物語る亀

ネタバレありの物語批評

応天の門 既刊7巻のレビュー

 ここ最近なんとなく書店の漫画コーナーをまわっていたら見つけたのが、この応天の門だった。

 絵柄が気にいったのと、平安漫画ということでなかなか歴史漫画の中では見ないジャンルなので、興味本位で買ったところ、これがヒット。

 即座に既刊5巻を買いに走った。

 

 今回はそんな応天の門の紹介とレビューを書いていきたい。

 

 

 

 1 登場人物紹介

 

応天の門 1 (BUNCH COMICS)

 菅原道真(写真右)

 主人公は『学問の神様』でおなじみの菅原道真。ただし、この時はまだ10代の若者なので、頭は切れるものの世間知らずで遊びのない青年のように描かれている。

 知識欲が強く、本を読み始めると誰かが呼びかけようと決して止まることなく読み続けてしまう。

 今作品の探偵役である。

 

 在原業平(写真左)

 この作品の相方。基本的に道真と業平のバディもの(コンビを組んで事件を解決)となっている。

 こちらも『元祖プレイボーイ』であり、様々な女性との浮いたお話で有名な一方、平安時代らしく様々な歌を残している。特にちはやふるでもおなじみの

 

 千早ぶる 神代もきかず 龍田川

    からくれなゐに 水くくるとは

 

の作者でも有名。

 

 基本的にはこの2人のバディでおくる、平安ミステリーとなっている。このようなバディものの場合、片方が知識や推理担当、もう一方が体力、アクション担当と相場が決まっているのだが、本作の場合は2巻の帯にもある通り『理知の天才 菅原道真』と『機知の天才』在原業平が組むということで面白さを増している。

 

 それから重要人物はこちら

 

応天の門 3 (BUNCH COMICS)

 藤原高子

 当時の権力の中枢にいた藤原家の姫。天皇の妃にしたいのだが、年頃の娘がいないために、天皇より9歳年上の高子が嫁ぐことになる。ちなみに結婚した年齢は25歳と当時としては非常に遅い。

 天皇の妃になるのに辺り、この時代では最も美しく、聡明な姫として描かれている。

 かつて在原業平と熱愛関係あったとされている。

 

応天の門 4 (BUNCH COMICS)

 白梅

 道真の元に仕える女房。

 書などの知識に長け、菅原家の書物の整理などを任されている。本作では様々な貴族とのおつかいに駆り出されたり、藤原高子の元へ使いに出たり、道真の婚約者の相手をしたりと何かと忙しい毎日を過ごしている様子。

 在原業平に憧れる一人(この作品の女性のほとんどは憧れる存在なので仕方なし)

  

応天の門 5 (BUNCH COMICS)

藤原基経

 藤原家の有力者であり、権力闘争の中枢にいる人間である。人を貶めることに何の躊躇もないタイプ。今の所直接の敵ではないものの、不穏な動きを見せる。

 

 他にもこの時代の権力者、藤原家の藤原良房や道真の婚約者である島田宣来子(しまだ の のぶきこ)なども登場するが、今回は名前だけに留めておきたい。(宣来子は出番が少ないけれども中々魅力的なキャラクター)

 

 

2 平安ミステリー

 歴史を扱った漫画であれば世の中にいくらでもあるものの、その多くは戦国であったり幕末、明治以降の開国後の日本を扱った作品ばかりのように思える。

 その中でも平安時代を扱った作品となると、源平の合戦であればいくらでもあるものの、合戦ではなく貴族文化を扱ったストーリー漫画となると、私がパッと思いつくのは安倍晴明を扱った『陰陽師』、源氏物語の『あさきゆめみし』、枕草子(というよりも清少納言)の『暴れん坊少納言』くらいであろうか。

 

 中々魅力的な時代ではあるものの、やはり場所が平安時代の京が中心となり限られてしまうことと、その時代の風習などを絵に落とし込むことが難しいなどの事情もあるようで、それほどメジャーなジャンルではないように思う。

 

 しかも、この時代を扱ったミステリーとなると私には他に思いつかない。

 それだけでも魅力的なのに加えて、この作品の登場人物が歴史の教科書に載るような人達ばかりであるのも興味深い。

 どうしても歴史を漫画で知ろうとなると、先ほども述べた通り戦国時代や幕末の方がドラマ性もあればロマンもあるので、そう言った戦乱の時代が中心となってしまう。平安時代や藤原家の名前は誰もが知っているものの、「月も自分の思い通りになるって歌を作った一族でしょ」という認識の人も多いのではないだろうか。

 

 本作にはそれ以外にも当時の文化や医療、呪いなどに対する考え方もよくわかるので、オススメの1作となっている。

 何かととっつきにくい平安時代の偉人や、百人一首で歌を詠んだ歌人たちに興味を持つにも最適な漫画ではないだろうか。

 

 

3 どのような作品になるのか?

 歴史物を扱う上で難しいのは『正史をどのように扱うか』ということだろう。当然のことながら歴史を大きく改ざんする行為というのは学術書では決して許される行為ではないが、あくまでも物語は物語であり、正しいことが面白さに繋がるとは限らない。

 よく引き合いに出されるのが司馬遼太郎であるが、当然のように歴史を調べているものの、司馬史観などと称されるように、司馬遼太郎作品の歴史の見方をそのまま真実として扱うことは問題のある行為である。

 

 歴史そのものが物語として作品世界を引き立たせるような動きをすることばかりではなく、あまりにも無残な最期や展開になってしまうことも多々あることであり、それをそのまま物語とした場合に娯楽性などで問題になるために、どこまで脚色し、どこまで史実通りにやるかという見極めが非常に難しくなってくる。

 例えば『暴れん坊少納言』などはある程度は史実に忠実にしておきながらも、離婚やら政争というキナ臭いお話はだいぶ濁して終わった。

 

 私は平安時代についてあまり詳しくなく、特に菅原道真は学校で習った程度の知識しかないような人間なので、その整合性というのはよく分からないが、他のレビュー等を見る限りにおいては歴史研究家のサポートもあり、忠実に作られているようだ。

 そうなるとこの先の展開もなんとなくわかりそうなもので、道真といえば晩年の流刑が一番有名なポイントになるのだろうが、菅原道真が亡くなるまで連載するとはとても思えないので(そんなスピードではない)、おそらく10代のうちに終えるつもりだろう。

 問題は現状道真の目標が得業生になるという、いわゆる出世に向いているものの、その先のビジョンがあるようには思えない。

 

 藤原氏との対決する姿勢が少しずつ見えてきてはいるのだが、今の所積極的に動きだす様子もなく、巻き込まれているだけに過ぎないのだ。

 

 一方の在原業平の方はというと、相変わらずの風雅人(色狂い)であるものの、本命はやはり藤原高子になるのだろうが、こちらも史実通りであれば天皇に嫁ぐために、決してふたりが結ばれることはない。

 このように史実通りに進行するのであれば、物語を終えるポイント、ゴールが中々見えてこないように思うのだが、その分先が読めるようで読めない作品にもなっているので、この雅な世界観をどう表現しながら物語を続けていくのか、非常に楽しみでもある。

 

 

 

blog.monogatarukame.net

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応天の門 6 (BUNCH COMICS)

応天の門 6 (BUNCH COMICS)

 
応天の門 コミック 1-5巻セット (BUNCH COMICS)

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