物語る亀

物語る亀

物語愛好者の雑文

キンコン西野の『えんとつ町のプペル』無料公開騒動について思うこと

カエルくん(以下カエル)

「今日が直木賞の発表日だね

(恩田陸の『蜂蜜と遠雷』が受賞しました! おめでとうございます!)

 

ブログ主(以下主)

「……そうだな」

 

カエル「なのに、その当日の記事がこれでいいの? まだ5作中1作しかレビューしていないよ!」

主「やることが結構多いんだよねぇ……まだテレビアニメの1話を見てオススメ度をつけるってやつもできていないし……」

カエル「忙しい中で順序をつけて、しっかりとやるのが立派な社会人でありブロガーなんじゃないの!? そんなんでいいの!?」

主「……なんでお前に怒られているのかよくわからんけれど、まあいいじゃん。

 で、今回はそんな予定があるにも関わらず、この話題を取り上げるけれど……」

 

カエル「一部ですごく色々言われているよね。擁護する人もいれば、非難する人もいてさ」

主「この問題ってアマチュアを含めてクリエイターにとって、すごく大事な意味もあると思うから、今回はこの件について語っていきます。

 それじゃあ、記事スタート!」

 

 

 

 

 

 1 ことの始まりから

 

カエル「そもそもさ、この『えんとつ町のプペル』騒動ってなんなの?」

主「お笑い芸人のキングコングの西野が書いた絵本があるんだよ。色々と言われている炎上芸人ではあるけれど、絵本のクオリティは結構高い。書き込みの量が半端なくて、情報量が多い。

 自分はたまに絵本も読むんだけど、その中でもずば抜けている……とまでは言わないけれど、このレベルは確かにすごいよ。

 絵本でいうと『アライバル』も画集としても素晴らしいと思ったけれど、この作品も負けているとは思わない

 

カエル「色々と言われているけれど、絵本作家としてのクオリティは結構いいよね」

主「それで、色々と言われている要因の1つが『分業制』なんだよ。絵本の 作家というと1人の作家だったり、絵と文は別れても2人とか、少人数で作るのが一般化しているけれど、この作品は『絵本を監督する』という名目のもと、西野が舵をとって他のクリエイターに制作を任せるというやり方をしているわけだ」

 

カエル「画期的だよね。そのためにクラウドファンディングで1000万円を集金して、総勢35人と言われるクリエイターを集めて制作しているもんね

主「それだけの資金と人を集めることができたのは『芸能人』という肩書きのおかげ。多分、五味太郎や酒井駒子のような絵本業界で有名な作家であろうとも、同じことをしようとしてもそこまでお金が集まらないと思う。

 その意味では芸能人という肩書きをうまく使った、面白い作品なんだよね」

 

 

問題になっている理由

 

カエル「それが結果的に23万部を売り上げて異例の結果になったわけだけど……発売して3ヶ月経って、今更何で注目集めるかというと、この発表がブログであったからだよね」

 

lineblog.me

 

主「これはすごいよね。

 単純に言うと『2000円は子供にとって高いから、無料で公開するよ』ということだよ。その宣言をして、一気に注目を集めて、一部では炎上している。

 例えばその反応としてあるのが、声優の明坂聡美のツイッターを要約すると『私はこの作品大好きでクラウドにもお金を出したけれど、このやり方はクリエイターの対価も下げてしまう可能性があるよ』

 ということで反対している。まあ、反対意見が多いのかな」

 

カエル「そうだよねぇ……まだ発売して3ヶ月で本屋さんなどは寝耳に水の発表だしね。

 で、主はこの発表についてどう思ったの」

主「……正直、すごいことを始めたなぁって感心したよ」

 

 

 

 

2 この発表は吉と出るか?

 

カエル「すごいこと? 結構好意的に受け止めているの?」

主「まず、西野の売れ方っていうのは『炎上商法』なんだよ、基本は。炎上することによって注目度を集めて、さらに宣伝してもらう。

 それって物を売るには問題あるように思うけれど、炎上商法は現代のSNS全盛の時代ではある意味では最強の宣伝方法だから。それは2016年の最大の出来事でもある『トランプ大統領』に十分出ている。

 トランプが過激なことを言えば言うほどメディアの注目を集める。そしてそれに芸能人や知識人が反論することによって、より敵と味方がはっきりとしてきて、信者もアンチも熱狂する、そして注目度はうなぎのぼりだよ」

 

カエル「炎上芸はブロガーとしても1つの方法として確立しているもんね」

主「その売り方は間違いなく現代合った販売方法でもあるよ。

 これでさらに注目度を集めているし、爆発的に売上も伸びると思う。自分もこうやってこのブログで文章を書いているけれど、勝手に誰かが宣伝してくれるわけだよ。このまま静かに落ちていくよりも、これで爆発的に伸びるならというある種の賭けであるけれど、それに見事に成功していると思う」

