物語る亀

ネタバレありの物語批評

テレビアニメ『月がきれい』感想 文学的で写実的な中学生たちの等身大を描き、心がえぐられる……

カエルくん(以下カエル)

「えー、今回は少し前のテレビアニメでリクエストの声もあった『月がきれい』について語っていきますが……」

 

ブログ主(以下主)

「正直、ちょっとやりにくいところがあるんだよねぇ」

 

カエル「少し前の作品だから? でも2017年のアニメを語る上では欠かせないし、それこそ今後のアニメ界にも影響を与えるであろう作品であると思うけれど……」

主「いや、そういうのもあるんだけれどさ……

 この作品を観ている人の多くがそうだろうけれど、自分の過去とを向き合わなければいけないところがあるじゃない? 特に自分はダメなんだよね……この作品を直視するには覚悟がいる」

カエル「まあ、作家志望の中学生って覚えがあるもんね。今でも一応作家志望であるのは変わらないんだよ、一応ね。だけれど、ブログ書いて人の作品にケチつけてってことを繰り返して、どれだけ意味があるんだかわからないけれど。

 最近は短編すらも書いてないしさ、1万文字超える記事を書くんだったら、その分作品を描いていればもっと結果が……」

 

主「ウルセェ!

 そういうのも全部わかった上で運営しているの! 

 まあ、でも小太郎の気持ちはよくわかるんだよねぇ……もちろんその恋愛模様の良さもわかるけれど、この作品で惹かれるのは小太郎の趣味の方だからさ……」

カエル「恋愛を除いてオタク成分をたっぷりと乗せれば、そのまんま中学時代になるしねぇ」

主「というわけで、本作を語るのは意図して避けていたところもありますが……でもやはり重要な作品であることには変わりないと思うので、感想を書いていきますがmまあ、何を語ればいんだろうなぁ、という思いも実はあって……

 いや、悪い意味ではなくて客観的に見るのが難しいので……」

カエル「色々とあぶり出される作品だよねぇ」

 

 

 

 

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1 感想〜前置きとして〜

 

カエル「では、全話を観た後の感想から始めましょうか」

主「もう、嫌になるよねぇ……

 いや、作品がってことじゃなくてさ、こんなキラキラした青春劇を見せつけれらて、いったい自分の人生はなんだったのだろうか? という気分にすらなってくる……

 真面目な話をすると、本作はフィクションなんだよ。しかもアニメでもある。だけども、そこにアニメらしさはほとんどない上でに、視聴者にここまで既視感を与えるというリアリティを獲得しているわけだ」

カエル「一般的なアニメらしさというと、ロボット同士の戦闘描写であったり、あるいは魔法のような描写を連想するけれど、本作はそういう要素が全くないもんね。最近は増えてきたけれど、等身大の中学生を何よりもリアルに描くということにこだわっている作品なわけで……

 

主「『日本アニメ100周年記念! 日本アニメ史を代表する10作品選んでみた! 』の記事でも語ったけれど、こういう邦画的なリアリティに溢れた作品というのが今の日本のアニメに増えている。それこそ本作に多大な影響を与えたという『たまこラブストーリー』などを製作している京都アニメーションなどが描く世界だよね。

 『人狼』『るろうに剣心 追憶編』などのアクション要素もある邦画的なリアリティに溢れた……スタッフ陣の言葉を借りるならば写実的なアニメーション。

 

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 自分はよく『日本のアニメはガラパゴス化している』と語るけれど、それに対する回答の1つがこの作品などが表現したものなんだよ」

カエル「これからの時代、世界のアニメーション業界で存在感を発揮するには『その国に根ざしたアニメーション』が重要になってくるという話で……で、今作の魅力や試みというのは日本でないと描けない『日本のアニメらしさ』に溢れているということだね」

 

主「もちろん世界でもリアリティのあるアニメってあるよ。『しわ』というスペインのアニメーション映画は高齢者を主人公にして、来るべき高齢者社会と認知症、老いを描いた傑作だ。日本ではほぼないテーマを描いているわけだよ。

