物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『ネオンデーモン』感想と考察 演出が語りかけてくる情報量が非常に多い! ネタバレあり

カエルくん(以下カエル)

「さて、今回はモデル業界の闇と、女性の持つ美への羨望を描いた映画ネオン・デーモンの記事だけど……」

 

ブログ主(以下主)

「はい、今回は長いから前置きはなし、サクサクと行くよ」

 

カエル「え? そんなに語ることが多いの?」

主「超多い! いつも映画を見るときはノートを取るけれど、1ページも埋まらない作品が多い中で、2ページ埋まったから。ページ数が多ければ多いほど、書くことも増えていく。

 まあ、シンゴジラの場合は5ページ、聲の形は3ページとかだったから、それに比べると少ないけれど、今回は語ることが多い

カエル「へぇ……むしろ語りすぎてまとまりがない記事になりそうだねぇ……」

 

主「なんというか、作り手と受け手の相性が抜群に良くてキッチリとハマった印象だな。この映画の演出とか、テーマ性がガッチリと組み合わさって、見ている最中は『スゲェ!!』って思わず小声で口から出たほど。

 その理由なども解説します。

 あとは、最初に語っておくけれど本作はネタバレがない方が楽しめるので、未見の方はネタバレありは絶対に見ないことをオススメします!!」

 

カエル「早くもテンションが上がっている……

 じゃあ、感想記事スタートで」

 

 

 


映画『ネオン・デーモン』予告編

  

1 ネタバレなしの感想

 

カエル「この映画をネタバレなしで話すのって少し難しいけれど、まずは語っていこうか」

主「基本的に前情報は入れないで見に行くタイプなので、今回は監督情報も含めて全てシャットアウトして行ったのね。

 そしたらさ、思っていた以上にエグイのよ!

カエル「R15だしねぇ」

 

主「本作が R15指定なのは芸能界の闇を暴いたからっていうのと……いや、それだけだとR15にならないけれど、イメージ的に『モデル業界の裏を暴きます』だと枕営業とか、そういうエロチックなシーンを連想するでしょ? 本作は綺麗な女優さんがたくさんいるし。

 だけど、意外なことに非常にグロい!

カエル「見ていて辛かったよね……昨年もグロい映画を何作も見たけれど、それとは違うエゲツなさを感じたよ……」

 

主「それはとんでもないものなんだけど、自分はむしろウエルカムなグロテスクで……単に血をいっぱい出す、スプラッターホラーのようなエゲツなさとは少し違う。詳しくは言えないけれど、例えば『ドント・ブリーズ』とか『ヒメアノ~ル』のグロテスクさとは少し違う。

 何が違うのかっていうと少し難しいけれど……『えー! それはダメだよ! ギャー!』っていうのがよくあるスプラッターホラーだとしたら『……気持ち悪い』という旧劇場版エヴァのアスカの台詞のような辛さっていうのかな?」

 

カエル「……それ、通じているの?」

主「自分は園子温とか結構苦手だけど、このグロさはあり! いや、見たいとは思わないけれど、まだ楽しめるかな? 結構エゲツない映画だから、そこは覚悟したほうがいいかも。本当はそれも知らないで見に行って欲しいけれど、さすがに苦手な人が見に行くと辛いね」

 

 

 

連想した他作品

 

カエル「本当は映画の感想を他の映画をあげて語るというのは、あまりよろしくないんだけどね。しかも、今回はいくつもの映画のタイトルがでてくるし……」

主「すべてを見たという人は少ないと思うから、サラリと語っていくよ。もちろん、紹介する作品のネタバレはしません。ただ『こういう演出や共通箇所があります』と語るにとどめます」

カエル「当然といえば当然だよね」

 

主「まず、誰もがこの題材を聞いて連想するのはブラック・スワンだと思う。役をめぐって色々とトラブルが巻き起こる、バレリーナの裏の顔を映し出した名作で、ナタリー・ポートマンがアカデミー賞主演女優賞を獲得した、彼女の代表作の1つ。個人的にも大好きなダーレン・アロノフスキー監督で、名前だけなら知っている人も多いと思う」

