亀爺(以下亀)
「ナチスドイツものがまた公開されたの」
ブログ主(以下主)
「ヒトラーの『わが闘争』がドイツで解禁になったこともあることも大きく関係していて、注目を集めているのもあるらしいね」
亀「やはり、ドイツ国内ではそれだけ重く、大切なことなのじゃな」
主「日本もそうだけど、国の根幹に関わることだからね。なぜ今のようなシステムになったのか、などの色々な思いがある。結局、あれだけ移民を受け入れるのも、ナチスドイツ時代に単一民族主義に染まって歴史に残る汚点を残したから、その過去の反省だったり、他の国へのアピールも兼ねているわけで……」
亀「戦後70年を過ぎて、多くの国民が戦争というものを知らないというにも関わらず、いまだにそのことに捉われている……というのは、敗戦国の国民に都合の良い物言いかの?」
主「う〜ん……そこいら辺は政治的信条も絡むだろうから、言及を避けたいところだけど……
でも、最初に言っちゃうのもなんだけど、その歪みって戦争映画を撮る、語る上ではむしろ武器になると思うんだよね」
亀「おっと……ではその話はまた後ほどにするかの。
ちなみに本作は同じ人物と出来事をテーマにして、同時期に制作、公開された映画『検事フリッツ・バウアー ナチスを追い詰めた男』と比較して語る部分も多いので、そのことは最初に了承してほしいの」
主「歴史的な事件だからあらすじは同じようなものだけど、フリッツ・バウアーに関してはなるべくネタバレしない方向で書いていくので、未見の方でも大丈夫……なはず」
亀「それでは感想記事スタートじゃ」
1 ナチス映画の歪み
亀「まあ、ネタバレなしと言ってもwikiなどを調べれば大体わかることじゃがな」
主「歴史的な事実は変えられないからねぇ。これでアイヒマンを捕まえません、とかだったら大変なネタバレだけど……」
亀「まあ、それでもある程度はネタバレなしで感想を語っていくかの」
主「この話題は先ほども語ったけれど、以前にも映画化されたネタでもあってさ、それがどうしても比べてしまうところがある」
亀「似たような話題を扱った映画では『顔のないヒトラーたち』という作品もあったが、こちらも名作じゃったの。それから、こちらはまだ見ることができていないのじゃが、この後のこと……つまり、アイヒマン裁判をドイツ国内で放映するために尽力する様子を追った『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』も、中々の良作と聞いておる」
主「個人的にナチスドイツを扱った映画って結構好きなんだけど、その理由って絶対にナチスを良いようには描けないという制約があるからなんだよね。
必ずナチスドイツを否定しなければいけないけれど、ドイツとしてはそれは過去のドイツを否定することにも繋がりかねないわけで……何故ならば、ナチス、ヒトラーというのは『国民が選んだ民主主義によって誕生した独裁者』だからだよ」
亀「その通りじゃの。軍事力を手中に収めて、国民の支持もなく政権を取ったということではない」
主「そしてそれは同時に『多くの国民がナチス党員だった』ということでもある。ナチスの起こした戦争犯罪に積極的に参加していたと言われても、仕方ない面がある。
こういった歪みが戦争映画を撮る際に、いい味になっていたんだよね」
切り口をどうするか?
亀「戦争映画というのは下手すれば、自国が正義であるという正当性を主張するためのプロパガンダのようにも成りかねんからの」
主「その通り。戦争映画で最悪なのはプロパガンダで、それは一般的な物語映画の……いわゆるヒーローとかが解決する映画の、勧善懲悪とはわけが違う。何故ならば、ヒーローとかは現実にいない存在を正義として描くけれど、戦争映画の多くは実際の戦争をモチーフにしているわけだ。
それを勧善懲悪風に描くと、戦争賛美のようにもなるし、その裏であった数々の悲劇を無視することにもなる」
亀「思想的な偏りも生まれるからの」
主「だけど、ナチスドイツを扱った映画は歴史的、世界的な評価が固まっているから、戦争賛美にはならない。だけど、過去の国民を必要以上に悪く書くことも憚れる……日本もそうじゃない? 一般の、一兵士として戦争に行ったお爺ちゃんをただただ悪く言うような映画って中々ないでしょ?
