなか意味深なエピソードだよね。
もしかしたら、そういう未来もあったのかも……と思わせてくれたり」
カエル「ふむふむ……」
主「あとは、これは作中でも語られているけれど、稲垣と栞子と大輔がラーメン屋で食事をしているシーンで、突然稲垣が江戸川乱歩の話をする。
乱歩というとやはり怪奇小説や犯罪小説、大きく括ればミステリーのイメージがあるし、その後の稲垣の活躍ぶりを暗示するようになっている。
このように小説と物語が密接に繋がっているし『それから』以外でも作中で出てきた作品は本作の展開や物語を意識したものばかりだったんだよ。
ただ、それはわかりづらいかもしれないけれど、だからこそ自分は『面白いなぁ』と思いながら見ていたね」
単なる食事シーンでもありながら、実は火花が散るシーンでもある
(C)2018「ビブリア古書堂の事件手帖」製作委員会
映画としての面白いポイント
そういった小説云々を抜きにしたら、どうなの?
やっぱり力がある監督だな、と思うけれどね
カエル「それはどういうところが?」
主「画面の作り方がすごく特徴的なんだよ。
例えば、栞子と大輔が初めて会うシーンで、それまであまりカットを割らずに少し間延びするように栞子を撮っていたのに、いざ本の話になるとカット割りが激しくなって、栞子の興奮が伝わるように撮ったり。
あとは、嘉雄と絹子のシーンはいいシーンが本当に多かった。
2人が出会って惹かれていく様子から、別れを選ぶまでの美しいシーンが続いていていた」
カエル「僕は2人が初めて会って、嘉雄が倒れてしまい、絹子が介抱するシーンとか気になったかなぁ」
主「あそこで嘉雄が座ったままで、絹子が立って応対する。すると、当然ながら目線は全く合わないから、そこで2人のちぐはぐさと、お互いを伺うような視線のやり取りなどが印象に残る。ここはわざとロングカットにして、しかも絹子の夫を映さないわけだ。
だから、その後で絹子と嘉雄がお店で逢引をしているシーンで、絹子の夫を出した時に初めて嘉雄は絹子が結婚していると知ったはずなんだよ。
観客はこの時点で絹子と嘉雄が道ならぬ恋だと知っているから、驚きは少ないけれど……嘉雄からすると、相当ショックだったろうね。
その意味では、確かに物語の作り方に少し問題があって、この時に初めて絹子が結婚しているとわかるような作りにしたら、もっと観客は引き込まれるだろうね」
カエル「色々あるんだねぇ」
主「あとは2人の別れのシーンで、店に訪れた嘉雄が外で待ちぼうけになり、絹子が逃げるように店に入っていく姿なんて、とても文学的だった。
本作のラストシーンもそうで、確かに地味だけれど、2人が視線を交わすシーンなんてそれだけで色々な思いが伝わってきたし。
そういった作り方は本当に文芸映画のようで、自分は好きだけれど……
まあ、エンタメ映画としても文芸映画としても中途半端になったと言われたら、それはそうなのかなぁ」
まとめ
では、この記事のまとめです
- 黒木華などの役者陣のイメージと魅力が合致した作品
- 小説を題材にした作品らしく、演出なども小説を意識していた
- 絵の美しさもあり文芸映画のようでもあるが、エンタメ性には欠ける?
自分は好きな作品です
カエル「あとは鎌倉ということで、湘南や鎌倉周辺のイメージが強いサザンオールスターズの曲も意外と合っていたね」
主「サザンは個性が強すぎるから、本作と全く合わないかなぁ……と思っていたよ。現に、予告編では首を傾げた部分もあった。
でも結論から言えば、作品にも見事にマッチしていたし、いい選択だったんじゃないかな?」
カエル「個人的には結構評価高めなんだね」
主「これで三島由紀子監督作品は、3つ連続で当たりなんだけれどね。
いい監督だと思うし、見る意義のある作品じゃないかな?
万人向けではないけれど、小説が好きな方にはオススメしたいかなぁ」