物語る亀

ネタバレありの物語批評

実写映画『氷菓』感想 アニメ版とは別物とわかっていても、ミステリーとしての難点が多すぎる……

 亀爺(以下亀)

「では、氷菓の記事といくかの」

 

ブログ主(以下主)

「こちらは原作はもちろんだけれど、アニメ版が名作だからなぁ……」

 

亀「今回は小説版の実写映画化であり、アニメ版はあまり関係ないからの。

 そこを意識しすぎると、大切なことを見失ってしまうことになるぞ」

主「わかっているって。一応、アニメ版にはあまり触れないようにするつもりだけれど、原作を読んだのも5年以上は前だし……どれだけ覚えているかな?

 その意味ではある程度新鮮な気持ちで見ることもできるけれど……ミステリーってトリックを知っていると面白さ半減みたいなところもあるから、そこを如何にカバーするのか、そして映画の味を生かしてくるのか楽しみだね

 

亀「漫画原作の実写化には反対の声も多いが、本作は小説原作とはいえアニメが評判じゃったから、かなり反発もあるようじゃが……」

主「原作とアニメと実写映画が全部成功した作品はそこまで多くないからね。多分『ピンポン』『流浪に剣心』とか、本当に一部の作品だけじゃない?

 るろ剣は『追憶編』がアニメ界に残る名作なので、ぜひ鑑賞してね!」

亀「氷菓も……というよりも米澤穂信も小説家としての立ち位置が難しいところにいる作家じゃからな。ラノベではないが、若者に人気のある作家じゃしの

 では、感想記事を始めるとするかの」

 

 

 

 

映画チラシ 氷菓 山崎賢人 広瀬アリス 小島藤子

 

作品紹介・あらすじ

 

 人気作家である米澤穂信原作であり、最も注目を集めるアニメーション制作スタジオである京都アニメーション制作でテレビアニメ化も果たした『古典部シリーズ』の第1作にあたる『氷菓』の実写化作品。あくまでも小説の実写化のため、アニメ版は関係ない。

 主演は漫画実写化作品に多く出演する山崎賢人、女優、モデル業などで活躍する広瀬アリス。監督・脚本は安里麻里が務める。

 

 青春はバラ色……そんな思いに疑問を感じ、自らは省エネ主義で生きることを信条とする折木奉太郎(山崎賢人)は、姉の勧めによって入学した神山高校の古典部に入部することになる。

 誰もいない、楽な部活動を期待していたのだが、すでに千反田える(広瀬アリス)が先に入部していた。彼女の好奇心旺盛な疑問に巻き込まれるていきながらも、奉太郎はその謎を次々と解決していくのだが……

 


映画「氷菓」予告編

 

 

 

 

1 感想

 

亀「さて、とりあえずTwitterの短評はこちらになっておる」

 

 

主「今となっては、ここまで言うことはないのではないか? という思いもあるけれど、かなり否定的な意見が強い作品になってしまっているかなぁ。邦画は賛否が分かれやすい印象があるけれど……

亀「Yahoo!映画などでは2点を切っているというから、驚きではあるの」

主「そこまで悪い作品とも思えなかったけれど、それは仕方ないのかもしれない。何せアニメ版の氷菓は、名作、傑作を量産している京アニ作品の中でも屈指の映像美を誇り、人気の非常に高い作品だし、過去にこのブログではテレビシリーズの京アニ作品の中では過去最高の名作だと紹介しているし」

 

blog.monogatarukame.net

 

亀「もちろん、本作は小説版が元になっているのであり、アニメ版は関係ない。

 ないが、そんな名作があるのであれば、誰でも意識してしまうに決まっているではあるじゃろう。

 むしろ、この作品を制作した人たちの中ではアニメ版の氷菓の人気もあり、それなりにヒットすると思っていたのではないだろうか?」

主「小説原作の作品ではあるものの、アニメと比較されてしまう実写作品というのは、特に熱いファンであればあるほどに低評価を与えてしまいがちなものであるし、特に本作は京アニということもあって過度な反応を受けている印象があるけれど……その高すぎるハードルを越えられる作品はそうそうないだろうというのも事実でさ。