 アニメーションとしてのレベルは高くはないけれど、そこで描かれたテーマが独特なこともあってスペインらしいアニメとなっている。

 日本のアニメーションは萌えなどのキャラクター描写に囚われているきらいすらあるけれど、この作品などが示した方向性というのはこの先『日本のアニメ』として重要になって来るだろうね」

 

 

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『放浪息子』『たまこラブストーリー』と本作

 

カエル「そして今回は比較対象として上記の2作品を挙げて考えていきたいということだけれど……」

主「どちらもここ10年代に発表された作品だから知っている人も多いだろうけれど、このような邦画的な……写実的なアニメの傑作。

 『放浪息子』の放送当時、裏番組があの『魔法少女まどか☆マギカ』でさ、そりゃ話題は独占されたし、あまり目立たなかったよ。だけれど、自分はテレビシリーズだけで語れば『放浪息子』は全く引けを取っていない。はっきり言えば、自分は放浪息子の方がハマったんだけれど……それはいいとしよう。

 で、こちらも中学生の生活を生々しく描いている。ただし、恋愛ではなくて『性』がテーマなんだけれどね」

 

 

原作もアニメも名作なのに、あまり語られない気がする……

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カエル「『月がきれい』の方が受け入れられやすいことはあるだろうね」

主「この2作に共通しているのが水彩画のようなタッチであるということ、そして生々しい声優陣の演技である。アニメとしても萌えを強調しないキャラクターデザインなどもそうかな。あと、2人とも小説を書いているとか……やはり類似点は多い作品だね。

 水彩画のような淡い色調にすることによって、青春のきらめきや淡さを表現している。これがベタ塗りしちゃうと、こうはいかないのだろう。

 声優に関しては後述するけれど、やはり本作のようなリアリティを獲得するためには既存のようなアフレコ方式では難しいものがある。だからこそ、色々な試みがあって、その意味でも面白いよね」

 

カエル「そしてこの作品を制作するのに大きな影響を与えたとされる『たまこラブストーリー』だけれど……」

主「その影響が1番強く出ているのが最終回で、川の……飛び石でいいのかなぁ? そこで感情の爆発があるんだよ。それはたまこと全く同じ。特にたまこだと重要なメタファーや作中でも象徴的なシーンでもあるけれど、本作も似たような意味があるよね。 

 つまり2人の関係性が若干変化する場所として飛び石が使われている」

 

カエル「『月がきれい』の最終話では、この時の2人の微妙な距離感を示す意味があるんだろうね」

主「川が2人の間に流れていて、飛び石は1人分の面積しかない。そこで小太郎と茜の微妙な距離感が出ている上に、小太郎からは突然のことで行動を起こすことができない。

 そこで茜がさらに一歩踏み込んで、それこそ飛び越えて……ということだね。ここで2人の関係性はちょっとだけ変化している。オマージュではあるけれど、それが効果的に機能しているんじゃないかな?」

 

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岸監督の異色作?

 

カエル「ここで今回の監督を務めた岸誠二監督についても軽く触れておこうか。

 岸監督というと、やっぱりオタク界の一般的には『Angel Beats!』の監督として有名なのかなぁ?」

主「多作だし、色々作れる人だけれど、やはりギャグアニメが多い印象だよね。それこそ……もう10年も前の傑作『瀬戸の花嫁』だったり『ギャラクシーエンジェル〜ん』『天体戦士サンレッド』などのようなギャグ色の強いアニメで頭角を現してきて『人類は衰退しました』ではシュールな世界観を表現していた。

 『Angei Beats!』もギャグ色もあって、それが結構面白かったし。

 そのあとでは『蒼き鋼のアルペジオ-アルス・ノヴァ-』『結城友奈は勇者である』『暗殺教室』などを監督して、やはり評価されて2期も制作されている。色々な事情はあるだろうけれど、残した結果などを見ても近年でも稀有なほどのアベレージヒッターの監督であることは間違いないだろうね