 

カエル「え? じゃあ主はこの売り方がありだと思うの?」

主「まず、この作品には最初に言った通り『芸能人西野』というブランドがあって成立する作品なわけだ。そうじゃなければ、これほどの作品であろうとも注目を集めることなくひっそりと本屋で朽ちていく。

 絵本って先ほどにもあげた『アライバル』しかり、いい作品もしっかりあるよ。だけど、問題は宣伝方法であって……アニメが子供向けと思われている以上に『絵本は子供向け』という意識は日本人の中で非常に強い。

 それは間違いだとは言わない。確かにメインターゲットは子供だけど、でも大人に読む価値はないかというと、それは違うわけだ」

 

 

絵本を売るための手段

 

カエル「何回かこのブログでも絵本を取り扱ったことはあるよね」

主「特にオススメする絵本はこの3つでさ。 

 

くまとやまねこ

くまとやまねこ

 

  

アライバル

アライバル

 

  

ヨーレのクマー

ヨーレのクマー

 

 

主「この3作品は下手な小説を読むよりも、よっぽど価値があるし素晴らしい作品だと思う。教訓もありながら、読み取り方も多種多様だしね。今はパッと思い出せないだけで、あれもこれもという名作もある。

 特に『ヨーレのクマー』なんて国民作家とも言える宮部みゆきの著作だけど……じゃあどれだけの知名度があるのか? 売れているという話はあまり聞かないけれどね」

カエル「絵本業界って1万部売れたらベストセラーなんて言うもんね」

 

主「そう。それを売るのに四苦八苦している中で、こういう売り方もあるよというモデルケースにはなると思う。その意味だけでも価値はある」

 

 

 

 

3 この宣伝方法は意味があるのか?

 

カエル「でもさ、無料で公開されているのに買う人っているのかな?

主「絵本ってことを考えれば、この宣伝方法は理にかなっていると思う。

 2000円がうんたらとか、子供たちのためとか、お金の奴隷の解放だとか言っているけれど、そんな言葉は抜きにして考えると……実は結構計算された計画だと思う

カエル「え? だって無料で読めるんだよ? わざわざ本を買うの?」

 

主「買うよ。

 無料で満足する人は、元々買わない人。もしくは立ち読みで済ませる人。だけど、こうやって無料で公開することによって、本来は買ったかもしれない人が『試聴』みたいな形で読むわけだ。

 間違いなくこの作品は『読んだら買いたくなる』作品でもある。ネットだけじゃなくて本という形で保管しておきたいと思わせるクオリティがあるし、そもそも先ほどから言うように宣伝にもなっているし。

 あとは子供だよね。子供がこれでタダで読んで『これが欲しい!』って思って親にねだったら、親としたらネットで読ませるよりも紙の本で読ませたいという思いがある人は多いと思う。しかも、親も無料で読んでそのクオリティは理解しているから『子供が本を読みたがっているし、これだったら……』ということで財布の紐が緩むことがあるでしょう」

 

カエル「親世代の人が試し読みをして『これなら子供に読ませたい!』ということで買うということもあるだろしね」

主「その意味で、この宣伝方法は画期的で売り上げにつながると思う。もう売り上げは爆発的に伸びているらしいけれど、理にかなった商法だよ」

 

 

blog.monogatarukame.net

 

 

 

 

日本における本の扱い

 

カエル「日本における本の扱い? これってどういうこと?」

主「簡単に言えば、なんで電子書籍が日本で流行らないのか、という話だよ。本来ならばもっと電子書籍は流行ってもいいけれど、諸外国に比べて日本は本の扱いがまた少し違うんだよ」

カエル「……どういうこと?」

 

主「海外では本って『書かれていることの情報を買う』という側面がある。だから、その本もペーパーバックと呼ばれる、簡易な装丁の本が結構出回っている。

 安いからね。書かれている情報を買うということを重視するから、それで十分なんだよ。だから、電子書籍がすごく流行っているのも書かれている情報が紙媒体か電子媒体の違いでしかないから、抵抗はあまりない。

カエル「それは日本とは少し違うかも……」

 

主「日本は立派な装丁をして、コレクションアイテムとしても機能している。本を読む、という行為に特別な思いを抱えているし、紙媒体に愛着もある。

 だから日本では電子書籍は中々流行らないんだよね。

 そしてこれは『絵本』だとより顕著になると思う

カエル「……ああ、そうか。書かれている内容を買うわけじゃなくて、その絵を買うわけだもんね」

 

主「そう。紙媒体で絵本を読むことに意義を感じている日本人が非常に多い。だからこの戦略は極めて日本向けなやり方だよ。

 本来、安くして売りたいとか、子供のお小遣い云々言うならペーパーバックにして売ればいんだよ。廉価版ってことにして。コンビニの漫画みたいな形にしてさ。でも、それは嫌だったということでしょ?

