物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『去年の冬、君と別れ』感想 ミステリーのトリックが分かっても楽しめる映画作品!

カエルくん(以下カエル)

「今回はミステリー作品の紹介ですので、肝心要のトリックや犯人に対する言及はなしで書いていきます。

 そのせいでかなり読みづらい&作品を鑑賞してもわかりづらい記事になるかもしれませんが、配慮の結果ということで勘弁してください」

 

亀爺(以下亀)

「この手の作品の語り方の難しさじゃの」

 

カエル「映画として結構練られている作品でもあるんだけれどね。

 ただ、ちょっと語りづらいところもあるので……独特だけれど、面白い作品だとは最初に言っておきます。

 あと一応ごまかしていますが、ニュアンスなどで分かってしまうこともあると思いますので、そこもご注意願います」

亀「それでは感想記事の始まりじゃな」

 

 

 

映画チラシ 去年の冬、君と別れ 岩田剛典

 

作品紹介・あらすじ

 

 芥川賞も受賞した中村文則のサスペンス小説が原作。監督は『グラスホーパー』などの瀧本智行が勤め、『無限の住人』などの大石哲也が脚本を担当する。

 主演は人気パフォーマーの岩田剛典が事件をおうフリーライターの役を熱演。過去に事件を起こした写真家に斎藤工と火花を散らせる。

 恋人役には山本美月、写真家の姉には浅見れいなが起用されている。

 

 

 盲目の女性が焼死体となって発見された事件が発生し、その容疑者に浮上した写真家の木原坂雄大であったが、警察は殺人事件ではないと判断し、最終的に執行猶予付きの有罪判決が下り社会復帰を果たした。

 その事件を追う耶雲恭介は書籍化の夢を叶えるために決定的な証拠などを探りに木原坂に密着取材を敢行するのであるが、事態は思わぬ方向へと転がり始める……

 


『去年の冬、きみと別れ』予告

 

 

 

 

1 感想

 

カエル「では、いつものようにTwitterの感想からスタート!」

 

 

カエル「いや、これは……なんと言えばいいのかわからないよねぇ。

 だってさ、何を語ってもネタバレになるし……」

亀「そのために今回は軽く済ませようという魂胆でもあるの。

 まずは……そうじゃな、今回の作品に騙されたかというと……わしはそうでもなかったということは言っておくかの」

カエル「この辺りは普段映画と見慣れていることもあるだろうけれど、明らかに『うん?』と首をひねる部分が多いんだよね。それに対してツッコミをたくさん上げていたんだけれど、その多くが伏線だったというね」

 

亀「この辺りはこのジャンルのミステリーとして仕方ない部分かもしれんし、あのパターン自体も特に珍しいものではないと思うが……では、そのトリックが分かってしまうと楽しめないのか? と言われると、そんなことはない。

 本作はサスペンス映画としても上質な作品であり、手に汗に握る展開もあったの

カエル「ミステリー、サスペンスとして近年の大作邦画の中では結構レベルが高い作品と言えるんじゃないかな?」

亀「ただし、この作品のミステリー要素のすべてがうまくまとめられているかというと、わしはそうは思えん。かなりこのトリックは難点もあり、運の要素も非常に強いようにも思ったが……まあ、しかし色々考えてみれば納得できないこともない。

 その絶妙な緊張感を楽しむ作品でもあると言えるかもしれん。

 特にあのラストもわしはお気に入りじゃな

 

映画 去年の冬、きみと別れ ビジュアルブック (幻冬舎文庫)

 

 

演出の魅力について

 

カエル「トリックやストーリーについて語る人も多いと思うけれど、本作の演出についてはどうだった?」

亀「映画化の最大の魅力であり、難しさはどのように映像に落とし込むのか? ということではあるが、今作は映像化の意図が見えてことも多い。

 今回注目してほしいポイントの1つが『色』じゃな

カエル「映画を彩る色の美学ってことだね」

 