 ちょっと過剰に低い評価になりすぎている気はするかな

 

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本作の主人公の2人

キラキラ感のある画面作りは邦画らしい

(C)2017「氷菓」製作委員会

 

役者について

 

亀「本作の炎上をさらに助長しているのが、この役者陣じゃろう。

 彼らの演技がいいか悪いかということ以前の問題で、それぞれのイメージに合致するのかどうか? という問題がある。

 小説であればライトノベルなどは一部のイラスト入りの作品は別としても、それは具体的にイメージされやすい絵などとは違い身長、体重、姿形を文章で表現されていても、多くの読者の中の登場人物像は違っているものじゃしの」

 

主「本作の欠点としては……まず何よりも彼らが高校生には全く見えない。

 高校に入学したばかりの15歳の役を、今20代半ばほどの役者が演じてみたところで、どうしたって違和感というものは拭えないのは仕方ないよねぇ。おっさんがコスプレしている……とまでは言わないが、映画における制服が綺麗すぎることなどもあって、統一感が全くない」

亀「ふむ……もう少し若い役者を起用しても良かったのではないかの?」

 

主「その上に広瀬アリスでさ……

 えるって田舎町の豪農の娘という設定なんだけれど、目鼻立ちのはっきりとしたモデルからキャリアを始めた女性を起用してしまったことによって、先品とは全く違う都会的な雰囲気を獲得してしまった。

 その結果、彼女の存在が浮いてしまう上に、天然ボケの女の子の印象から、ただの計算高い女に見えてしまうところがある

亀「これは難しい問題じゃが……例えば同じことを話していたとしても、東北弁の方が田舎的な雰囲気があり、どことなく牧歌的な雰囲気を与えることができるのだが、これが都会的な標準語だとキツイ言い回しや計算高く思えてしまうこともあるだろう。だからもっと芋っぽい、純情な雰囲気を与える女優でないといけなかったのが、失敗してしまったのかもしれんな」

 

主「そして山崎賢人は……おそらく、奉太郎という主人公はそれなりに難易度の高い主人公だとは思う。

 何せ、感情の起伏があまりない上にナレーションで説明することが多いのだから、声の演技力も問われてしまう。一定のテンポで延々と話しかけてしまったことにより、かなり退屈な作品になってしまった印象だかなぁ」

亀「脇役の2人はそこまで悪くはない印象じゃったがの……」

 

主「岡山天音はかなりアニメ版の……阪口大助の演技に引っ張られているような印象がある。

 『銀魂』の時もそうだけれどさ、おそらく、あの演技というのは真似したくなるのか、観客であるこちら側に強く印象に残ってしまっているのか、そのモノマネのようになってしまっている部分も多くあったかな。

 小島藤子は悪くはないけれど、これは演出上の問題でもあるのだが本作にある過度な演技プランの中にアニメ的表現も見受けられたために、かなり嫌な女の子に見えてしまった」

 

亀「単にちょっと突き飛ばすくらいの、アニメなどでは単なるツッコミ描写やギャグ描写でも、実写になると暴力表現に見えてしまい、さすがにそれは……と引いてしまうこともあるからの。

 元々強気な摩耶花はその影響を強く受けた印象じゃな

 主「じゃあ1番良かったのは? と問われると……やはり斉藤由貴になるかなぁ。色々と話題の豊富な女優だけどさ、やはり今作のような影のある女性の役となると圧倒的な存在感を放つ。

 まあ、彼女の描き方も自体も本作では難があるように見えてしまった原因の1つなのだけれどね……」

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

2 そもそも氷菓が映像化向きか?

 

亀「では、ここからはネタバレ込みで語っていくことにするかの」

主「そもそもさ……氷菓という作品、面白い?

