物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『殺人者の記憶法』感想 韓国映画がアルツハイマーをテーマにとんでもない娯楽作を生み出した!

亀爺(以下亀)

「本来、この手の作品は苦手ではあるのじゃが、それでも気になって鑑賞してしまうのが韓国映画じゃの」

 

ブログ主(以下主)

「この辺りは個人の趣味でもあるんだけれど、韓国映画のバイオレンス盛り盛りの血みどろの暴力表現って結構苦手なんだよねぇ」

 

亀「そういった映画を高く評価する人も多いし、それこそ有名なラッパー映画評論家などもそういう映画を愛する人であろうが、個人の趣味によって評価が分かれる作品かもしれんの」

主「何度か言っているけれど自分は韓国映画のバイオレンスや暴力描写で観客をひきつけるような表現ってそんなに好きじゃない。

 それでも見入ってしまうほどの特徴的な設定やうまさがあって……特に今作はあらすじだけでもすごく惹かれるんだよ!」

 

亀「こういった映画が作れるのも世界広しといえども、日本だけかもしれんの。

 では、本来この手の暴力的な映画が苦手な人間が、それでも見たくなったという韓国映画について語っていくとしよう」

 

 

 

 

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作品紹介・あらすじ

 

 韓国のベストセラー小説を映画化し、韓国でも興行収入1位を達成するなど高い評価を受けたウォン・シニョン監督作品。

 『監視者たち』などの作品で韓国を代表する俳優ソル・ギョングがアルツハイマーにかかってしまった元連続殺人鬼を演じ、現代で殺人を繰り返す男との対決を描く。脚本は『オールドボーイ』などのファン・ジョユンが務める。

 

 獣医として町で開業しているビョンスはアルツハイマーにかかってしまい、自分の記憶が正しいのかもわからなくなってしまっているような状態だった。娘と2人で暮らしているビョンスは、過去に大量殺人を起こしており、遺体を竹林に埋めて警察の目をごまかしている過去を持つ。

 そんなある日、隣町で女性ばかりを狙った連続殺人が発生していた。

 町へと戻る道中で事故を起こしてしまい、相手の車を見るとトランクから血が滴り落ちていた。

 果たしてビョンスが出会った相手が本当に殺人鬼なのか?

 そして物語は想像を絶する展開へと向かう……

 


『殺人者の記憶法』本編抜き一部映像

 

 

 

 

感想

 

亀「では、いつものようにTwitterの短評からスタートするとしようかの」

 

 

亀「これはバイオレンス要素が強い作品の中では珍しく? 賞賛というところかの」

主「まずさ、この作品の設定を思いついたとしても、日本だと映画にはできないと思うんだよ。

 アルツハイマーの患者が実は連続殺人鬼だった……という設定自体がかなりの配慮を必要とする。

 それでも臆することなく真正面からやってしまうのが……なんというか、韓国らしいよね

 

亀「考えてみればとんでもない話でもあるからの。しかし、韓国映画らしくバイオレンス満載ではあるが、その描写自体はこの手の映画の割には結構抑えめだったのではないかの?

 今作はR15どころか、年齢制限すら付いておらんしの

主「そう考えるとまたレーティングの闇を感じる話でもあるけれど、でも確かにこの作品はこの手のバイオレンス描写を売りとする映画の中でも比較的大人しかったかな。

 その分、この設定がかなりグッとくる部分もあってさ、一瞬先すらもわからない、何を信じて何を疑うべきなのか? という作品でもある」

 

亀「アルツハイマーの患者が主人公ということで、観客も彼視点で映画が進行しているから本当のことがわからんわけじゃな。

 この視点が非常に面白いものがあったの」

主「そして韓国映画らしいアクションであったり、息をつかせぬシーンの数々がまた魅力的で……序盤の車のシーンであったり、王道のシーンなどもあるんだけれど、それは観客を映画の世界によりのめり込むように仕立て上げている。

 この辺りの構成や映像表現としての力の見せ方も、上手いなぁと感心したね

 

認知症を扱った作品

 

亀「他にも認知症を扱った作品というと、何を連想する?」

主「昨年公開だと『おじいちゃんはデブゴン』などのように現代的なテーマでもあるし、邦画でも記憶障害という意味では恋愛系では『一週間フレンズ』『博士の愛した数式』などもあるけれど……自分はこの映画に似ていることをしているな、と思ったのが、この作品なんだよね」

 

しわ [DVD]

 

亀「老人ホームを舞台にしたスペインのアニメーション映画である『しわ』じゃな。この作品の主人公もアルツハイマーにかかっており、それがアニメーションとして独特の絵の力がこの作品に大きな意味合いを与えておるの。

 ちなみに公開当時、スペインの有名な賞レースであるゴヤ賞で最優秀アニメーション賞と、さらに最優秀脚本賞も受賞するという異例の作品となっておる」

 

主「この『自分が何者かわからなくなる』という恐怖感ってとても大きなものだと思うんだよ。もちろん、観客はカメラ越しにそれを見ているわけだけれど、基本は主人公のビョンスの視点で物語を眺めている。

