物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『怪物はささやく』感想 演技、CG、アニメの融合が素晴らしいダークファンタジー!

カエルくん(以下カエル)

「今回はイギリスのダークファンタジーを映画化したというお話だけど、日本ではさいきん少なくなってしまった印象があるなぁ。こういう子供向けの実写映画というかさ」

 

亀爺(以下亀)

「本作品が子供向けかというと少し疑問もあるがの」

 

カエル「ちょっと前まではそれこそゴジラなどの特撮だけではなくて、キャラクターに頼らないSFやファンタジーの混じった映画ってあったように思うんだよね。夏休み時期に公開して、子供達がたくさんいたような記憶があるんだけど……

亀「これも少子化の影響じゃろうな。おもちゃ屋などの子供向け商品を扱う商店は次々と潰れておると聞くし……絶対数が減っている以上、徐々に需要も減っておるのかもしれん。

 あとは子供向けのキャラクターアニメ映画が非常に強いのもあるし、上記の特撮作品も仮面ライダー、ウルトラマン、戦隊モノと次々公開しておるからの。親御さんも大変じゃな」

 

カエル「結構好きなジャンルなんだけれどなぁ……

 ロボットとかCGや着ぐるみの怪物と子供達がほのぼのと地球を救っている映画って微笑ましいし、それでしかできない味もあるんだけど……

亀「ほのぼのと地球を救うというのもすごい話じゃの。

 それではハリウッドが生んだダークファンタジー映画の感想といくかの」

 

 

 

怪物はささやく

 

1 感想

 

カエル「じゃあ、まずはいつも通りざっくりとした感想から始めるけれど……ダークとはつくけれど、やっぱりファンタジーであることは変わらないんだよ。

 ファンタジーというと、子供向けという印象が強くなるかもしれないけれど、ちょっとビターな味わいの、でも子供も大人も楽しめる作品だったね! 対象年齢も10歳くらいから大人くらいまで楽しめる作品だった!」

亀「この手の映画となると『地球を救う』などのような子供向けの印象を与えるかもしれん。確かにCGを多用した少年の成長物語という意味では子供向けというのも間違っておらんじゃろうが、多くの登場人物に感情移入しやすいようにできておる。

 もちろん様々な葛藤に惑う少年の気持ちになる人もいるじゃろう。それを優しく見守る母親や、少年の手助けをしたい父親、祖母の気持ちになるなる人もいる。

 子供の閉塞感や成長をしっかりと描きながらも、さらに大人の事情など、一見矛盾するようなことも描いた作品じゃな」

 

カエル「どうしても物語の登場人物って1つの気持ちのよって行動したり……例えば目標を持ってそれにまっすぐに行動するなどの、分かりやすいキャラクター像になりがちだけど、この映画は結構複雑な感情表現をしていて……」

亀「最近でいうならば『マンチェスター・バイ・ザ・シー』に似ておるように思った。家族を失った男が兄の死をきっかけに甥と交流を深めて人生に向き合う映画じゃが、単純な立ち直りなどを描いているわけではない。

 人生とは様々な感情が複雑に入り混じるものじゃ。簡単に割り切れるものではない。そういったことが子供、大人の両方の視点から、そして怪物を通すことによりわかりやすく描かれておった」

 

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リアルなCGで表現された怪物の迫力も凄い!

(C)2016 APACHES ENTERTAINMENT, SL; TELECINCO CINEMA, SLU; A MONSTER CALLS, AIE; PELICULAS LA TRINI, SLU.All rights reserved.

 

存在感のある怪物とアニメーション

 

カエル「怪物がCGだけど、迫力がすごくて! 確かにこれは恐ろしい存在である一方で、でもどこか親しみを感じるようなデザインになっていたね!」

亀「やはりハリウッドのCGはとんでもなく高いレベルにあるということをまざまざとみせつけれられてし、ダークファンタジーということで暗い場面、夜のシーンも多いのじゃが、それもまたうまくCGの視覚効果を盛り上げておったように思う。

 もちろん子役をはじめとして役者陣も色々と複雑な感情を抱えていることを連想させるような演技をしており、見ごたえもあったの

 

カエル「何よりも作中のアニメ表現だよ!

 水彩画のような鮮やかな絵の作り方であったり、それからおとぎ話が始まってからのシーンというのは、素晴らしいアニメーションだった!