亀「いやいやいや、いきなり何を言い出すのか? アニメ版はあれほど大絶賛していたではないか」

主「自分が絶賛した氷菓って、いわゆる古典部シリーズなんだよ。氷菓、愚者のエンドロール、クドリャフカの順番を経て、遠回りする雛へと辿り着く……それが氷菓のアニメ版の構成なわけだ。

 で、大事な話だけれど……そもそも、シリーズ1作目の『氷菓』は面白いのか? という問題がある」

 

亀「面白いか否かは主観的なこととはいえ、ミステリーとしてはそこまで驚きがないというのは言われておるの」

主「キャラクターを売りにしている小説ではあるものの、1作目はそこまでキャラクター性が確立しているわけでもなかったしね。方向性を模索しているような部分もあっただろう。

 さて、ここで話が変わるけれどヴァン・ダインの二十則の第7条を覚えている?

亀「『長編小説には死体が絶対に必要である。殺人より軽い殺人では読者の興味を持続できない』じゃな。

 これは当然100年ほど前に書かれたものであり、本格ミステリーの根本となるものとされておるが、全て守るのは難しい。特に現代でも殺人事件を扱わない魅力的なミステリーも多くあるの」

 

主「でもさ、謎を追求しようというミステリーとしての興味が持続できないってのは、この作品は当たってしまっている。

 これが30分のアニメであったり、原作小説であればそこまで気にならなかったかもしれない。だけれど、2時間持続させるには弱すぎる。

 そもそも、ミステリーとして優れているかというと……そこまでではない、というのが本音だ

亀「まだ出会って間もない女の子のために労力を割くというのも変な話じゃからな。恋人とか、大切な人ならばわかるが、そこまでの関係性を構築できておらんし……」

 

主「アニメ版の場合はキャラクター性や作画の力で物語を引っ張っていった。

 でも『氷菓』という1巻の作品単体だと、やっぱりケチはつけるよ。

 単純にミステリーとして面白くないし。そこを実写化してしまったから……大変なことになっているんだろうね。

 他にも物語に緩急の波があまりないし、奉太郎の1人語りが抑揚がなくて、より退屈に見えてしまったかなぁ

亀「映像化そのものに向いていない作品だったのではないか? ということじゃな」

 

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時本作の4人がどうにもコスプレ感が拭えないのは、年齢上仕方ないか……

むしろ大学生ならピッタリなんだけれどね

(C)2017「氷菓」製作委員会

 

本作最大の欠点

 

亀「では、本作がミステリーとして崩壊しているという1番大きな欠点について語っていくかの」

主「もうさ、映画としてダメダメなのは仕方ないけれど……例えば、33年前の出来事を回想形式で再現しているけれど、当時の校舎はもちろんのこと、周辺の家も全て現代と何も変わらない。衣装が変わっただけ。

 昭和の話でしょ? 1960年代の話でしょ? 何で建物が現代と変わらないのよ?

 そういうところがまずダメ。だったらもっとカメラワークを考えたり、いっそ学校を変えてしまってもいい。だって建て替えているんだからさ。

 今作は建物が重要なのは映画を見て貰えばわかるけれど、そこで手を抜いたら何の意味もない」

亀「それが最大の欠点かの?」

 

主「全然? これは邦画がいかに安く作られているか、という説明に過ぎない。

 これはミステリーの鉄則でもあるけれど……醍醐味ってどこにあると思う?

亀「ふむ? 普通に考えたら『想像を超えるトリック』だったり『探偵が名推理をするシーン』などの論理的思考やキャラクターが本領を発揮する瞬間にあると思うのじゃが……」

主「そこが全くなっていなかった。いい? 普通はミステリーというのはね……

 

 

亀探偵『今回の事件は難問じゃったが、全て解き明かしてしまった。トリックはどうこうで、状況から推察するにどうこうであり、目撃者の証言を統合するとこうなる。

 ということは……犯人は、カエルじゃな』

犯人カエル「……くそ! そうだよ! 僕が犯人さ!