 提示されている情報のうち、何が正しくて何が間違いなのか、誰にもわからない。

 これがこの手の作品を面白くしている」

 

亀「そして日本でもまったくないということもないではないが、認知症を扱った映画というのはやはり小規模であったり、あまり注目を集めづらいのが現状である。

 しかし、これからさらに加速していくであろう高齢化社会を考える上で重要なテーマであるのは万人が認めるであろうが、いかんせん娯楽にはなり辛そうな面もある

主「それを連続殺人と絡めるという手段によって娯楽性も獲得しているんだから、たいしたものだよなぁ。 

 重ねて言うけれど、これは韓国だからできたことだと思うけれどさ、この映画が興行1位を獲得するところに韓国映画の強さと……若干の恐ろしさもあるな」

 

 

 

 

アルツハイマーの辛さ

 

亀「そして今作ではアルツハイマーの辛さもピックアップして描かれておったの」

主「社会性の面では、むしろ連続殺人云々よりもアルツハイマーの恐ろしさや辛さの方が際立ったんじゃないかな?

 例えば、本作の中でも病院でアルツハイマーです、と診断されてからしばらくの間は獣医の仕事を続けていたりするんだよ。だけれど、それが急にできなくなる。動物に対していつ注射を打ったのか、忘れてしまうからだ。

 だけれど、この時の患者の意識ってまだ普通なんだよね。忘れたことは覚えているし、それを理解している。だからこそ、辛い病気でもある」

 

亀「いっその事全てを忘れて痴呆状態になってしまえば楽なのかもしれんが……ある瞬間に全てを思い出したり、まともな状態に戻るからの。

 そしてそれを支える家族もまた大変な思いを強いられる。急に偏屈になったり、暴れたりするかと思えば、いつものように戻ったりもしているしの……」

 

主「作中ではアルツハイマーの患者が普通に車を運転していたり、社会活動に従事しているんだよ。それはやはり恐怖でもあって……普通にしている時は普通の人なんだけれど、ある瞬間に全ての記憶がなくなってしまったり、また記憶がなくしたこともわからなくなってしまう。

 もっとも重要な事件として連続殺人と娘の安全という物語があるけれど、ビョンスの娘や犯人への思いと一緒に、記憶の混乱を同時に描くことで観客と同一化するんだよね。

 この描き方は本当にうまい!」

亀「単なるグロテスクなだけの物語とは違うということじゃな」

 

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この2人の息を呑むような演技合戦がまた見もの!

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ビョンスが頼ったもの

 

亀「しかし、ビョンスが頼ったの姉がキリスト教のシスターであるなど、やはりキリスト教の影響も強く感じる作品であったの」

主「やはり韓国ってキリスト教国家なんだろうね。

 そしてビョンスの中にある『罪』の意識を救う手段として生み出したのが、姉やシスターであって……それがあのような結末を迎えたというところに、この映画の驚きと悲劇が込められている」

 

亀「そして、この作品はダークヒーローものでもあるということじゃな。昨年も不正を働く市長を相手に戦う汚職警官を主人公とした『アシュラ』などもあったが、このダークヒーローものというのも韓国映画では重要な要素なのかもしれんの」

 

アシュラ(字幕版)

 

主「正義と悪の対決も面白いけれど、悪と悪の対決だったり、悪と称される人間が普遍的な愛などによって正義側になるという面白さがある作品でもあって……本作もそれは同じで、本来は連続殺人鬼であるビョンスが娘への愛によってその力を発揮する作品となっている。

 しかし、ビョンスは誰もが認めるアルツハイマーの患者であり、しかも一般人よりは力強いとは言ってももはや年もとっている。相手は人を何人も殺している連続殺人鬼であり、この力の差は歴然である。

 それでも、そこをなんとかして悪党でありながらも弱者がその状況を覆そうという物語として王道のものでもあるわけだ

 

亀「ふむ……それを考えると非常にうまくできている物語でもあるの」

主「この作品でアルツハイマーでも伝える手段としてのテープレコーダーという設定も結構好きだね。それが習慣として根付くのも早すぎる感もあるけれど、これは思いを伝えたりするには手紙とはまたちがう味わいがあるよね。

 あんまり言うとネタバレになるけれど……このテーマだから描けたラストなども含めて、自分は結構感心した作品でもあります」

 

 

 

最後に

 

亀「今回は短めではあるが、このあたりで終えることにしようかの」

主「もう1つ2つあればもっと絶賛される作品になっただろうけれど、それは少し酷なのかな?

 昨年は韓国映画が当たり年でもあって、それに比べるとちょっと落ちる感もなくはないかもしれない。例えば、相手の殺人鬼の役ももう少し演出方法があったんじゃないの? という思いがあったり……

 でもこの手の映画のラストにありがちなことにしなかったことは、高く評価したい。途中、ちょっと思ったからね。

 『あ、これもしかしたまたあのパターン?』って」

 

亀「どのパターンかは言えないのがもどかしいところであるがの」

主「今回はちょっと短めのレビューになってしまっているけれど、脚本などもうまくまとまっていて完成度の高い1作だと思います。

 この手のバイオレンス映画が好きな人はぜひ鑑賞してください!」

 

 

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