物語る亀

ネタバレありの物語批評

パンプキン・シザーズ 21巻 感想 本作が示した正義の意味……理想は叶わぬ夢なのか?

カエルくん(以下カエル)

「約1年ぶりにパンプキンシザーズの新刊が発売されたね!

 月マガを毎月購読しているけれど、減ページでもすごく楽しみにしている作品の1つで!

 

ブログ主(以下主)

「もっと描いて欲しいという思いは当然あるけれど、この内容だと難しいこともあるんだろうな」

 

カエル「今回は21巻の感想ということだけれど、テロ編もいよいよ終盤に入ってきたね」

主「いろいろな物語がある中で、楽しみにしている漫画はすごくたくさんあるよ。もちろん、注目している映画監督もいればアニメ作家もいる中でこういうことを言うのもなんだけれど……今最も注目しなければいけない、現代社会における重要なテーマを真正面から扱っている創作の1つだろう。

 その理由は後から述べることにするよ」

カエル「へえ……ちなみに、漫画記事の書き方を色々と考えるという話だったけれど、この記事は21巻の感想なんだね」

 

主「この書き方をするとさ、早いと約3ヶ月くらいで記事を更新しないといけないんだよね。

 21巻が発売しているのに、20巻の感想を読もうという人は限られてくるから、どうしても記事が死んでしまう。それを防ごうという思いもあったんだけれど……今回はやめた。

 パンプキンシザーズにはその価値が間違いなくあるよ」

カエル「ふむふむ、その辺りも含めて興味深い記事になりそうだね。

 それでは、パンプキンシザーズの最新刊の感想にいってみよう!」

 

 

 

blog.monogatarukame.net

 

 

 

Pumpkin Scissors(21) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

 

21巻のあらすじ

 

 帝国にて行われている世界会議を襲ったテロ事件。しかし帝国陸軍の新兵器の登場もあり、状況は一転して鎮圧の方向へと徐々に向かっていた。

 残るはサミットの会場である『言語の塔』に集まる各国の要人たちの解放であるが、敗北を悟ったテロリストたちは自死を図ろうとする。しかし、その前に自分たちを苦しめていた帝国人たちに対する復讐を果たしたいと考えていた。

 その時に耳に飛びこんできたのは帝国軍人少尉であるアリス・L・マルヴィンの声だった。

 アリスはテロリストたちと交渉を始める。その内容は、会場である『言語の塔』に最もふさわしいものであった……

 

 

 

1 感想

 

カエル「では感想を語るけれど……まず、この漫画が最も注目しなければいけない理由について説明すると、どんな言葉になるの?

主「まず、先に言っておくともっと楽しみにしている漫画もあるよ? 9月に発売される『ふらいんぐうぃっち 』の最新刊も楽しみだし、同じ月マガでも1番に読むという作品というわけでもない。掲載ページも少ないし、今回のように刊行速度もかなり遅めなのは否定できない。

 だけれど、この漫画がやっていることは、今の物語媒体の最先端の1つである、というのが自分の評価なわけ

 

カエル「ふ〜ん……それはなんで?」

主「今、自分が物語媒体でトンデモナイことを描いていると思うのが『パンプキンシザーズ』と、それから幸村誠の『ヴィンラント・サガ』なんだよ。

 この2つは現在の社会情勢、世界情勢を考えた上で非常に重要なことを描いている。

 それは何かというと『暴力の連鎖からの解放』と正義のゆくえなんだよね」

カエル「そのテーマ自体はありふれたものといえばそうだよね? 日本の戦争を扱った作品は『暴力の否定』がメインテーマである作品も多いし」

 

主「ヴィンランド・サガは暴力の連鎖から徹底的に逃げることを選択しているわけ。それでも追いかけてくるトラブルや、過去の因縁とどう対決するのか? ということが重要になっている。だけれど、ある意味だは個人のお話というミニマムな視点で物語を紡いでいるわけだ。

 一方のパンプキンシザーズは『暴力の連鎖からの解放』というのを、もう少し大きな視点で行っている。それは差別してきた側と、被差別地域が言論を戦わせることによって描いている」

 

  外伝も発売しているので、こちらも要チェック!

Pumpkin Scissors:Power Snips(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

Pumpkin Scissors:Power Snips(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

 

 

 

21巻の動きとして

 

カエル「その言論バトルが8割だから、物語としてはほとんど何も解決していないよね?

 ちょっと問題のある発言かもしれないけれど、21巻を飛ばして22巻を読んだとしても、問題のないような中身になっていて……別にテロリスト側に何か動きがあったわけでもないしさ」

主「まあね。パンプキンシザーズってお話が劇的に動く戦闘パートと、舌戦を繰り広げるパートが同時に介入しているから、正直連載で見ると『まだこの話やっているの?』と思う時もあるよ?