カエル「題材は似ているよね」

 

主「ただ、この映画を読み解くには『ブラック・スワン』の基になったと言われる、今敏監督のアニメ映画パーフェクトブルーの方が分かりやすい。というか、個人的にはまんまパーフェクトブルーだと思ったよ

カエル「1998年公開だけど、当時では珍しかったネットを使ったストーカーなどを取り入れた、アイドルの苦悩を描いた名作アニメだね」

主「ネオン・デーモンは色濃く今敏テイストを感じたね。若くして亡くなって5年過ぎたけれど、やっぱり偉大な監督だよ」

 

 

 

 

色彩のマジック

 

主「さらにいうと色使いはこちらもアニメ監督の『湯浅政明』のテイストを感じた。

 初期のクレヨンしんちゃんの映画とか、ちびまる子ちゃんもEDなどを担当し『マインド・ゲーム』という映画でその真価を発揮して、アニメでしか出せない独特の世界観を演出した。

 さらに『ピンポン』『四畳半神話大系』という近年のテレビアニメでは稀代の傑作を監督し、今年には『夜は短し歩けよ乙女』も映画化する人」

 

カエル「最大の特徴は原色を多用して、フラッシュバックのようにチカチカと点滅させたりする、独特な色使いだよね。通称『ドラッグ作画』なんて呼ばれたり」

主「実写映画でいったら、やっぱり黒澤明のどですかでんじゃないかな? 

 元々画家志望者だった黒澤が、初めて白黒からカラー映画に挑戦したけれど、あまりにも独特な色使いと作風によって酷評されて自殺騒動まで巻き起こったという怪作。

 とにかく、色の使い方がすごく特徴的な作品なんだよね

 

カエル「それこそ記事にはしなかったけれど、昨年公開の『ジュリエッタ』も近いかもね」

主「色々と深い演出があったんだろうけれど、いまいち読み取れなかったから悔しながら記事にはしなかったんだよね……まあ、それはいいとして、ヨーロッパ映画とかによくある『絵としての存在感』はとてもすごい映画だから」

カエル「ただ、目はすごくチカチカするので、フラッシュ演出に弱い人は注意してね」

 

 

 

語らない脚本、雄弁な演出

 

カエル「この作品がわかりにくいのって脚本の責任も大きいよね」

主「これは話の流れが悪いとか、そういうことではないんだよ。

 会話が極端に少ないの。

 そのかわり、演出がすごく特徴的だから、そっちに注視しないとこの映画の意味がよくわからない、読み取りづらい映画になっている。その意味では正しく『映画的な映画』だと思うよ。この映画を小説や漫画にしろって言われたら、面白い部分の7割はカットされちゃうかもしれない」

 

カエル「会話が少ないとやっぱりわかりづらいよねぇ……」

主「個人的な思いになるけれど会話って補助線だと思うのね。絵だけだと理解できないから、物語をより理解しやすいように引かれる補助線。

 先月公開のドキュメンタリー映画の『ヒッチコックとトリュフォー』でも語られていたけれど、本来は会話っていらないんだよ」

カエル「誤解を招かないように注釈すると、元々映画の歴史はセリフの少ないサイレント映画から始まったと考えれば、演出さえしっかりすればセリフは最低限でも理解できるはずだって意見ね

 

主「よく邦画である最悪な脚本が『私はこんなに悲しいの!』とか『今の状況はこうこうこうでね』って説明する会話。それは補助線を引きすぎて映画の魅力を削いでいるし、余計に分かりづらいものにしている。

 逆に会話が少ないと説明が少ないって印象も与えるから、ここはバランスを取るのが現代のやり方だけど、本作はバランスをとることを放棄しているようにも見える。

 脚本が薄い分、演出を見てっていうのはそういうこと。芸術的な映画に多いかな?