 もちろん実写映画好きにもオススメだけど、アニメ映画が好きな人だったら絶対見て欲しい! 海外らしくヌルヌルと動くアニメーションが本当に素晴らしいから!」

亀「例えるならば『まどかマギカ』などで活躍する劇団イヌカレーの雰囲気に近いものがあるかもしれん。あそこまで特徴的な造形ではないものの、おとぎ話の禍々しさも内包したアニメーションじゃったの。

 合計で10分ほどかもしれんが、絶対に見るべき価値があるアニメになっておったのは間違いない

 

カエル「あのアニメで30分くらい作ってくれたら何回も見ちゃうだろうなぁ」

亀「本作は話の内容、脚本というものもさることながら、こういったCGパートの怪物の恐ろしさであったり、アニメーションなどといったキャッチなー演出、そしてドラマの軸となる実写の役者の演技も含めて丁寧に作られておる。

 CG、アニメ、実写とある意味では3つの表現手法が出てくるわけじゃが、それが違和感なくお互いに魅力を引き出すようにできており、満足感の高い作品に仕上がっておるぞ

 

以下作中に言及あり

 

 

 

 

2 少年の成長

 

カエル「ここからは作中に言及しながら語っていくけれど、この映画が示したのは『人間の心は矛盾に満ちている』ということだったじゃない?

 例えばどんなに相手のことを思っていても、その気持ちが素直に相手に届くわけじゃない。ちょっと冷たかったり、突き放すようなものだったとしても、それは相手を思っての行動だったりするわけで……

 どうしても『自分に冷たいのはその相手に嫌われているからだ』なんてことを言って、物事を単純化してしまう傾向があると思うけれど、だけどそういうことじゃないんだよ、ってことを教えてくれる物語で……」

 

亀「この物語の登場する多くの人はコナー少年に対して暖かい気持ちを抱いておる。それぞれの人生や思いを抱えながらも、最大限必死にできることをコナーに対して行っておる。

 じゃが、それが必ずしもコナーの望むことではない時もあるじゃろう。100%その望みを叶えるということは無理なことじゃ。特に子供の頃というのは、愛情を求めるあまりに過度な欲求になってしまいがちで、それを完全に満たしていたら親の身がもたんことになってしまう」

カエル「確かにコナーって甘えん坊でわがままな印象を持つんだよ。だけど、その家庭環境や置かれた状況を見ると、それもまた致し方ないのかな? という思いもあって……」

亀「なかなか複雑な家庭環境じゃからの。親が離婚しているというのもそうじゃし、父親は再婚して腹違いの妹も生まれておる。そして祖母は厳格な性格であり、コナーとそりが合わないことはお互いに分かっておる。

 少年には愛する母親以外に気を許せる相手もおらんが、その母親も体調を崩しておるからの。

 子供に一番大切なのは安心できる環境である、というのであれば、この状況は安心できる環境にはないの

 

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暴れてしまうコナーの怪物……

(C)2016 APACHES ENTERTAINMENT, SL; TELECINCO CINEMA, SLU; A MONSTER CALLS, AIE; PELICULAS LA TRINI, SLU.All rights reserved.

 

登場人物の名前

 

カエル「そういえな、この記事を書くために映画.comで登場人物とか役者の確認をしていたんだけど、この作品の役名ってコナー以外は『母』とか『父』とかであって、明確な個人名はないんだね

亀「児童文学を原作とした名残かもしれんが、これもまた作品の深化に一役買っておるように思う。

 つまり、作中に登場する人物は特定の人物ではなくて、母や父という存在なのじゃ。そしてそうすることによって、多くの父や母の代表とすることになっておる。もちろん、様々な家庭環境があり、色々な親子像、家族像があるじゃろうが……そんなことは関係なく、誰であっても自分の子供を愛しており思っておるということを意味しておるのではないかの?

 

カエル「ふぅ〜ん……あの家庭環境も現代的といえばそうだよね。父母が揃って仲がいい家庭って少数派とまでは言わないけれど、昔に比べると減っているのは間違いないと思うんだよ。だけど、やっぱり一般的な家庭環境と言われると父母が揃って当たり前みたいなところってまだまだあって……」

亀「もちろん、父子家庭であったり母子家庭をテーマにした作品はたくさんある。じゃが、家族というものをテーマにした映画を作る際には現代では片親の家庭であったり、再婚した家庭であるというのも重要な社会的にテーマになるのかもしれんの」

 

カエル「そして名前がないということで最大の力を発揮するのが怪物の正体だと思うんだよ。

 もうこれは映画を見ている人ならば誰でもわかると思うけれど、怪物なんて実際は存在しない。じゃあ、その怪物って何かというと紛れもなくコナーの深層心理であるわけで、夢を通して自分の気持ち、深層心理に対して向き合っているというのがこの映画なんだよね」

亀「コナーが怪物=自分と向き合った時、どのようなことが起こるのかというのがこの映画のテーマじゃの

 

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アニメーション表現も見所の1つ

(C)2016 APACHES ENTERTAINMENT, SL; TELECINCO CINEMA, SLU; A MONSTER CALLS, AIE; PELICULAS LA TRINI, SLU.All rights reserved.

