物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『十二人の怒れる男』感想&考察 シンプルな脚本と演出が最高の法廷劇を見せてくれる! ネタバレあり

カエルくん(以下カエル)

「おお……ついにこの作品の記事を書くんだね。

 苦節2年ちょっと……いつも書こう書こうと思っていて、結局書くことができずにいた名作を扱うときがくるなんて!」

 

ブログ主(以下主)

「以前に旧作を扱うよ、と告知した時に白黒作品も扱うよ、といったけれど、その時に頭にあったのがこの作品で……もう語りたいことがたくさんあるけれど、思いが強い作品で語りにくい作品でもあって……」

 

 

カエル「名作中の名作だからね。

 下手なことを言うと罵声が飛んできそうだし、多くの書籍などで、それこそ世界中の人が語り尽くしている映画でもあるし」

主「旧作の中でも特に語りたいのが、実は白黒映画であって……

 え? 古い映画? と疑問に思ったり、または難しく考えてしまう人もいうかもしれないけれど、そんなに構えなくても大丈夫。娯楽作としても一級品の内容だから。

 そしてこの当時の作品の多くの名画が演出が凝っていて、しかも今と違ってCGなどもないから、ごちゃごちゃしていない。

 分かりやすい巧さに満ちている。

 この手の映画を観ることは、脚本や演出の勉強をするには特に大切だ

 

カエル「古典から学ぶことの意味、だね」

主「まあ、そんなことを考えなくても、なぜこの単純な物語が面白いのか? それはとても工夫された演出や脚本にあることがシンプルにわかる作品でもあるだろう。

 というわけで、12人の怒れる男の解説記事を始めていきます。

 あと、もう50年以上前の映画なので平然とネタバレしています」

 

 

 

 

 

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作品紹介・あらすじ

 

 シドリー・ルメット監督が1954年に放送されたアメリカのテレビドラマを1957年にリメイクした映画作品。原作者のレジナルト・ローズが実際に体験した陪審員制度からアイディアを生み出して作られた作品。

 俳優を志してシドリー・ルメットはテレビ局の演出家に転身し、その後この作品で映画監督デビューを果たしており、本作はベルリン国際映画祭の金熊賞を受賞するなど高く評価され、その後の名声を獲得する第一歩として最高のスタートを切ることになる。

 

 

 法廷に集められた12人の男たちは父親殺しによって裁判にかけられている黒人の少年の陪審員となった。

 有罪であれば死刑、無罪であれば釈放という状況の中、証拠や証言などを鑑みるに有罪の可能性は非常に高く、陪審員の中でも有罪と断定する者も多かった。しかし、8号陪審員を務める男はこの流れに待ったをかけて、彼が本当に有罪なのか考えようと言い始める。

 それぞれの思惑や考え方の衝突を繰り返しながら、彼らが導き出す答えとは……?

 

 

 

 

1 感想

 

カエル「では、まずは感想から語るけれど……鑑賞した当時はどのように思ったの?」

主「初めて見たのは10代の頃で、しかも学校の授業の時間だった。

 ほら、英語の勉強にもなるし、比較的短いし、しかも陪審員や死刑制度、その他の色々な社会的な要素が交わりながらも時間も決して長くないでしょ?

 先生たちもこの映画であれば教育的意義もあるしってことで見せたんだろうけれど、当時はまだ白黒映画にそこまで馴染みがなくてさ」

 

カエル「黒澤明とかは見ていたけれど、本当に好きですか? と問われたらそうでもない年頃だったのかなぁ……まだビリー・ワイルダーやチャップリンを観る前だったろうし」

主「しかも学校で観るものだから面白くないんだろうな、って思っていたのよ。そしたらこの作品にあれよあれよと引き込まれていって……もちろん、中には寝ている生徒もいたし、みんなが大絶賛というわけではないけれど、自分は娯楽作品として面白かった。

 それから何度も見返しているけれど、その度にこのシンプルな構成と面白さに戦慄することになる

 