 あとは当然女優陣も美しいし、ファッションも面白いので、つまらないと思ったらそっちに注目するのもいいかもね」

 

 

以下ネタバレあり!

未見の方は引き返すことを推奨します!

 

 

 

 

2 語られる演出

 

カエル「さて、ここまででも通常の記事1本分だけど、ここからが本番なのね」

主「そうね、ここからも長いよ! しかも演出についてバリバリとネタバレしていくので要注意!

カエル「はい、了解。では語っていきましょう」

 

主「まずは冒頭だけど、ここだけで全てが完結しているとも言える。

 冒頭は主人公のジェシーがソファーで横たわりながら写真を撮る場面で始まるけれど、その絵がすごく特徴的でさ、色彩のマジックがいきなり現れている。

 片方が赤で、片方が青なんだよ。これは何を意味するのか、というと『生と死』ということもできるし、あるいは『動脈と静脈』ということができる。その中間で口から血を流して死んでいる少女、ジェシーという構図だね。

 この写真を手にモデル業界に入っていくけれど、ここだけでこの物語の結末が雄弁に語られている

 

カエル「……まあ、いきなり結末に触れるわけにはいかないから、少しずつ話していこうか」

主「そうね。その次のシーンはジェシーとメイク担当のルビーの会話のシーンになる。ここで鏡合わせのシーンになって、延々と2人が向き合っているように見えるけれど、実際は鏡越しの会話だったりするわけだ。

 ここは絵としてもすごいけれど『鏡の中の相手との会話』という意味もあるように思うね」

 

カエル「鏡は多用されていたよね」

主「結局さ、自分が自分のことを美しい顔か否かということは、鏡を見ないとわからないわけだ。誰も彼もが『鏡の中の自分』と対峙することによって、自分という存在を確認している。

 そして鏡というのはそのまま『虚像の世界』でもあるわけで、華やかな世界の闇や嘘などを暴き出していく、という演出とともに、ルビーの怪しさも増しているわけだね」

 

ポスター/スチール 写真 アクリルフォトスタンド入り A4 パターン1 ネオン・デーモン 光沢プリント(写真に白枠があります)

 

 

階段とやまねこ

 

カエル「あとは……わからないって言われそうなのは、あのやまねこだよね?」

主「あれはそのまんまの意味だよ。後半になるとやまねこの剥製が登場するシーンがあるけれど、それが脅威だったって話。

 この映画では何度もジェシーに対して警告を発するような演出がされている。それこそ、最初の写真だってそうだよ。だけど、それはジェシーには届かない……まあ、メタ的な意味での警告だから届くわけがないんだけど」

 

カエル「そのやまねこの正体が誰なのか、っていうところも肝なわけだね……」

主「そうね。

 それから、階段の演出も光ったなぁ」

カエル「写真を撮るネットで知り合った男とのシーンだね」

 

主「最初にデートをして、2人で『次もまた会おうね、約束だよ』っていうシーンがあるんだけど、あのシーンだけで関係性がはっきりとわかる。

 ジェシーは2階にいるけれど、男は1階で彼女を見上げることしかできない。これは明らかに2人の間に生まれた格差を象徴しているよね。だけど、この時点ではしっかりとお互い向き合って、見つめ合っているわけだ」

カエル「かわいらしい、16歳の恋愛だよね」

 

主「だけど、どんどんジェシーはスター街道を登っていくことによって2人の間には壁ができてしまう。その決定的なシーンが階段のシーンで……

 このシーンでジェシーは階段を上るんだよ。だけど、男は俯きながら下を眺めて、2人は顔をあわせることがない。ここが決定的な描写だよね。

 だけど、このシーンの面白いところが『登る先がオンボロアパート』であり、さらに言えば『やまねこが待つ部屋』っていうのが、また象徴的だ」

カエル「引き返すならここがラストチャンスだったのかもねぇ……」

 

 

 

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3 美のテーマ

 

カエル「さて、じゃあいよいよこの映画の核心に入っていくけれど、結局のところこの映画のテーマってなんだったのかな?」

主「明確なところでは『美の魔力に取り憑かれしものの末路』ってところじゃないかな?

