物語る亀

物語る亀

物語愛好者の雑文

子供に読み聞かせたい絵本『くまとやまねこ』

 今回はいつもと趣向を変えて、絵本を題材に紹介記事を書いていきたい。

 私は以前、絵本を研究したことがあるが、一冊あたりの値段が高いことと(カラー印刷と大判だから仕方なし)図書館の絵本置き場に一人で行くことが躊躇われたため、結局数冊だけ読んで終わってしまったが、その時に見つけた名作絵本を今回は取り上げる。

 

 私自身に子供はおらず、親戚なども特に周辺にいないために、子供に触れ合う機会というのはほとんどない。なので実際の子供も受けや、どれほど注目を集めている作品なのかはわからないので、もう誰もが当然知る名作かもしれないがご容赦を。

 

くまとやまねこ

くまとやまねこ

 

 

 『ある朝、くまはないていました。なかよしのことりが、しんでしまったのです』

 

 この衝撃的な言葉から本作は始まる。

 本作の主なメインストーリーは死んでしまった小鳥を忘れられず、埋葬することもできないくまが、やまねこと出会ってそれを乗り越えるまでのお話である。

 当然のことながら絵本なので文字数はそこまで多くないが、おそらく絵本の中でも少ない方なのではないだろうか?(『やこうれっしゃ』や『ふしぎなサーカス』のように言葉のない絵本もあるが)

 

 50P弱という少ないページ数に加えて、文字数もそこまで多くない作品ではあるものの、情緒的な文章がしっかりと物語やメッセージ性を含んでこちらに語りかけてくれる。

 

 文章自体も情緒的ですごくいいのだが本作の魅力をさらに増しているのが、酒井駒子が手がける絵であろう。

 独特な真っ黒な背景に浮かび上がる、白黒と色の濃淡だけで表現されたその絵は、イラストレーションとしても印象的である。特にやまねこがバイオリンを弾く場面があるのだが、見開きの2ページの背景がほとんど黒であるのに対して、やまねこやくま、花などは白くぼんやりと輪郭を現しており、眺めるだけで飽きることなくため息すら溢れてくる。

 

 前半やくまが引きこもってしまう場面などは背景も真っ暗で、絵を眺めているこちらも沈んでしまうようなものである。しかし、後半の絵は少しずつ赤い色がつき始め、最後の見開きの絵などは、それまで黒背景に白で表現されていたくまややまねこが、白背景に黒で表されるなど、次第に明るさを取り戻していく様子が現れている。

 

 

 作品の主題は『愛するものを失った悲しみ』であり、そこからどうやって立ち直るのかという、子供向けの絵本にしては多少重いような内容になっている。この主題(文章)の死んでしまった悲しみを背負ったくまの姿と、絵が合わさることによって、さらなる相乗効果を生んでいる。

 

 

 ではこの作品が子供向けなのか、と問われた場合は……うーん、正直難しいと思う。難しいと思うのだが、でも子供が理解できないお話かというと、そんなことはない。おそらく子供は子供なりのやり方で、その優れた感性を用いて作品を理解してくれるだろうし、絵を見ているだけでも何かを感じ取ってくれるだろう。

 子供の頃にはわからなかったお話が、大人になると意味がわかることもある。

 情操教育だなんだという前に、この作品が好きだと言える絵本や物語に触れることが一番大切なことだと思うので、こう言った作品に触れて物語の世界の奥深さに、幼い頃から触れて欲しい。

 

 絵本というと子供向けの軽い作品のような気がして、あまり大人が触れる機会のない作品であるものの、今作などはその構成方法や演出、ストーリーラインを考えても大人にも十分受け入れられるものになっているし、きっと生きていく上で誰もが経験する感情を深く揺さぶられるのではないだろうか。

 疲れてちょっとどうしようもないけれど、とりあえず気分転換したい時になど手に取ると癒される作品だろう。

 

 

blog.monogatarukame.net