カエル「まあ、監督がシドニー・ルメットというだけあってすごくうまいよね。

 この後も数々の傑作、名作を作っているけれど、デビュー作でこれだけの作品を作り上げることが驚愕だよね……

 さすがハリウッド黄金期と呼ばれるだけのことがある」

主「ルメットというとやはりサスペンスやミステリーの名手という印象がある人もいるかもしれないけれど、様々なタイプの作品を生み出しているんだよね。自分もそこまで多く見ているわけではないけれど……何せ2011年に亡くなる数年前まで精力的に活動してきた人だから作品数が多いから全部観るのは難しいけれど、どんなジャンルでも様々な映画をうまく撮ることができる職人的な監督でもある。

 自分も大好きな監督の1人だね

 

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圧倒的な脚本のうまさ

 

カエル「まず、この作品を語るときに第1に語るのがこの脚本のうまさだけれど、どのようなところがうまいの?」

主「単純に以下の3つ要素を交えながらも、魅力的な物語にしていることかな」

 

1 密室劇という限定された状況

2 ほぼ会話のみで構成された動きの少ない物語

3 12人と多い上に名前のない登場人物

 

主「この3つの要素を組み合わせただけでもトンデモナイ!

 まず、密室劇だから場面の転向だったり、派手なアクションは何1つとしてできなわけだ。それでも物語として魅力的に思えるように制作されている。これは後述するけれど、演出能力の高さも見せつける結果になっている。

 そして会話劇……これは脚本と演出の力がモロに試される」

 

カエル「ほぼ登場人物がべらべら喋っているだけでも面白いものにしないといけないものね」

主「現代では特にそうだけれど、映画とは『映像の表現』であるわけだから、やはりエンタメとしては派手な動きやアクションが欲しくなるところを、この映画はそれを妨げられてもなお面白くなっている。

 昔の映画って展開が遅かったり、ちょっとかったるくなるシーンもある作品も多いけれど……この映画はそういう思いは抱きにくいんじゃないかな? 無駄なシーンがなく、キュッと締まった物語になっている」

カエル「ファン補正や白黒映画好きの意見かもしれないけれど、でも時間も96分と短いしね」

 

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本作の主役、8番陪審員

理知的な態度と白いジャケットが印象的


 

本作最大の工夫〜登場人物について〜

 

主「そして何よりも恐ろしいのは12人もの登場人物を出した上に、名前を出さないという英断である。明らかにこの96分という物語の中で12人の登場人物は多いけれど、それでも本作はそれらの登場人物によって観客が混乱しないように工夫が満ちている。

 その1つが『名前がない』ということなんだよ」

カエル「普通の映画はせめて主要登場人物くらいは名前があるものだけれど、この映画ではラスト以外では意味を持たないものになっているもんね」

 

主「ここで余計な情報=名前を入れなかったのがまず1つの英断。

 彼らには番号だけ与えられている……つまり、記号的に語られているんだよね。

 その中でも特に重要なのが主人公格の8番、老人の9番とライバル格の3番、理論派の4番、やる気のない7番だ。

 でも、それ以外の登場人物もちゃんと印象に残るように性格付けをされている」

カエル「例えば議長で場を仕切る1番、しっかりと慎重に意見を言う2番、スラム育ちの5番、すぐ迷う12番とかだね」

 

主「様々な属性が与えられることによって、その登場人物がわかりやすくなるように工夫されている。

 例えば議長の1番、頭の薄い2番、横柄な3番、メガネをかけて理知的な4番、スラム育ちの5番……といったように、その人物の特徴をきっちりと分けている。それでも影が薄くなってしまう人はもちろん出てくるけれど、基本は3番と8番の対決を軸にしながらも、きっちりと物語を作っていく。

 この取捨選択やキッチリとした脚本構成は見事と言うほかない。お手本となるべき映画だね」

 

 

 

 

2 各場面を見ながら演出や脚本について考える

 

カエル「では、ここからは実際に各場面を見ながら演出や脚本のうまさを考えていくということだけれど、まず最初に本作の演出の特徴って何?」

主「演出には『静と動』のものがある。

 例えば派手なカーチェイスやミュージカルの歌唱シーンは動の演出だとすれば、この映画は静の演出に満ちている。

 その静の演出が大きな力を持ったのがこの作品だと言えるわけだ

 

カエル「ふ〜ん……じゃあ、まずはスタートからだけれど、どのような演出から始まるの?」

主「この作品はまず裁判所をカメラが見上げるところから始まる。つまり『法の番人』や司法に対する畏怖の念から始まるんだ。そしてカメラは上に向けられたかと思うと、今度は裁判所の中をそっと見下ろすように始まる。