 そう考えると、やっていることは漫画と同じだよね。100話まで無料公開! この先は課金してね! というのと、やっていることは変わらないと考えると、中々面白い着眼点だよね」

 

 

 

 

4 この商法の未来

 

カエル「じゃあ、主はこの商法はありだと?」

主「選択肢としてはアリだけど、これが一般化すると困るね

カエル「……どういうこと?」

 

主「だいたいさ、ネット社会ってなんでもかんでも『情報はタダ』って思いすぎている気がするのよ。

 自分もこのブログで宣伝を乗っけたり、商品を紹介してお金を稼いでいる。それはなんで? って言われたら、やっぱり儲けたいからだよね。だから、基本無料だけど、宣伝でお金を稼ぐというやり方をしている。

 だけど、このアフィリエイトも色々と言われるわけ。やれ『商業主義だ』って言われたこともある」

 

カエル「ネットだとwikiとかもあるから、そういう意見は増えるかもしれないね」

主「だけど、このブログで主に行っている映画や漫画の記事を書くために作品を読んだり見たりするにもお金はかかるんだよ。まあ、勝手にやっていることではあるんだけどさ。この文章を書くにもコストはかかる。時間もお金もかかっているんだよ、当たり前だけど。

 だけど、ネットって『情報はタダ』みたいな意識って依然あると思うんだよね」

カエル「それが助長されてしまうんじゃないか? という懸念があるのね」 

 

 

blog.monogatarukame.net

 

 

近江商人の教え

 

カエル「近江商人の教えってあれだよね。『売り手よし、買い手よし、世間よし』の3拍子が大事だという教え」

主「今の日本って基本的に『お客様は神様です』の精神だからさ、買い手はいいけれど売り手は儲からない、世間がより困窮するってことになりかねない。本来は適正価格があるはずなのに、そこから外れてしまっているものも多いと思う。

 世間よし、という考えがすごく大事で……安ければいいというものじゃない。その安売りは、必ず自分の商品が安く買われるということで跳ね返ってくる」

 

カエル「顕著なのはアニメ界かもね。手塚治虫が安売り合戦したから、今のアニメ業界にお金が入らないんだって話もあるし……」

主「もしかしたら、西野は絵本界の手塚治虫になる可能性があると思うよ。もちろん、それは偉大なる漫画家手塚という意味じゃない。

 アニメの安売りをしてしまった、アニメ作家として弊害も大きいとされる手塚治虫だよ。

 手塚はアニメが安くてもよかったんだよ。自分の作品が映像化されることで宣伝にもなるし、赤字が出たら漫画で稼いだお金から出せばよかった。それで回っていた時期もあるし。

 だけど、それがスタンダードになってしまったからこその苦しみもあるわけで……」

 

カエル「これが絵本業界の常識になったら、さらに苦しむことになる、と」

主「そう。何度も言うように『芸能人』だからこそできたことだよ、これは。キングコングの西野という名前がなければ、どんな素晴らしい作品でも埋もれていた。だからこれは特殊な例であり、特殊な売り方。

 どれほど効果があっても、限定的なものだと思うけれどねぇ」

 

 

 

 

最後に

 

カエル「では、久々の時事ネタをこれで締めるけれど……」

主「でも、自分は一定の評価はしたいなぁって思いもあるんだよ。絵本業界だけじゃなくて、出版業界がジリ貧なのは間違いない。 

 特に電子書籍などに弱いから、この先ここを開拓していかないと未来はない。そのための1つの試金石として、さてどうなるかってことだよね」

 

カエル「これだけ大胆なことをしないと革命にはならないしね」

主「実は面白い話もあって……

 電子書籍の漫画において『すべてを公開して、気に入ったら課金してね』という方式と『一部を公開して続きを読みたければ課金してね』の2つのパターンを比較した場合、実は前者の方が稼げたんだって。

 それがどのような方式だったのか、そのソースの信頼性まではなんとも言えないけれど、そういう話も転がっている。

 これを『眉唾だ!』というのは簡単だけど、頭の片隅に入れておくと面白いことになるかもしれないね」

 

カエル「実験としては面白いけれどね……」 

 

 

えんとつ町のプペル

えんとつ町のプペル

 

 

 

オルゴールワールド

オルゴールワールド