ネタバレあり
このアニメ隆盛時代でありアニメ戦国時代において、OP、EDというのは大きな影響を持っている。その曲はアニメタイアップというだけでアニソン歌手のみならず、アニメファン以外を主なターゲットにしている一般的なアーティストにとっても代表曲になったり、また本編が大したことない作品もOP、EDだけは名作と称されて動画で何回も再生される作品もある。
そんな中でも数々の伝説的なOP、EDを作ってきたクリエーターが石浜真史である。今期も『僕だけがいない街』のEDも絵コンテを担当するなど第一線で活躍しており、私はこの新世界よりの一期EDが大好きで、本編は見たことがないのだがこのEDはCDを買い何度も聞き、動画も何度も見てしまうほどに好きだ。他にも『NHKにようこそ』『BLECHE』も好きだし、『べるぜバブ』に至ってはこのEDを見るために日曜の朝を早起きしたこともある。
しかし実績はあるにも関わらず、監督作品は少なく連続テレビシリーズの『新世界より』しかない。
その石浜さんが監督として、しかも絵の美しさで有名なA-1と組んで劇場アニメを作るという。これはきっとすごい絵の作品ができると思い、期待を大きくして足を運んだ。
一言感想
勿体ない作品だなぁ
1 尺と作品密度が合っていない
私は何も予備知識を入れることなく映画館に行ったので、全くの初見の状態であり、主演声優と監督ぐらい(つまりポスターでわかること)しか頭になかった。
そんな人間がこの作品を見てまず気になるのは、圧倒的に作品のボリュームに対して尺がなさすぎることだ。
登場人物こそ三人と少ないものの、その世界観はSFであり、独特な世界観をしていた。それなのにも関わらず、その説明があまりないためについていくのが精一杯。ではその説明を放棄してまで考察するほどの魅力的な世界観になっているかというと……う〜ん……なってないと思う。
別に説明台詞が少なくても名作と呼ばれる作品はたくさんあるし、(アニメでは押井守や今敏などは一度見ただけは理解が難しい)それでも深い世界観でこちらを考えさせる構造をしていれば、勝手に考察していきファンが深化させていく作品だってある。(分かりやすい例がエヴァ)
では本作がそこまでの深さを獲得しているかというと、それは難しいように思う。この作品を見た後に言い表すことのできない満足感や、共感性、理解しきれていないモヤモヤ感というのはあまりなく、あるのはお話自体、その趣旨がわからないという疑問符だった。
だが一から十までダメだったかというと、決してそんなことはないのだ。一つ一つのシーンは悪くないし、話の流れ自体は酷評するほど悪いとは思えなかった。ただ尺が足らないからこそ、シーンとシーンの間を埋める描写が少なく、また唐突な感じを受けてしまう。なので本来ならば感情移入して感動しなければならないシーンも、唐突な転換の連続がこちらが飲み込む前に次の話に展開してしまうのが残念だった。
これはおそらくもっと長い映画か、もしくは1クールのテレビアニメにすることを目的としていたのだが、何らかの都合上で作品が短くなってしまったのだろうと推測する。もともとこの尺で作ることで計算していたとしたら、それはさすがに詰め込みすぎで無謀な挑戦に思う。
2 構造的問題点
本作の脚本の構造的な問題点はわかりづらい三つの世界観にある。
これはどういうことかというと、本作においては世界は三つあるのだ。
1 現実の世界
2 パソコンの中の世界(主な世界はここ)
3 パソコンの中で作られた、仮想の現実の世界
これが複雑に交差し、時にはリンクするので余計に分かりづらくなる。これが例えば現実の世界の場合画面の上と下が狭くなり、画面が少し小さくなったり、また3の時には『イノセンス』のように圧倒的に美しい世界観で先ほどまでと違う世界に入ったと分かればまだいいのだが、本作における世界観の違いが画面に分かりやすい形ででてこない以上、今がどの世界なのかまるでわからないのだ。
だから作品中で大事なシーンと思われる場面も次々と出てくるのだが、それがどこの世界かわからないから、作品を読み取ろうとしても難しい。もちろん憶測はできるが、これで理解するのは難しいだろう。
尺の問題でキャラクターも描写不足の上に、このような特殊な世界観を持った作品だとどこに注目してみればいいのかわからなくなってしまう。
3 実は王道のストーリー
可愛い女の子が主役であり、パソコンの中だということで独特な印象を受けると思うが、実は本作は一つの王道友情物語である。
これを男三人に置き換えて、現実の作品にしたとしよう。
二人組のアウトローな生活を送る男たちの元に一人の若い男が現れる。その若い男は記憶を失くしていて、初めは放りだそうとするがいつの間にか仲良くなって人間らしい感情を取り戻していき、三人でチンピラまがいに動いて時に笑い、時に追われ、時に慰め合いながら絆を含めていく。
しかし何らかの事情で若い男が記憶を思い出していき、やがて完全に記憶を取り戻すと実は二人組を追う捜査官なり、敵対組織の人間だった。
二人は何とかして三人で逃げようとするが、二人を裏切ることができない若い男は自分が囮になるなり、死ぬことによって二人を生かす……
例えばこんなストーリーだったら、もっとわかりやすい友情ものになっただろう。その男を女の子三人組にして、世界をパソコンの中にして、ウイルスやらマザーコンピューターやらを放り込んで、三つの世界観に分ければこの作品になる。
上記のストーリーは個人的に好きなタイプなので、そういう意味でも惜しい作品だと思う。(もちろん上記の作品ならば映像化すらできないかもしれないが)
結局、私の総論としては『何をしたいのかわからない』のだ。
圧倒的な絵の作りを見せたいわけでもなく、練りこまれたストーリーもない。音楽や演出も特別すごいわけでもなく、声優陣も普段と同じような役であり、一体誰が、何のために企画して、何を目的としたのかわからない。
それっぽい言葉で言うならば『クリエイターの顔が見えてこない』
精々わかるとしたら、監督が女の子を可愛く描きたかったのかなぁ……と思うのだが、今時アニメ映画の多くは可愛い女の子が何人も出てくるものだしなぁ……
いや、絵はいいじゃんという声がありそうだけども、そして絵は確かにいいんだけども、石浜作品のOP、EDの世界観を見るとちょっと期待値が高くなりすぎなのかもしれないが、もう少し欲しいな……
尺があってストーリーがもっとわかりやすい構造をしていれば、多分ここまで悪い評価にはならないような気がする。
いろんな意味で勿体ない作品だった。
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