 つまり一度その人生を左右しかねない法の神殿を見上げたのち、その中で生きる人々を見下ろす……その人生模様をここから映すよ、という合図から始まる。

 ここで面白いのが、おそらく希望通りの判決を手に入れられたのか喜ぶ人達がいて、警備員に注意されている。それだけ人生を左右する場所でもあり、厳かな空間でもあるということもわかる」 

 

カエル「法の重要性をここでアピールしているわけだね」

主「そして法廷へと舞台は移るけれど、ここで長々と説明しないのもポイント。まず大事なのは少年がどのような犯罪を犯したか? ではなく、有罪になった時死刑になる、無罪になれば釈放されるという究極の選択を陪審員はこれから行うという説明だ。

 そこで自分が注目したのは……ジャケットの色なんだよね

 カエル「夏場で暑そうなのにジャケットを着ているなんて、紳士としては当然かもしれないけれど……大変な時代だよね」

 

主「それぞれのジャケットに注目すると黒っぽい色のものを羽織っている人が多い。中には色の薄い人もいるけれど、今作の主人公格である8番陪審員は真っ白なジャケットを羽織っているんだよ。

 観客はここで無意識的に彼に注目を集めることになる。一人だけ異質な存在として認識するわけだ」

カエル「主人公格に対して印象に残るようになっているんだね」

 

 

序盤の構図

 

カエル「そしてみんなが部屋に入って、それぞれが席に着くまでにダラダラと会話をするシーンが始めるわけだけれど……」

 

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主「ここで構図に注目してほしい。

 このスタートは結構な長回しの場面なんだけれど、8番陪審員だけ窓から外をじっと眺めているんだよね。もちろん、暑いから窓の開け閉めをしたりして、これが後々大事な伏線にもなっていくんだけれど……

 このシーンではこの場にいるほとんどの人間が被告の少年を有罪だと決めつけている。

 だけれど、ここで8番はそんな彼らに対して背を向けているんだ

 

カエル「ふむふむ……つまり、彼だけは疑問を抱いているということだね」

主「ここでそれぞれの登場人物が会話をするけれど、特に強く印象に残るは後々ライバルとなる3番と、やる気のない7番だ。この7番がとてもいいキャラをしていて、しかも日本語吹き替え版が青野武という、大好きな声優の若い頃の演技なんだけれど……それは置いておくとして、この2人が8番と感情的に激しくやりあう。

 ここで彼が戦う敵に対して、より注目が集まるように脚本を書き、演出されている。ここがうまいんだよ

 

カエル「注目すべき人を注目させるということだね」

主「そして老人の9番が帰ってくるけれど、この9番は8番の最初の仲間になる人である。だから8番は結果的に9番には背を向けていないんだよね。

 他にも上記の場面を見て欲しいけれど、7番を中心に3人の男が……なんというか、左右対称に並んでいるじゃない? そこから外れているのが8番。

 つまり、これだけでもこの8番が他の人とは違うことを意味していながらも、ここで8番の姿が小さいことに彼の孤独な状況だったり、抱えている不安を表しているんだよ

 

 

 

法廷劇として重要なこと

 

カエル「へぇ……そしてついに法廷での発言を立証するところが始まるわけだ」

主「ここで目撃者の老人の発言が問題視されている。

 この『見たような気がする』と勘違いしてしまう現象、これは偽りの記憶を表している。結構多くて、現実の裁判でもここが問題になることもあるらしいけれど、人間は簡単に自分の記憶を作り上げるんだよ」

カエル「いわゆる勘違い、などもこの現象に含まれるのかなぁ?」

 

主「そうね。でも、これは嘘とは違う。証言者は本気で見たと思っているし、そう確信している。だけれど、状況証拠を考えると見ているはずはないんだよ。

 このように1つ1つの現象を精査しながら、物語は進行している」

カエル「裁判官のやる気のなさそうな態度であったり、弁護士が弁護をする気がないというのも酷い話だよねぇ……」

主「実際、この時代にもこの手のことは多くあったのかもしれないな。現代でもそれは同じか?