亀「本作で特にわしが注目したのは背景の色である。例えば壁の白であったり、あとは……写真を現像する部屋で使われている赤い光。あのような1つ1つの色に意味がある。

 鑑賞中はまだトリックも事件も分かっておらんこともあってボ〜ッと見ておったが、すべてを理解した後だとあの色の魔力がとてもいい味を示していたということがわかってくる

カエル「あ〜……これもより詳しく語るとネタバレだよねぇ」

 

亀「映像的な迫力もあり、火を使うシーンではしっかりとこちらにどれほど危険な状態なのかわかるようにできている。この原作を映像化するにあたって、文句のあまりない魅力のある映画に仕上がっておる。

 それから、結構攻めているなぁ、と思わせるシーンもある。

 ちょっと語りづらいところはあるが……中々キツイシーンも幾つかあり、また描写するには配慮を必要とする児童に関する描写なども大規模に全国公開する作品としては、表現できるギリギリのラインだったのではないか? と思うものじゃった。

 本作は映倫区分が特についていないが、多くの人に鑑賞しやすく、それでもインパクトを残すように配慮と工夫を重ねた結果の作品のようにも思うの

 

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この2人の対峙もまた見事
(C)2018映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会

 

役者について

 

カエル「では、次に役者について語るけれど……これもネタバレになりそうだというね。何を語ってもネタバレになりそうで怖いなぁ」

亀「今回、結構毀誉褒貶の激しい役者陣が多い印象があるが、それを覆してくれるという評価が多く聞こえるの。

 まず1つ言えるのは原作を知らない者からするとミスキャストや演技が下手だと思う役者はおらん。どの人物もそれぞれの味を深く出しながらも、映画として浮かないように調和していたように思うの」

 

カエル「例えば1度警察に捕まっている斎藤工の狂気の演技であったり、その狂気を追求したい岩田剛典の食らいついていく鬼気迫る演技や、ヒロインである山本美月の美しさも目立ったよね。

 今作はMVP級の演技力を発揮した役者も多くて、それまでの役とのギャップや印象が覆る人も多いんじゃないかな?

亀「やはりこのような役であるから狂気の演技が重要になってくるわけじゃが、その演じ方も裏にそれまでの人生であったり、意図があるように感じられるようになっておる。

 特にある人物の豹変であったりとか、また業の深さゆえの行動などについても見所がある作品となっておるな

 

 

以下致命的ネタバレを避けながら言及

 

 

 

 

2 演出の色について

 

カエル「では、ここから真犯人などの致命的なネタバレはしないように注意を払いながら考えていこうということだけれど……まずは先にも述べた色の演出について考えようか」

亀「今回、結構特徴的な色がたくさん使われておる。

 例えば序盤の取材に向かっているシーンでは不自然なほど白い背景や壁だったのにも関わらず、話を聞いているうちに徐々に暗くなっていく場面がある。これはその時の登場人物が真っ白な気持ちから、徐々に疑念を募らせていく、という演出でもあるし、また観客をそのように誘導しているというシーンでもあるじゃろうな。

 そして先にもあげたように赤い色の部屋などであるが……赤というのは興奮を誘う色でもあり、また怒りなどの色でもある。

 そのシーンを考えてみるとその登場人物が……異常な興奮状態であったり、または怒りなどを募らせているということがわかる演出であるの」

 

カエル「これさ、後々考えてみると意味合いがまたちょっと変わるんだよね。最初は『あ、この人の変態性が出ているのかなぁ』とか思っていたけれど、改めて考えてみるとあの人が抱く、目の前にいる人に対する感情であったりして……」

亀「決定的なネタバレをなしにしようと語るとなかなか伝わりづらいところでもあるが、実は2度目以降も楽しんで鑑賞できるように細かい工夫に満ちている作品だとも言えるじゃろうな。

 今作で少し思ったのが、容疑者である木原坂雄大のアートが黒人女性にカラフルな色を塗るというものであった。

 これは肌の色に左右されない、各々の好きな色を描くというアートなのであろうが、実はこの映画を端的に表現していたのかもしれんの

 