 

カエル「その作品群の中では異色作だよね。今作はギャグと言っても日常のあるあるだったり、ちょっとほっこりとした笑いがあるけれど、ギャグアニメではないし……」

主「新しいことに挑戦していこうという気概が特に強い監督でもあるんだろうな。もちろん、クリエイターはみんなそうだろうけれど、『Angel Beats!』もライブシーンは革命を起こそうとしたと語っているし、実際に評価も高い。

 『アルペジオ』はCGアニメに挑戦しているし、今作も近年ではあまり主流ではないような……大ヒットは望めないようなジャンルに挑戦している。その姿勢が素晴らしい」

 

カエル「座組の良さも指摘されているよね。男性ばかりで固めることなく、シリーズ構成には女性脚本家の柿原優子を起用して、女性スタッフらしい視点も多く取り入れているし……」

主「それからキャラクターデザイン原案のloundrawのイラストも良かった。この人って大ヒットしている映画で、劇場アニメ化も決定している『君の膵臓を食べたい』をイラストを描いているんだよね。

 近年のイラストライターでは注目を集めていて、自分も買った本が全てこの人がイラストを描いていた、という時もあった。アニメ的な魅力も抱えながら、でもアニメアニメしすぎな良さがあるんだろうな

 

 自分はちょっと酷評気味ですが、世間の評判は上々です

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カエル「その意味でいうと決して『萌えアニメ』ではないよね。でも可愛らしさもちゃんと感じられて」

主「中学生は大人と子供の中間であって、そのキャラクターデザインって結構難しい。それで失敗したのが『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』で、大人っぽくしすぎてしまったからね。

 本作はしっかりと中学生らしいデザインにすることで、その可愛らしさやもどかしさがしっかりと伝わってくるようになっている。

 ……さて! 御託はここまでにして、ここからはしっかりと作品について語っていこうか!

 

 

 

2 本作の魅力

 

プレスコ方式と声優の演技

 

カエル「まず、多くの媒体で言われているけれど、この作品はプレスコという方式で造られているんだよね。

 簡単に説明すると普段僕たちが目にするアニメはアフレコ、すなわちアフターレコーディングという、絵に対して人が声を当てるという方式で演技をしている。

 一方でプレスコはその逆で、演技をした後にその演技に合わせて絵をつけるという方式だ

主「でも大作アニメ映画の芸能人声優もプレスコ方式も結構あるらしいし、現代においてはデジタル化や、それから作画製作の遅れなどによって絵コンテなどに合わせて声優陣が演技することも少なくないという話だから、それはプレスコといえばプレスコなわけだ。

 厳密にはっきりと区別することができないけれど……でも今作の魅力の1つであることは間違いないね

 

カエル「プレスコにすると写実的なリアルになるの?」

主「いや、そういうことではないよ。過去のプレスコ作品って……『紅』などもあるけれど、うまくいっているとは思えなかった。プレスコでうまい……というか、その味が出たのは『SHIROBAKO』のキャスティング会議の時や、それからギャグアニメの『gdgd妖精s』などだろう。声優の演技に対して絵をつけるからこそ、声優陣の自然な魅力などがはっきりと出る。

 本作の場合は若い声優陣をたくさん起用している。正直に言えば、主要な子供達のキャストで知っていた人って……村川梨衣とか石井マークとかくらいかなぁ。

 でもその味が出ているんだよ」

 

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カエル「その味って?」

主「いわゆる『生々しい演技』だよね。結構アドリブも多いようだけれど、大筋は脚本があるけれど会話などは役者に任せたところがある。すると、年代的に近いキャスト達は大人の脚本家などよりもリアルに近い物言いなどをするわけだ。それが生々しさを生む。

 似たことをしているのが是枝裕和だよね。

 『誰も知らない』で柳楽優弥などの演技が賞賛されているけれど、この演技を引き出したのは是枝裕和が台本を渡さないで、現場で直接指導したから。他にも『海街diary』の広瀬すずなどにも同じようなことしている。