 この映画はちゃんと陪審員制度の問題点や、当時の司法の現状に向き合って制作されている。

 外野からすると陪審員は人の命がかかっているから、真面目に議論していると思いがちだけれど……必ずしもそうではないという現実を映し出した社会派の作品でもあるわけだな」

 

 

 

 

3 演出の妙

 

カエル「そして演出について語っていくけれど、これはどのシーンを参考にするの?」

主「まずは、多くの人が息を飲んだ8番と3番が直接向き合って火花を散らすシーンを見てみよう。

 何度目かの衝突の後、ナイフの使い方について語ることになるんだけれど……それがこのシーンである」

 

 

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カエル「8番がナイフの使い方に疑問があるといい、3番が実演して見せるシーンだね」

主「ここで注目してほしいのが、この2人の大きさなんだよ。

 もちろん、ここでは父親殺しの少年を再現するために3番が少しかがんでいるということもある。

 ここで注目してほしいのはこの画像を見てもわかるように、8番は堂々と3番を見下ろしているし、背筋も伸びている。

 一方で内心で焦っているのが3番の方で、これはこの時の状況、つまり無罪だと思う人が増えていることに焦りを覚えている状況そのまんまなんだよ」

 

カエル「ふむふむ」

主「ここでどれほど威圧的な態度を取っても微動だにしない姿、ここで観客に8番に感情移入してくれ! と強くアピールしている。

 このシーンは比較的サスペンスが強くて、この映画の中では派手な演出の部類に入るけれど、それでもこのような構図であったり、状況で語る演出が多いので地味に思われがちだけれど、これが非常にうまく機能している作品でもある」

 

 

最大の名シーン

 

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カエル「この映画で1番の見所と言っても過言ではないシーンについて語っていこうか。

 ここもこの映画の中では静と動では、比較的動の演出になっているんじゃないかな?

 主「10番陪審員は貧困家庭やスラム出身者、有色人種に偏見を抱える人物として描かれている。その人物が自説をペラペラと話し、それに他の陪審員が嫌気がさして背をむけるという名シーンである。

 ここで重要なのはその1人1人が徐々に立ち上がって、彼に対して愛想を尽かしていることを表明することでもあるが……自分が注目するのは有罪だと思っている人の反応なんだよね

 

カエル「この時点ではライバルの3番と、理知的に有罪説を推す4番がまだ有罪だと主張するんだよね。でもさ、この3番も彼に対して背を向けているけれど……」

主「その前の議論でふてくされて、10番が自説を述べる前に3番はすでに背を向けているんだよ。だけれど、ここで自分が上手いなぁ、と思ったのがそれぞれの態度であって……3番は確かに最後まで有罪説を推すけれど、それは偏見が根本的な原因ではない。

 彼が抱えているのは自分の息子に対する想いであり、彼は殺されてしまった父親に感情移入している。

 だから自分を置いて出て行ってしまった愛する息子に対する強い憤りがあり、それを許せないという個人的な感情は多くあるけれど偏見はそこまで強くない。

 それをこうやって背をむけることで表明している。

 一方で座っているのは4番と7番だけれど、7番はすでにこの件にやる気をなくしていてもう誰がなんと語っても興味がない。

 4番はどのような意見であってもしっかりと受け止めて、それを受けた上で反論する。理知的な存在だからね」

 

カエル「やっぱり裁判に限らず、偏見が1番人を見る目を曇らせるということなんだろうね」

主「もちろん、無罪だと思う人々がこうやって10番に愛想を尽かして差別や偏見を非難するのと同時に、有罪だと思う理由がそれぞれ違うということを示しているとも言える。

 ただ立ち上がる、壁の方へ行く……これだけでそれぞれの登場人物の立ち位置や思いを表現した、まさしく『静かで激しい演出』の最たるものだろう」

 

 

 

ジャケットの意味

 

カエル「様々な議論があった後に、4番陪審員は無罪に転向して、残るは3番だけになるわけだけれど……ここでの目がとても印象的だったね」

主「ここで3番を見つめる目こそが、最初に無罪を主張した8番が晒された目であるわけだ。

 『こいつは何を言っているんだ?』という、怒りも混じった恐怖心の目である。

 それに立ち向かって理知的に無罪を主張し、仲間を獲得した8番と3番の差がここで浮き彫りにされてしまう。そしてその目と、3番は最も心にわだかまりを抱える思いが爆発する行動を起こして、無罪に転向するんだ」

 