 

コナーの思い

 

カエル「じゃあ、この映画におけるコナーの心理についてちょっと考えていこうか」

亀「この映画の中で『罰』という言葉がなんども出てくる。コナーは自分でも悪いと思い、反省しなければいけないことを繰り返して行ってしまう。端的にいえば暴力行為じゃの。

 しかし、それを咎めるべき立場にいる人たちはそれぞれの思いや主義からコナーに罰を与えることなく、許しを与えてしまう

カエル「このあたりも『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を連想させるよね……」

 

亀「罰を与えられるというのは実は楽なことなのかもしれん。自分が悪いことした、高らそれに対して罰をあたえられるというのは、他人に自分の在り方を指示してもらうということに近いのかもしれんの」

カエル「他人に罰してもらうってある意味では自分で考えることを放棄しているとも言えるのかな」

亀「どうすればいいかわからない時、人は他者にどうすればいいのか尋ねるじゃろう。もちろん、それも正解じゃ。じゃが、自分がどうしたいのかわからない時には他人に聞いたところで答えなど出てくるはずもない。

 その言葉にならない感情、モヤモヤとしたもの、その発露こそがあの暴力行為じゃったのじゃろう

 

カエル「子供の頃の癇癪って『どうして理解してくれないの!?』というものよりは『なんでこんなことをしたのか自分でもわからない』ということの方が多いような気がする。

 大人だったら『まあ、仕方ないか』とか考えることが、子供だと受け入られない。そしてどうしたいのか、どうして欲しいのかわからないから暴れちゃう、みたいな……」

亀「コナーはそのモヤモヤを暴力行為でしか晴らすことができなかったということでもあるんじゃろうな。自分を見つめるというのは大人でも難しいことであるし、ましてや状況が状況だからの……あれで冷静になれという方が難しいじゃろう」

 

 

 

 

3 物語とコナー

 

カエル「そしてそれは創作という形で出てくるわけだけど……」

亀「いつものように創作論のお話をするのであれば、物語というのは基本的に逃避じゃとわしは考えておる。現実が辛いから物語の世界、空想の世界に逃避する。

 逃避というとマイナスのことのように受け取られるじゃろうが、必ずしもそうとはいえん。ずっと現実に対して直視しておったら疲れてしまうし、それこそ休まる時がないじゃろう。その意味では避難であったり、息抜きと言ってもいいじゃろう

 

カエル「コナーに関しては間違いなく逃避だよね。そこにある現実を直視することができないから、空想の世界に逃げ込んでしまう。絵がとてもうまくて、プロになれるんじゃないか? と思わせるレベルの子供だけど、その内向的な性格などが学校でいじめられる原因になったりして……」

亀「あのいじめも中々面白い状況であったが……それはいいとしよう。

 本作は自分の中にいる怪物と向き合うということを主題としておるが、それはまさしく創作と同じことと言える。

 自分の中にある言葉にならない感情、言葉にできない思いをどのように表現するか。コナーの場合、それが絵であり、物語であったというだけじゃ。

 コナーはとても賢い子供で、どのような真理があるのかということは何となくは分かっておると思う。じゃが、それを認めたくない気持ちもどこかにあるのじゃろう」

 

カエル「悪い継母は倒さなければいけない、悪の手段の使った王子は因果応報に合う、などの単純化された勧善懲悪は楽だからね……」

亀「悪いことをしたら罰を与えられる、ということに拘ったのもその象徴なのであろう。じゃが、世の中はそうなっておらん。悪い人だから罰を与えられるわけではないし、善人であるから幸せになれるわけではない。それが辛いことであり、矛盾に満ちているのが人生じゃろう」

 

 

 

最後に

 

カエル「この映画って実は継承の物語でもあるんだけど……これ以上語ると過度のネタバレになりそうなので、ここでおしまいにしようか」

亀「母に与えられた物語ではなく、自分の物語を見つけることがとても大事だということじゃの。母が美大を諦めてまで欲しかったもの=息子に対して与えた物語……その意味を噛み締めながらも、新たなる物語=自分の人生を生み出して歩いていくという物語じゃな」

カエル「見ている最中あらこう……胸があったかい気持ちになる一方で、ホロリとしてきて……母の愛は偉大だなっていうと陳腐だけどさ」

亀「そんな単純な言葉で言い表す事の難しい物語であったの」

 

カエル「冒頭でも言ったけれどこういう子供向けでありながらもホロリとくるような実写映画が見たいよね。また作ってくれないかなぁ……山崎貴監督辺りを起用してさ」

亀「……結局は『ジュブナイル』が見たいだけではないかの? 近くのTSUTAYAにも置いておらんから、気持ちはわからんでもないが、主に頼んで買って貰えばいいではないか」

カエル「……でもさ、そこまでではないんだよねぇ」

亀「わがままを言うな! そんなわがままを言っておったら社会で通用するとでも……」

 

カエル(この矛盾する感情が人生なんじゃないの? とか言ったらさらに怒りそうだから黙っていよう) 

 

怪物はささやく (創元推理文庫 F ネ 2-1)

怪物はささやく (創元推理文庫 F ネ 2-1)

 
怪物はささやく

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