物語る亀

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物語愛好者の雑文

3月のライオン 10話の感想 松永と安井、その両者に共通するものと違ってしまったもの

カエルくん(以下カエル)

「今回のライオンもすごく良かったねぇ……」

 

亀爺(以下亀)

「……そうじゃの」

 

カエル「いやぁ、毎週毎週面白いよね! 丁寧に丁寧に作っているのが伝わってきてさ!」

亀「……そうじゃの」

カエル「亀爺? 何でそんなに元気がないの?」

亀「リテイクしているからじゃ! 同じことを何度喋れば気がすむんじゃ!」

カエル「いや、それは誰のせいでもないし……いや、主のせいだけど、それはもう仕方ないじゃない。

 だってさ、記事が消えちゃったんだから……」

 

亀「ほぼ完成までしていたのに、ここからまた語り直しとは……保存は重要じゃの

カエル「まあ、この程度で済んで良かったって思うしかないんじゃない? 一万字超えだったら目も当てられないよ。

 ほら、じゃあ感想記事を始めるよ」

 

 

 

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あらすじ

 

 零の元に訪れた義理の姉、香子。彼女は零が対局する相手の情報を色々と教えてくれていた。

 

『松永さん、この対局で負けたら引退するらしいわよ』

『安井さん、離婚が決まったって。最後のクリスマスは笑顔になるか、暴れるか……』

 

 そんな言葉の1つ1つに翻弄されながらも対局へ向かう零。そこで待つ2人に対して、どのような行動に出るのか? そして敗者はどのような言葉を放つのか……

 

 

1 セットの9話と10話

 

カエル「まずは……この9話と10話はセットで語るべきものかもしれないね

亀「そうじゃの。将棋という勝負の世界に挑む、2人の棋士の姿を描いておったの。

 普通、将棋の世界に限らず勝負の世界を描く場合は、名人などのトッププロの姿を描くことが多い。じゃが、今回は決してトップでもなく、タイトル戦に絡んだこともないであろう棋士達の姿じゃ。

 すごく当たり前の話ではあるが、トップと呼ばれて世間から注目を集めるのはその中でも極一握り、その下にいるたくさんのプロ達の上に成り立っておるということを、思い出させてくれたの

 

カエル「成功者ばかりではないもんね。それは一般社会もそうだろうけれど……」

亀「そう考えると『勝ち』『負け』というものも非常に重要なものであるが、そこに縛られ続けるだけが人生でもない、ということもできるかもしれん。これが他の……勝ち負けがつかない人生であったならば、もっと零も楽に生きられたかもしれん。

 しかし、これは将棋じゃからな。どれほど努力しても、どれほど頑張っても……最後に冷酷に勝ち負けがついてしまう。

 棋士というのは羽生さんでも勝率は7割ほど、つまりは3割は負ける職じゃ。じゃが、だからと言って負けることに慣れることは許されない。

 その葛藤は辛いものかもしれんの」

 

カエル「……もしかしたら、勝者であり続ける事よりも、敗北に負けないことっていう方が大変なのかもしれないなぁ」

亀「その意味でも対極な2人じゃの」

 

 

松永と安井

 

カエル「でもさ……やっぱり安井は最低の父親だよね! しかも棋士としても! 

 すぐにアルコールに逃げて、子供からも逃げて、少しのミスで諦めて……そんな人生観が将棋に出ているよ!」

亀「人生と将棋の組み合わせ方が抜群にうまいの。

 松永の場合は『しがみつくようなみっともない将棋』などと称されておったが……それは言葉を変えれば『粘り強い将棋』ということもできるわけじゃ。そこからの逆転ができないから『みっともない』と言われがちじゃが、うまくやることができればそれは立派な美点じゃろう」

 

カエル「その姿勢が人生にも将棋にも出ているよ。コメディーのように扱われたけれど、それでも60を超えても将棋を差し続けるという気力はすごい!」

亀「先ほどの言葉を上げると『敗北に負けなかった』ということじゃからの。

 そこに至るまでの心情は色々とあると思うが……立派の一言に尽きる」

 

カエル「で、安井だよ! なんでそこで逃げちゃうのかなぁ……そこが逃げてはいけない場所って、わかると思うけれど……」

亀「……そうかの。わしにはそこまで責めることはできんなぁ」

 

 

 

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『普通』の棋士

 

カエル「えー? なんで安井の肩を持つの?」

亀「……確かに安井自身はそこまで実力も飛び抜けたものはないじゃろうし、あの描写を見る限りにおいて、中々にひどい性格のようにも思える。

 じゃがな、松永も言っておったろ?