 何がしたいのかわからないときもあるというのが本音。

 だけれど、こうやってまとめて単行本として読んだ時に、そのやりたかったことがはっきりとわかるようにできているんだよね

 

カエル「これだけの内容を考える上でも大変だろうしね」

主「作者である岩永亮太郎がどのような状態にあって減ページになっているのかはわからないけれど、でもこの内容を考えるのは相当に大変だろうなと思う。特にテロ事件勃発時は圧倒的に不利すぎて絶望感も半端なかったし」

カエル「そこからちゃんと登場人物の見せ場を作りながらここまで巻き返すというのもすごい物語の構成能力だよね」

主「アニメは勿体ないところで終わっちゃったよなぁ……あれ以降が面白いのに。

 まあ、あんまり流行らなかったからしょうがないのだろうけれどね」

 

 

 

2 世界中の物語が示す『正義』

 

カエル「では、主が絶賛するパンプキンシザーズの示した正義って一体なんなの?」

主「今でも世界中の物語で『正義』に対する問答のような作品は作られている。特にアメリカはヒーロー映画がそうで、何を持って正義とするのか? 正義とは何か? ということを問うような映画が非常に多くなっている。

 その中で最近記事にした『ワンダーウーマン』などは男性社会の中でバリバリと働く女性がヒーローであるというようにも読み取れるわけだ。現に、今のハリウッドでは『仕事も恋も頑張って!』という女性応援映画などが増えていて、これは女性の社会進出が1つの正義だということを示していると言ってもいい

 

カエル「旧時代的に女性は家にいるものだ! と描いたらバッシングはすごいだろうね」

主「それはヒーロー映画に限らず、例えば戦場をテーマにした映画でも『アメリカン・スナイパー』はそれまで英雄視されるような天才的スナイパーの苦悩を描き、その人間性に迫っているし、それから『ハクソー・リッジ』においても、敵を撃たない救出兵ではあるものの、どこか狂気じみたものを感じるように描いている。

 冷戦時代だったらまだよかったんだよ。つまり、自分の陣営と対立する存在を悪とすればよかったわけだから。

 でも、今はそう言った確固たる正義がない。だからこそ、誰もが迷う」

 

カエル「もちろん過去にもそう言った単純な正義を描いていない作品もあって……例えば『地獄の黙示録』とかもそうだよね」

主「現代の風潮に対して疑問を投げかけるのが創作や表現の意味だからね。

 日本の正義の描き方は『ガンダム』が象徴的じゃないかな?

 初代は連邦もジオンも正義と悪という風には描いていないし、近年でも『SEED』はキラの殺さず主義や『それでも、守りたい世界があるんだ!』というある意味では感情論で理屈を抑えているし、『OO』では正義の執行のためにテロリズムを用いるという矛盾を描いている。

 『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 』なんて正義の味方ではなくて、悪党の矜持を描いているわけだ」

 

カエル「もちろん、ガンダム以外のアニメであったり戦争映画などでも正義について考えている作品はたくさんあるね」

主「上記のような表現が今に始まったお話ではないけれど……その中である動きが始まってしまった。それは何かというと『正義はない』という論調である。

 正直に言えばこのブログもその論調に賛成の立場であって、ヒーロー映画が苦手な1番の理由って『正義の拳を振るうこと』なんだよね。

 正義の反対は悪ではなく、また別の正義である。

 暴力団の正義や利点もあれば、警察の汚点や欠点もある。警察が助けてくれない時に、暴力団が助けることもある。現に、過去の日本では……終戦直後などでは警察と暴力団が手を組んで治安維持に当たったこともある。もちろん、現在では暴力団が必要悪とは言わないよ。

 でも、正義の反対が悪ではないからこそ、世の中は難しいわけだ

 

 同じ月マガではこちらも好きです!

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パンプキンシザーズが示した正義

 

カエル「だけれど、それに対して否定意見を示したのが21巻のパンプキンシザーズという認識なんだね」

主「今回のテロ事件もそうだけれど、パンプキンシザーズは悪と称される側の描写が多い上に重くて、うまいんだよ。彼らがなぜテロ行為を始めたのか?

 それは被差別民族であり、その状況を打破するためである、というのは彼らの立場になってみたら当然の内容でもあるように思える。声を上げても誰も聞いてくれない、助けてくれないならば、暴力的な行為に出るということを選択の1つとして選ぶわけだ。

 ある意味では帝国の正義と、テロリストの正義の戦いであった……だけれど、そこに異を唱えたのがアリスなわけだ」

 

カエル「この辺りの話を簡単にまとめるとどういうことなの?」

主「『お前(アリス)が挑発するから人質が死ぬんだ!』というテロリストの発言に対して『テロリストがテロリストの手で、その意思で人質を撃つんだろ?』という問いを投げかけている。

 そして『帝国人』という実態のないものを相手ではなく『アリス・L・マルヴィン』という個人に対して恨みを重ねよ。

 その憎しみの連鎖を断つために『抗・帝国軍(アンチアレス)』などという組織名ではなくて、個人の名前を叫び、その名前の元で人を撃つべきだと言っているわけだよ」

 

カエル「……難しい話だね」

主「自分はこれで思い出したのが今年公開した『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』なんだよね。この映画の何がすごかったかというと、途中でさ、敵がドラえもんに化けるんだよ。そしてのび太たちを騙して止めを刺そうとするわけ。一方で本物のドラえもんがやってきて『僕が本物であいつが偽物だ!』と主張する。

 ジャイアンなんかはどちらが敵なのかを必死で考えている。だけれどのび太は『ドラえもんを疑うことはできない』といってどちらも信じるんだ。

 これは今考えると相当すごいことをしている。だってさ、どちらかは確実に自分に危害を与えようとしているんだよ?」

カエル「大人向け映画で考えたら隣人のイスラム教徒の2人のうち、片方がテロリストで片方が善人であった場合でも、その両者を信じるという話だね」

 

主「これを現在の社会情勢に置き換えるとさ、例えばISだったり、北朝鮮について我々は何を知っているのだろうか?

