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物語る亀

ネタバレありの物語批評

志村貴子 娘の家出 1話の紹介と4巻の感想

 志村貴子の娘の家出の最新刊を読んだのでその感想を。まあ、読み終わったのは1月ほど前の話なので少しばかり遅いものになってしまったが、相変わらずのジェンダーの描き方など独特の雰囲気を醸し出していて面白い作品となっている。

 今回は4巻の感想に加えて、1話の非常にうまい話の作り方を紹介したい。

 

娘の家出 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

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1話のつかみのうまい構成

 まず娘の家出1話のつかみのうまさを紹介しよう。

 この作品は連作短編となっており、基本的には1話完結の物語である。1話で出てきたまゆが一応主人公であるが、話によっては一切出て来ない回もあり、様々な人間に視点を変えていく群像劇となっている。

 なのである話では単なるサブキャラに過ぎなかった人物が、ある話では主役になるということも珍しくない。こう言った作品は特定の誰かに注目するわけではないのでキャラクターの作り方など少し難しい面もあるのだが、志村貴子は持ち前のジェンダーという武器を非常にうまく使って物語を魅力的なものにしている。

 

 では1話の簡単なあらすじを紹介する。

 女子高校生のまゆは母親の再婚を機に家出を決意する。向かった先は別れた父親の元だった。

 特にまゆは父親を嫌っているわけではない。ではなぜ両親が離婚したのかというと父親に男ができたからである。

 

 これは誤字ではない。

 父親に男ができたからである。

 

 リリーのすべての記事でも書いたが、男性が同性愛に目覚めるというのは女性よりも遅い傾向があり、子供が生まれた後に目覚めることがある。なので子供のいる同性愛者はそれなりにいるのである。

 

 ここでまず読者は「同性愛の父親かぁ……」と一気に引き込まれる(もしくは引かれる)

 しかし話はこれでおしまいではない。なぜまゆは家出をしたのか、母親の再婚相手が酷い男なのかと父親としてヤキモキして色々と考え込んでしまう。そんな父の心配をよそにまゆは平然と生活を続けていく。

 やがて父親の恋人である男性のしんちゃんを誘惑するが、相手は女性に興味がないので見向きもされずにフラれてしまう。

 

blog.monogatarukame.net

 

 ではそんなまゆの思惑とはなんだったのか?

 その一つは父親に対するいじわる。

 もう一つが以下のセリフである。

 

 でもたぶんいいのです別に あたしは父が大好きでしたから

 一度きちんと恨み言をぶつけてやりたいと思っていて

 でもたたきのめしてやりたいとまでは思わなかったのです

 

 ただ困ったのは

 母の彼氏も父の彼氏もどちらのあたしのタイプだということです

 そこだけは許せません

 

 ここはシビレたなぁ……

 父親が離婚していて、しかも同性愛者というだけでもとんでもない飛び道具を持っていたのにもに関わらず、それをオチに使わずにそれ以上のオチを用意する。これは本当にとんでもないスタートだなぁと感心した。

 個人的に特に評価するのは、これは漫画だからできることではないということだ。この物語はやろうと思えばドラマでも映画でも小説でも演劇でも、媒体を問わずに使える技法でもある。これが『物語』としての面白さだよなぁ……勉強になりました。

 

 

4巻の内容

 今回のタイトルにもあるように4巻の内容について言及していこう。 

 特に気に入ったのは#23の空も飛べるはず と#24の TRAIN TRAINだったので特にこの2つを中心に書いていく。

 

 引きこもりの姉妹が一気に変わった要因というのは2人とも違うものだった。

 姉には彼女ができて、妹には学校の担任という友達ができた。

 最近何かと話題の引きこもり問題だけれども、個人的には割とどうでもいい問題でもあるのだ。一応外で働いてはいるけれども、家と会社の往復だけで1日が過ぎていき、あとはテレビを見るかスマホゲームで時間を潰すかなんて人はいくらでもいるわけである。

 そこまでいくと自活はできているけれども引きこもりと対して変わらないように思える。(世間が自活できるか否かというのを重要視しているのは重々承知だが)

 

 大事なのはルーチンと違うことをすることであり、新しい人に会う、新しい街に行く、新しい店に行く、もっと言えばいつもと違う道で帰る、それだけでも人生は少しずつ変わっていくように思う。

 その意味で姉が外に飛び出して、たとえ同性であろうとも彼女を捕まえたというのはとても良い変化だなぁと思う。

 

 そして妹の方も同じで好きなアイドルのライブに行くというルーチンから外れた行動をしたことにより、新しい友人ができた。それが例え自分の担任であっても、その1歩が非常に大事だろう。

 教師と生徒の関係性ってどうしても壁があるように思えるが、あれだけの数の生徒がいれば気の合う人間、合わない人間がいくらでもいるだろう。その中で教師と生徒の関係としては多少常識外かもしれないが、同じアイドルが好きなファン仲間という関係性でもいいと思うのだ。

 

 

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 私が大切にする言葉で「10代のうちに30代の友人を見つけなさい」というものがある。誰が言ったのかは忘れたが、20代だと歳が近すぎる、40代だと離れすぎている。同世代ではない人間と友人関係になることで、その子の世界はすごく広くなる。

 この2人の関係というのはまさしくその通りだろう。

 

 それ以外の話でいくと、やはりメインはまゆと彼氏の大輝の初体験未遂だろうか。この辺りをどういう風に描くのか、少し楽しみにするのと同じように、できればその部分は見たくないなぁ……という思いも両立している私がいる。なんというか、家族のそんな話は知りたくない、という感情に似ているのかな。

 あとはせめてグッチにはまともな恋愛をしてほしいな。みんなが重いのも、ねぇ。

 

 

 志村貴子作品となるとどうしてもジェンダーのことばかりに目がいってしまうが、こうした人と人の繋がりとその変化をじっくりと描いていくことこそが志村貴子の真の強みだろう。

 次巻以降どのように人と人の繋がりが変化していくのか注目していきたい。

 

娘の家出 4 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

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