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余談ですがこのお店って映画で(特にサスペンス系映画)よくみる気がする……

(C)2018映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会

  

違和感のあるシーンも……

 

カエル「でもさぁ……これはしょうがないにしろ、違和感があるシーンは多かったんだよね。もちろん、それは伏線だったんだけれど……」

亀「どれが違和感があったのかは抜き出して語ることはしない……というかできないのではあるがの。それだとトリックが分かってしまうのでな。 

 ただ、わしが思ったのが……本作はかなり運の要素にも恵まれているな、というものであった。

 予告にもあるように本作は焼死体が登場するのであるが……まあ、この手の映画で焼死体が出てきたら、まずは疑わないければいけないことがあるが、今回もやはりそのようなトリックだっということじゃの」

 

カエル「奥歯に物が挟まった言い方だよねぇ」

亀「ただし、あのトリックは警察が本気になれば簡単に見破ることもできた。

 まあ、あの状況で、しかも警察も負い目があることを考えればあまり疑わないのも無理はないものであるが……事件性もあり、大きな案件にもかかわらずそこまで調べなかったことは相当運が良かったというほかないように思うの」

カエル「もしかしたらわからないように工夫されていたか、家ごと燃えてしまって照会ができないようになっていたのかもしれないけれどね。

 あとは……フリーライターとはいえ、あんなに簡単に仕事をもらえるのものかなぁ? とかかな」

 

亀「なんだかんだ言っているようじゃが、映画で観るミステリーとして結構レベルが高いものであることは間違いない。

 違和感があったり、もはやお決まりの流れがあるにはあるが、それもある意味ではこの手の作品の見慣れたオタク的私見によるものじゃろう。

 そしてその味を抜きにしても物語として見応えがある。

 かなりうまくいったミステリーの映像化であるように思うの

 

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この構図などもすべてを知った後に見ると色々な考察ができる

(C)2018映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会

 

映画の味として

 

カエル「でもさ、最後まで見終わった後にイヤミスではあるけれど、ちょっとスカッとした部分もあったかなぁ……

 あの人の動機も結構理解しやすいものであったし、ドロドロの内容が続いていく中でちょっと清涼感があるいい話もあって……だからこそ、この事件が発生してしまったことに憤りもあるんだけれど」

亀「強いて言えば、作中では視覚障害を抱える女性が第一の被害者になるわけじゃが、彼女が視覚障害である必要性はそこまで強くないようには思ったかの。別に意味がないといけないわけではないが、引っかかりとして少しあった。

 ただその人との交流があり、そしてその後に別の人との交流もあり……2人の人物と深い交流があったわけじゃが、ある意味では2人とも暗闇の中にいたわけでもある。

 その人たちに明日を生きる活力を与えたのは、紛れもないあの人であるわけでもあるでの

 

カエル「ものすごくひどいお話でもあるんだけれど、でもちょっといい話でもあるわけで……やってしまった行為は残虐そのものであり、確かに罪で絶対許されるものではない。だけれど、同時にその行為によって救われた人もいて……」

亀「その人間の二面性だったり、あるいはあくまでも利用するためだけの中でも生まれる思いという表現も好みのものであった。

 前にも語った気がするが、この手のミステリーの最後は勧善懲悪で終わることも多い。本作はイヤミスということで独特の終わり方を果たすのであるが、それがわしには単純な物語ではないように思えて、とても面白いものであったの」

 

 

 

最後に

 

カエル「え〜、かなり言葉を選んで致命的なネタバレにならないように配慮した結果、観た人もよく分からない記事になってしまったかもしれません」

亀「だからこの作品を記事にするのはやめようかと思ったのにの」

カエル「まあでもいい作品なんだよね。本当は全部フルオープンにして語りたいくらいなんだけれど、そういうわけにもいかないので……ちょっと読み難い記事になりましたが、これでご勘弁ください」