『負けた時は全世界から存在を否定されたような気になる』と。

 そんな生活を、家族を背負って何年も続けてきた重み……それは想像を超えるものじゃろうな

 

カエル「……でも、その結果家族を失うわけだしね」

亀「わしは棋士でもなんでもないが……1つわかるのは、おそらくあそこまで歳を重ねてしまうとなんとなく『自分の力量』というものが見えてくるのではないかの?

 どうやら名人にはなれそうもない、タイトル戦にも無縁かもしれない……それでもこの生き方しか知らないし、他の道は選びようもない。

 そう考えた時に……人はどのような選択をするのじゃろうな」

 

カエル「……諦めない姿勢か」

亀「この作品の主役の零も、二海堂も、若くて実力あふれる棋士じゃ。おそらく自分の棋力がここで終わりとか、これ以上先はないと考えたこともないじゃろう。

 家族もおらんし、その重みもない。

 まあ、家族がおらんのは零の強さでもあり弱さでもあるし、二海堂に関しては本当に『命を賭けて』おるがの。

 すべての棋士がそんなことはない。その決してどうすればいいのかわからない『敗者』としての姿が濃厚になった時……どのような選択を取れるか、ということがこの話のテーマじゃろうな

 

 

 

2 演出について

 

カエル「じゃあ話を変えるけれど……この2話だけで見ても結構メリハリの効いた話になっているよね。

 ギャグが多く機能していた9話と、シリアスで無言も続いた10話だし」

亀「どちらも終わり方が零の叫び声、ないしはツッコミという意味では同じなんじゃよ。同じじゃが……その意味が大きく違う。

 かたや『おいおい!』というお笑いのようなツッコミであるのに対して、10話では『お前の人生それでいいのかよ!』という真剣なツッコミになっているの」

 

カエル「10話は冒頭の香子の姿やクリスマスもすごく胸にくるよね……」

亀「……父親に悪気はないんじゃろうがな。考えようによっては疎外感が強くなりがちな義理の息子に対して、少し優遇してあげて心の隙間を埋めてあげようというのは間違いじゃとは思わん。

 じゃがな……その影響があまりにも大きすぎた」

カエル「贔屓ではあるかもしれないけれど……人生を賭けている人とそうじゃない人の差って本当に大きいものね」

 

亀「『勝ってきたパパと負けてきたパパ』の下りの香子の絵の美しさも目立ったの。

 あそこは絵だけでみれば、もっと……ハッピーな気持ちがするような、言葉の意味と絵が全く合っておらん。

 じゃが、そこが逆に相乗効果となって、スイカと塩のようにうまく馴染んでおったの

 

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言葉のない対局

 

カエル「言葉もなく、淡々と音楽だけが流れる対局……これもまた美しかったなぁ。

 対局の緊張感がすごく張り詰めていたもんね」

亀「見ているこちら側が緊張するような描写であったの。

 将棋の駒がぶつかる音と、無音の会話。そこがこの後の爆発と、いいメリハリになっておった。

 この静と動の演出は特に素晴らしいの」

 

カエル「また音楽が綺麗だから染み入るものがあるんだよね……この対局の先にある破滅も想像できちゃうし……

 じゃあこの後の安井はどうなるの? って思ったらさ、そこは色々と考えちゃうものがある。零ちゃんは何も悪くないけれどね。

 あとさ……あのお茶にはアルコールは入っていないよね?」

亀「入っておらんと思うがの。結局前日から痛飲し、それが残った状態でおったと考えるのが自然じゃが……

 それにしても安井の散乱したお茶とペットボトルと、零のきちんと整理されているペットボトルの差というのが、そのまま心理描写としてうまく機能しておる

 

カエル「……あの叫びからのモノローグのラストはすごく染みたなぁ」

亀「これこそアニメの醍醐味かもしれんの」

 

 

 

最後に

 

カエル「こう言ってはなんだけど、やっぱりライオンは将棋描写の方が好きかな? 残酷でもあるけれど、だからこそ一生を賭けて挑む男たちの姿を見ているだけで、高揚してくるものがあるよ」

亀「普段の川本家が癒しだとしたら、将棋の対局は緊張感があるからの。

 しかも普段の生活では零はマイナス思考で後ろ向きじゃが、将棋のなると結構本気で打ち込んでおるのも好印象じゃの」

 

カエル「零ちゃんって将棋だと性格変わるからね。本当は負けず嫌いだし」

亀「どちらが本当の、と言ってもしょうがないが……両親の事故などもなければ、このような人生を歩んでおったのかもしれんの」

 

 

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