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カエル「そして全員がある結論を出した後のシーンがここだね」

主「この映画ってジャケットが印象的な映画でもあって、この2人って映画の中では1番激しくやり合っていた相手である。

 だけれど、こうやって議論が終了した時にはジェケットを着させてあげる……日本風に言うと武士の情けだよね。

 ジャケットというのは……特にクールビズもないこの時代では、働く男の鎧のような部分もある正装である。

 それを着させてあげるというのは、社会で戦う1人の男として彼を送り出す手助けでもあるし、多くの感情を浮かび上がらせるよね」

 

カエル「単に悪を断罪するという映画ではないないもんね」

主「……さて、演出でこの映画のうまさについて語った後で、この映画を自分が愛する最大の理由をこれから述べていこうとしようか」

 

 

本当のことは?

 

カエル「結局、この映画では少年は無罪になったけれど、これが正解だったのか? と訊かれるとそれはわからないというのが答えになるのかなぁ

主「……むしろ、自分はこの映画の裏テーマは別のところにあると思っているんだよね」

カエル「裏テーマ?」

 

主「1つはもちろん、陪審裁判に対する疑問と提言である。人の命が関わっているのに簡単に決めてしまうことがある、人は間違いを起こすものである。だからもっと慎重に死刑を考えたほうがいいのではないか? ということだ。

 そしてもう1つの裏テーマが……真実は誰にもわからないし、場合によっては理知的な態度によって罪人が無罪になるということもある

カエル「……どういうこと?」

 

主「はっきり言えば自分はこの映画が終わってもまだ、少年が有罪だと考えている。

 例えば、この映画の中で『偽りの記憶』について語られるシーンがあって、目撃者の証言が本当か嘘かを疑問に思うことがある。

 だけれど、ここで彼らが語っている目撃者の証言もまた、記憶でしかないんだよ。

 そしてこれもよくある話で、1人が間違ったこと言ってもそれに同調する人がいれば、集団の中で真実が塗り替えられることもある」

カエル「他の人に否定されたら、自分の記憶が信頼できなくなって意見を変えてしまうこともあるよね」

 

主「この映画はその証言のシーンなどは見せない。見せたら意味がなくなってしまう。陪審員として真実はわからないという映画だからね。

 例えば4番陪審員を説得した『メガネをかけて寝る人はいない』という言葉だけれど……どうだろう、当時と今はメガネの性能が全然違うだろうけれど、メガネをかけて寝る人もいるにはいるんじゃないかな?

 自分が学生時代なんかはメガネをかけたままねむりこけるクラスメイトとかいたけれどね」

 

カエル「一般的には少数派だろうけれどね」

主「9番陪審員がメガネの跡のくぼみを指摘したけれど、それはもう確認不可能なんだ。

 軟膏と理屈はどこにでもつく、なんて言われているけれど、やっぱり無罪を主張する根拠や理屈も根本から考えてみると覆りそうなことも多い

カエル「少年は犯人でなかった! ハッピーエンド! ってなっているけれど、じゃあ結局犯人は誰なんだ? という話になってくるしね……多分迷宮入りしたんじゃないかなぁ」

 

主「この作品はいくらでも受け取りようがあり、だからこそ面白くてしかも考えさせられる。それを静かな法廷劇や会話劇として成立させたこと……それが最大の魅力なんじゃないかな?

 もしかしたら8番陪審員は世紀の悪党を世に解放したのかもしれない。そう考えると、中々怖い話でもあり、そして陪審員制度の難しさが浮き彫りになってくる。この受け取り方の多様性こそが、最大の魅力といって過言ではないだろう」

 

 

 

 

最後に

 

カエル「この映画は映画の演出や物語の構造、脚本に興味がある人は必見の作品だよね」

主「完璧な映画の1つだと思う。これだけ上手く作られた映画はほとんどないし、密室劇のサスペンス映画としては最高峰の1つであることは誰も否定しないだろう。

 また役者の演技も抜群に素晴らしい! 映画が持つ面白さを、最もシンプルな形で表現した作品の1つだろうな」

 

カエル「誰もが認める歴史的な名作だからね」

主「白黒映画が苦手という人もいるからもしれないけれど、今作は是非とも鑑賞してほしい1作です。

 時間も短いので、たまには古い映画を見てはいかがでしょうか?」

 

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