 ジェシーは整形などを一切していない、素顔が美しいから注目を集める存在であり、他のモデルたちは『整形なんて身だしなみと一緒よ』というように、美のためならばなんでもするわけだ。

 他にも『価値には痛みが伴うの。誰だって素顔は嫌いでしょ?』

 自分は整形は身だしなみって感覚、わからないでもないけれどね」

 

カエル「えー? だって体にメスを入れるんだよ?」

主「いやいや、でもさ、ピアスだって体に穴を開けるじゃない? その昔は纏足やコルセットなどもあったし、体を美しくするためにメスを入れる、というかそれこそ形を整えるという意味での整形をするっていうことは普通にあったわけだよ。

 じゃあ、メイクやピアスと整形手術は何が違うのか? 素顔をいじるという点では同じじゃないの?」

カエル「え〜? それは極論だと思うけれどなぁ……」

 

主「勘違いして欲しくないのは『だから整形しようよ!』って言いたいわけではなくて『整形するほどの努力を認めてあげようよ!』ってところかな? もっと言えば『素顔のあなたが1番素敵!』って言いたいけれど……男も女も身だしなみぐらいは大事だしねぇ。

 オシャレぐらいは気を使わなければいけないけれど」

カエル「少し話が逸れ始めたから、映画の話に戻るよ」

 

 

 

持つ者と持たざる者

 

主「この映画がすごく残酷な部分でもあるけれど、美醜ってさ……言葉が悪いけれど『生まれ持って変えられないもの』じゃない。美しく生まれてきたら万々歳だけど、醜く生まれてきたら結構大変な思いをする」

カエル「『ただしイケメンに限る』ってあるもんね。あと、美女にはみんな優しいとか」

 

主「そりゃあさ、持たざるものとしての女の子達からしたら妬ましい存在だよ。自分が必死になって、食事も抜いて、顔にメスも入れて、美しくあるために様々な努力を重ねているけれど、生まれつき持ったその『本物の美』には負ける。

 だけど当の本人はあっけらかんとしているんだよね。

『他の才能はなかったけれど、美しい顔だけは手に入れて生まれて来た』なんて言って。その生まれ持った美しい顔、という才能が欲しい人も沢山いるのに」

 

カエル「……ここはしょうがないとはいえ、そういう職業の世界だから大変だよね」

主「じゃあその持たざる者は『生まれ持った才能』というどうしようもないものに対してどうすればいいのか? というのが後半のテーマになる

 

 

 

 

4 ガラスとダイヤ

 

カエル「そして鏡の演出が多用されて、ここにたどり着くわけだね」

主「ショーの準備をしている時から、不穏な空気はあったんだよ。他のモデルにはメイクが付いているのに、ジェシーにはついていない。そして他のモデルは変なメイクを施されるのに、ジェシーはそれがない。

 なぜならば、ジェシーという本物の美の前座にされたから。

『お前たちが必死にやった整形なんて、俺から見たらこんなへんてこなメイクと同じなんだぜ』っていう、メッセージすら感じるよ」

 

カエル「それはショックだよねぇ……」

主「そして鏡の中の自分と向き合って、鏡を割る。鏡像の自分をここで傷つけるわけだね。

 そのシーンを目撃するジェシーだけど、ここで大怪我を負うわけだ。この意味ってわかる?」

カエル「え? 鏡が割れたから怪我したんじゃなくて?」

 

主「まあ、そうなんだけど、ここは『鏡という偽りの存在』もしくは『ガラス扱いされた女たち』の復讐なんだよ。

 この描写から全ての悪意は始まった。

 その前にも色々な描写が……真っ白な背景にいるジェシーとか(カメラでの撮影風景)などもあったけれど、ここでは真っ白な壁を赤い血で濡らすんだよね。それまでの『純白無垢な子供』であったジェシーはここで傷を負って、血を流した。

 その意味を込めた演出だよ」

 

 

記号の意味

 

カエル「そのショーのシーンで特徴的だったのは記号のシーンだと思うけれど、あれってなんだろうね?