 その年代の若々しさ、瑞々しさが欲しい時に、作られた台本などはやはり足かせになってしまう時もある

カエル「役者陣に……特に若い役者陣に任すってことも大事なんだね」

 

主「先述の『放浪息子』でも声優に関しては凝っていて、主役の男の子は当時中学生だったんだよ。当然、演技はそこまで上手くない。特に周囲に演技力のあるキャストがいたから、浮いたところもある。

 でもだからこそ瑞々しい、少年とも大人とも言えない独特の雰囲気があった。このように声優陣の演技まで気をくばることで、リアルな演技、作品というのは生まれているわけだ。

 今作では特にキャラクターたちが作られていない印象が多くあるのは、役者の影響が大きいんだろうね。茜たちのスクールカースト上位の女子グループ感も良く出ていたし」

 

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本作を彩る音楽も魅力的

 

アイテムの使い方

 

カエル「続いては登場人物たちが好きなものなどから見えてくる工夫について考えていこうということだけれど……」

主「まず、自分が惹かれたのが小太郎が太宰好きという設定なんだよね。如何にも中学生の文学好きって感じがして……太宰は永遠の厨二病患者を生み出す天才だからね。

 自分は太宰よりも坂口安吾と寺山修司にはまった人間だけれどさ!」

カエル「それはいいとして……結構文学的表現が多いのかな。それこそタイトルもそうだし、サブタイトルも文学のタイトルだし」

 

主「ただ小太郎って太宰って感じではないよなぁ……という印象はあるけれどね。

 そして『はっぴぃえんど』が出てきて、絶妙なサブカル感などがちょうどよくて、文学青年に薦めるには、あざといくらいでさ!」

カエル「1話で茜を見つけたらコーヒーを飲んで大人ぶるとかさ、あのもじもじ感とか芸が細かいよねぇ。それから現代の学生劇だと欠かせないLINEもしっかりとEDで意味があったし」

 

主「1つ1つの細かい描写がよりリアリティを与えている。

 特に最終回ではさ『小説家ってさ、経験して困ることは何もないって』という言葉もその通りだし、それがラストにつながっている。小太郎の文学好き設定もきっちりと活かしたラストも良かった。

 近年の小説家志望の中学生ってラノベを志向する子も多いだろうけれど、小太郎はそっちのタイプではないというのがお囃子などでも表現されていて……

カエル「12話あるから一気に観るには時間がかかるけれど、通して観たら色々な細かい工夫に溢れていてそれに気がつくかもしれないね」

 

 

 

最後に

 

カエル「じゃあ、最後になるけれど……」

主「自分がこの作品で攻めたなぁ、と思うのは、中学生の性を描いたこと。サブキャラクターとはいえ、セックスを描いているわけじゃない? しかも男が彼女にホテル代を払わせるという情けなさもあって、修学旅行中にホテルに行って話題になる……とかさ。

 こういう話をサラッとCパートでやってのけるってというのも、結構攻めているよね

カエル「確かに近年のアニメだとお色気とかになるけれど、中学生でそういう描写って……むしろアニメに限らず少ないかも。

 今作は男女の違いについて多く描写されていて、そこも良かったよ。サブキャラクターたちも可愛らしいし。ロマンとか、大人になったら1番モテそうだなぁ」

 

主「だいぶオタク男子に対して優しいな、と思うところはあるよ? 茜に手を出してくる男が結構紳士的だったり、そこまで物語に絡んでこなかったりさ。あのラストだって、ある意味ではファンタジーだと思うんだよ。中学生で付き合って、そのまま結婚ってなくはないだろうけれど……と思うところはある。

 でもアニメだし、で納得したけれど」

カエル「この先の展開があるのかわからないけれど、結構評判もいいし、こういう作品がもっと増えてくれるといいね」

主「あまり内容のない記事になってしまったけれど、でも製作された意義のある作品だったと思います。まだの人はぜひ観てくださいね!」

 

 

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