 金正恩という親玉がいて、恐怖の軍団がいて暴走している……そんなイメージでしかない。でも、そこにいる個人についてはほとんど知らないわけだ。敵か味方か……そんなことしか知らないし、考えない。それで相手のことを理解しようというのは難しい話だ。

 アリスが語っているのは『恨む相手の名前を教えて欲しい』ということだ。ISやアメリカ軍のような組織や総称ではない。どこの誰で、どのような人間だったのか、明確な個人にして欲しいということ。これはかなり重要なことだと思う」

 

 

 女性の社会進出について先駆的な存在であったウテナ

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正義ってなんだろう?

 

カエル「ちょっと話がこんがらがってきたけれど……結局何を言いたいの?」

主「なんだか、最近『絶対的な正義ってないよね』って考えが蔓延している。実際、そうなのかもしれない。だけれど、その思いに……流れに待ったをかけたのが本作なわけだ

カエル「でもさ、絶対的な正義なんて存在しているの?」

主「ない……というのが大半かもしれないけれど、でも実はそれはあるかもしれない」

 

カエル「あるの?」

主「例えばアンパンマンがそうだよね。飢えている人に食事を分けてあげる、これは否定のしようがない善であり、正義である。だからやなせたかしはアンパンマンを描いた。

 そしてパンプキンシザーズで言えばハーケンマイヤーであるわけだ」

カエル「18巻の描写だね。本当に弱っている時に、それ以上に困っている弱者に対して手を差し伸べる……という」

主「パンプキンシザーズは正義や英雄に憧れるハーケンマイヤーがそのような行動に出て、普通の人として子供を救う……それがここに来て生きてきている。

 正義とは『正義とは何か?』ということを考えた時の過程にこそあるものであり、そのために人によって異なるものである。

 だけど、絶対なる正義はあるんじゃないか? というのがアリスの答えだ

 

カエル「それを子供っぽいと否定されてしまうわけだけれど……」

主「その絶対なる正義が存在しないと諦めてしまっていいのだろうか? 

 パンプキンシザーズの中で技術の系統樹の話が出てきた。発明品とは突然生まれるものではなくて、系統や順番があって生まれるものであると。いきなり時速300キロで走る新幹線やリニアモーターはできないかもしれない。だけれど人力車、馬車、自転車、車と技術を重ねていくことで、いつかは作ることができるかもしれない。

 それを『夢物語だ』と言って諦めていいのか?

 アリスがいっていることってそういうことで……実はいつかは絶対的な正義にたどり着くのではないか?」

 

カエル「『理想はいつからっ 叶わぬ夢の代名詞になった』という名言にもあるようなことだ……」

主「そして高らかに宣言する。

『私が正義だ』と。

 でも、それは軽いものではないんだよ。子供や独裁者が語るような言葉かもしれないけれど、そこに至るまでのぐるぐると思考を巡らせてきた、その結果の発言である。

 だからこそ、本作はトンデモナイ! 絶対的な正義はあるし、それを追うことは理想論ではない、と高らかに宣言した。そしてそれに至るには『アリス・L・マルヴィンの正義』を宣言することが重要だと言い切ったわけだ。

 これは素晴らしいと思う。現代の『正義とは何か?』という問いに対して、明確な答えを突きつけてきた!

 

 

 

 

最後に

 

カエル「他にも語ることがあるのが、主人公のランデルだけれど……」

主「オーランド伍長は実はテロリスト側にも近い人間なんだよ。暴力によって人を殺してきた過去を持つ。もちろん、それは国の命令でもあるけれど、個人の罪としてそれを意識している。

 アリスが絶対の正義の存在とし、テロリストが別の正義を行使し、罪の手段を為すものだとしたら……オーランド伍長は正義によって罪を背負ったものだ。

 そしてその罪を裁くことは誰にもできない。なぜならば、裁くべき国が認めた『正義の罪』だから」

 

カエル「おー……正義の罪って言葉にドヤ顔が見える」

主「それを裁いてくれそうな、絶対的な正義を見つけてくれそうな相手がアリスであるわけだ。

 さあ、ここからは『正義と愛の物語』にもなっていくけれど……それが決着つくのはいつになるかなぁ?」

カエル「まあ、この先も連載を読んでいるから知っているけれど、今回は21巻の感想からさらに先に行ってしまうのでここで終了!」

主「次が出るのはいつかなぁ……結構先になるのかなぁ……」

 

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