 北条家の家紋を逆にしたというか、ゼルダの伝説のトライフォースを逆にした三角形と、あとはひし形の記号だったけれど……」

 

主「……これはおそらくだけど、その後のセリフを考えると、ここはやはりジェシーという存在の特別性を表していると思う。

 そうなるとあれはなんなんだ? って考えると……それはやっぱり『ダイヤモンド』と考えるのが自然じゃないかな?

 逆三角形ってなんとなくダイヤを横から見た姿に見えるでしょ? そしてカットされた面を、中に入った三角形で表している。

 ダイヤの中に入った、という意味を持った演出がひし形のプリズムだったのだと思う。これが合わさることにより『ガラスとは違う、本物のダイヤモンドの美』ということになるね」

 

カエル「……なんか、話を聞けば聞くほどかわいそうになっていくね……」

主「自分でも言っていて、少しモデルたちに同情してきたよ」

 

 

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5 美と死

 

カエル「ここから先は決定的な結末をボヤかして話しますので、ご了承ください

主「さすがにネタバレしすぎるのものね……

 この映画で特別触れておかなければいけないのは、やっぱりルビーだと思う。彼女がさ、またいいんだよね!

カエル「最初から怪しい雰囲気はかもしだしたいたけれど、やっぱりそっちの人だったんだっていう衝撃もあるけれど……そのあとの行為が衝撃的だよね」

 

主「あそこも『美』に対する意識がすごく揺るがされたような気がする。

 我々一般人からしたら、ルビーの行為はおかしいものなんだよ。だけど、その行為とともにジェシーも初めての体験をしているわけだ。つまり、戸惑いこそあるけれど、彼女に扉を開かせたのは事実であると。まあ、その扉をくぐるかどうかは別としてね。

 そしてルビーの行為の中に『美』に対する意識が異質なものとして観客に訴えかけていることに対する……なんというか、アンチテーゼがあるんだよ」

 

カエル「えっと……? どういうこと? ぼかしながら語っているから全く意味がわからないよ」

主「つまり、我々の中で『美』が、特に人間の美が宿るのはジェシーやモデルのような存在だけど、ルビーの愛撫しているものにはそれは宿らない、もしくはそれに愛を持ってはいけない、というのが倫理なわけだ。

 だけど、ルビーの中ではその存在すら愛に含まれる。ある意味ではオタクと一緒で、感情のこもらないフィギュアやダッチワイフを愛する行為と同じわけ。

ラースと、その彼女』って映画があったけれど」

 

美と傷

 

カエル「でもさ、元々無機物のそれらと、ルビーでは違うよ」

主「だけど、ジェシーたちや我々と同じような愛ではない、ということはあるわけだ。

 ルビーという存在はそれだけ美に取り憑かれた存在でもあり、そしてメイクをするわけだから『美を作り出す能力』が備わっているわけだよね。

 その愛が暴走した結果、ああいう風になる」

 

カエル「で、この小タイトルの傷は?」

主「これは自分の妄想じみた考察だけど、ルビーって『傷口』が好きなんじゃないかな? それは物理的な意味での傷口じゃなくて、整形した跡とかも含めた、治らない傷口。

 だからジェシーの本当の美にも惹かれるけれど、その行動した後の姿にも惹かれて、二者択一でああいう形を選んだ、ということだと思うよ」

 

 

 

6 演出の伏線の回収

 

カエル「ようやくここまで来たね……」

主「あのラスト前のプールの衝撃があるけれど、ここまでに貼った『演出の伏線』が一気に回収される。

 その1つが先ほどもあげたやまねこ、そしてそれ以外に大きなところでは2つ、ここでは語るよ」

 