 あいつは昔からうざったくて、いつか目に物を見せてやろうと……でも殺すつもりはなくて……!」

 

 

 などといった展開になる。つまり、探偵役が謎を解き明かし、それにより論破されてしまった犯人は自供を始めるという構図だ。

 だけれど、この作品はね……

 

 

亀探偵『ふむ……あの人は何かを知っていそうだから聞いてみようかの』

証言者カエル『ああ、あの時のことについては、こういう過去があってね……そしてあの人がそれに巻き込まれて、結局最後はこうなったんだよ』

亀探偵『では、1つ聞きたいがその時のあの人は……?』

証言者カエル『そう、あなたの推理どおり……』

 

 

 となる。

 つまり、証言者に話を聞きにいったら全部ペラペラと説明してくれるの

 そんなミステリーある!?

 

亀「斬新ではあるの……ダメな方に斬新じゃが」

主「全ての関係性をセリフにするだけじゃ飽き足らず、いよいよ探偵の推理すらも関係者からの解説セリフで表現するようになったのか……と、絶望感すら覚えた。

 もちろん、原作もアニメも最後の答え合わせのようなパートはあるけれど、奉太郎がその推理を披露して、それに対してほぼ正解だという答えをしてから、過去について話し始める。

 細かい違いのようだけれど、知っていて尋ねているのか、知らずに尋ねているのかという違いはミステリーとしてとても大きい」

 

 

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最近忙しい山崎賢人

彼独自の味がもう少し見えてくれば色々変わるのだろうが……

(C)2017「氷菓」製作委員会

 

本作が示した『氷菓』の味

 

亀「しかし、それでも酷評は酷評でも大批判するほどではないんじゃろう?

 いつもならもっとボロクソに言っているはずじゃからの」

主「……でもさ、本作って確かに『氷菓』の物語でもあったんだよねぇ。

 自分は以前アニメ版の記事でも書いたけれど、氷菓という物語は『大きな力に翻弄される子供達の選択』が魅力だと思っている。

 この大きな力というのが、例えば『才能』であったり、あとは『家柄の責務』とかさ、色々なものがある。そして本作は『権力への抵抗』と、その圧力に負ける人たちを描いている」

 

亀「結局目的は達成させられたが、そのために権力によって犠牲になる人がいて、その横暴を誰も止めなかったというの……学生運動を描きながらも、実はその学生達も火の粉が飛んでくることを恐れてただ見ているだけじゃった。

 志が高いようでありながら、実際はそうでもない……現代社会と一緒じゃな。安保闘争で戦って社会革命を成し遂げようとしていた学生達も、社会出ると普通の会社員となり、今は若者たちに老害と呼ばれて保守権力の象徴のようになっておる」

 

主「いや、そこまで言ってないからね? あくまでも亀爺の主観でしょ?

 まあ、でもさ……彼らの、この先が続くことを考えた時にそれは重要な話なんだよね。奉太郎のいうように学生時代は『バラ色』というわけにはいかない。

 むしろ、自分は青春時代は地獄の期間だとも思う。色々な葛藤や将来への悩みを抱えながらも、選択の時は常にくるわけで、まだ何の力も持っていないのに、社会の圧力……という言葉が正当化はわからないけれど、大きな流れに巻き込まれていくわけだよ。

 その中にいかに生きるのか、そしてどのような選択をしていくのか……それが『氷菓』の味なんじゃないかな?

 

 

 

 

最後に

 

亀「では、ケチつけてばかりでも仕方ないので褒めるポイントも上げていこうかの」

主「1つはインドのエナレス地方の映像がとても良かったよね。ここで叔父さんの生死不明だったことに、救いが生まれた。冒頭の映像は一気に引き込まれたよ。

 それから学生運動をより前面的に出してきたこと。それでテーマ性もすごく伝わってきたかな。ただ、先ほども述べたように再現した部分にはあらが目立つし、全体的に高校生には見えなかったけれどね」

 

亀「他の映像化が偉大だと大変じゃな……」

主「その分ハードルは上がりまくっていることもあっただろうけれど……まあ、もうちょっと工夫がないと辛い作品だとも思う。

 大体さ、この氷菓事件の後すぐに学園祭が始まっているけれど、だったら古典部はその年の会報は作っていないわけ? 過去の会報を発掘しておしまいですか?

 色々と粗が多いのは残念だったかなぁ……」

 

 

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