カエル「他にもあるかもしれないけれど、あまり語りすぎても長くなるだけだしね」

主「この映画の予告編でも使われている『花が散る中に倒れるジェシー』という構図だけど、これがまた素晴らしい。

 つまり、この花って『美の象徴』なんだよね。彼が持ってきてくれた花を、一緒に倒れることで散らしてしまう。その散った花の……美の中にジェシーが倒れていく、という素晴らしい画面構成だった」

 

カエル「それがあのプールの場面では……ということだよね」

主「そこに足りないものは、なんだろうね? って話。

 そしてもう1つ。あのプールの状況は彼と夢を語り合った屋上テラスと同じような状況だけど、そこに決定的に欠けているものがある」

カエル「……月?

 

主「そう。彼と話していた時は、月を指差しながら夢を語っていた。だからこの月は夢の象徴でもある。

 だけど、それはもう夜空にはないんだよね。それは彼女の夢が叶ったから、ということもできるけれど……やっぱり『夢なんてもうないんだ』って意味だと思う。そんな夢は幻想だった、というべきなのかな?」

カエル「……悲しいね」

 

 

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そしてラストへ……

 

カエル「あのおぞましいラストはどう解釈する?」

主「結局、魔女伝説と同じじゃない? よく言うでしょ『処女の生き血がうんたら』ってやつ。

 それをこなすほどに彼女たちは美を求めていた。才能を持ちえないなら、その才能を持つ人間から取り上げればいい。

 その方法があれだったわけ」

 

カエル「そのあとのシーンも衝撃的だったねぇ……」

主「うまく騙すことはできるわけだけど、やっぱり色々な葛藤がある。それが1人をああいう形に追い込み、もう1人はそれでもという道を選ぶ。

 あの荒野を歩くラストをどう解釈するかによっても変わるよね。これ以上は言及を避けようかなって思うけれど」

 

カエル「……美の魔物、か」

主「そうだね。美の魔物、だよ。

 それに取り憑かれた者は、果てしなく追いかけなければいけない、というジレンマと、華々しい業界の裏を……まあ誰もドキュメンタリーとかああいう世界って思わないけれど、ドロドロとした世界を描いた傑作だと思うね。

 ドラッグ作画に酔って、EDも凝っていたし、すごく面白かったよ」

 

 

 

 

最後に

 

カエル「だけど、絶対人を選ぶよね」

主「自分は『パーフェクトブルー』に置き換えて、その論理を適用したから読み取れた……というか、自分なりの解釈ができたけれど、多くの人は理解できないと思う。

 演出で語るというのは映画的な深みをもたらすけれど、多くの観客に理解してもらう作品にはなりづらい。だから、それを考えるとオススメはしないかな」

 

カエル「主はハマったんだ」

主「映像的な深みがある作品って読み取れば読み取るほど、面白さが出てくる。何回見ても楽しめる映画になっているよ。まあ、苦言もあるけれどね。

『オーディションのシーンはみんなジェシーを追っているというけれど、明らかに他のモデルの方が見た目がいいよな?』とか。細かい部分だけどね。

 こういう映画はなかなか難しいし、カンヌ国際映画祭でも絶賛と酷評の2分割だったらしいけれど自分は絶賛する。それだけ賛否が分かれるのはいい作品だし」

 

カエル「日本じゃなかなか生まれない作品かもね」

主「脚本自体は似たようなものができたとしても、あの演出はなかなかね。さすがはフランス、と思ったよ。今回はフランス・アメリカ・デンマークの合作だけどね」

 

 

カエル「それじゃ、長々と語ってきた記事ですが、これで締めるとしますか」

主「美しいというのは罪だからね……ああ、自分の美しさが妬ましい!」

カエル「……締めるって無理にボケなくてもいいんだよ」

 

今回紹介した映画の中から、アマゾンプライムビデオにあったのはこちら 

 

パーフェクトブルーはこちら

PERFECT BLUE

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