国という大きな流れには逆らうこともできず、そしてそこに加担したこと自体が罪であり……さらに言えば自分のお爺さん世代を悪く描かなくてはいけないという、どうしようもない『歪み』がある」
亀「それが映画としての深みをもたらすわけじゃな」
主「一方で、そうなるとナチスを題材とした映画ってテイストが似てくるわけだ。そこでどのような切り口で語るか、ということが重要になってくるんだけど……」
以下ネタバレあり
2 本作と同じテーマの映画を比べて
亀「ではここで先ほどの『検事フリッツ・バウアー ナチスを追い詰めた男』との対比で語っていくとするかの」
主「まず、この2作が扱っていることはほとんど同じことであり、両者を見比べる面白さはあっても、どっちか片方を見ておけば、この一連の……アイヒマン拘束の流れに関しては理解できると思う。
今作はバウアーを主体として扱っているため、やはり主人公としてのバウアーの魅力や葛藤などがストレートに伝わってくるような気はしたかな?」
亀「一方の『ナチスを追い詰めた男』の方は、もちろんバウアーが主人公であるが、それ以上にバウアーの目的を阻止しようとする反対派の活動などもピックアップされていたの」
主「まとめると
バウアー本人に焦点を当てて、しっかりとその人物像などを描いた『アイヒマンを追え』
バウアーにも焦点を当てながらも、敵対してる反対派にも焦点を当てた『ナチスを追い詰めた男』
ということになるかな?」
亀「現実にいた人間ということもあって、描き方はそう変わらんの。頑固で真面目で……だからこそアイヒマンを拘束することができたとも言えるがの」
アイヒマンの描き方
主「一方で、大きく異なったのはこのアイヒマンの描き方だよね」
亀「本作ではしっかりと敵役として出演しておるアイヒマンじゃが……『ナチスを追い詰めた男』では非常に特徴的な描かれ方をしておったの」
主「アイヒマンを拘束するやり方なんかは結構似ているから、本当にあんな風にやったんだろうね。そりゃ色々な意見も出るわけで……
そして何よりもこの描き方の差によって生まれる作品のテイストの違いが、1番面白かったかな」
亀「この映画ではアイヒマンはしっかりと自分の意見を語り、そして拘束された後も反論をしていたの」
主「だから、この映画はアイヒマンって拘束する流れを描いた作品だと思う。それこそ、歴史に忠実に、バウアーが抱えた思いなども交えながら描写することに成功していた。
一方の『ナチスを追い詰めた男』の方は……あんまりネタバレになるといけないけれど、このアイヒマンの描き方がすごく特徴的で、だからこそ映画としてはいくつもの受け取り方ができるように多重的な構造になっている」
亀「どちらが優れているか、ということは一概には言えんかもしれんの」
主「歴史的事象を、バウアー目線で追うという……ある種の『知識としてのアイヒマン拘束事件の真相』を知りたかったら本作の方が向いているかもしれない。
だけど、映画として観客に受け取り方を多重的に見せるということ、解釈の幅を広く持たせるという意味では『ナチスを追い詰めた男』の方が評価できるかな。
個人的には映画として多重的な解釈ができるように作られた『ナチスを追い詰めた男』の方が好みではあるけれど、どっちの方が上とは言えないかなぁ」
亀「この映画に何を望むかの違いだけかもしれんの」
3 バウアーの抱えた『思い』
亀「やはりバウアーを語る上で欠かせないのは、あの『同性愛問題』じゃの」
主「当時は違法だった同性愛というものに対してどのように向き合ったか? というのは、非常に重要な問題でもあるんだよね。
罪を暴き、追及するはずの検事はその身も潔白でなければならない。現在の価値観では色々と疑問もあるだろうけれど、当時は違法であった『同性愛』を抱える人が……つまり、罪を犯す危険性のある人が、罪を問えるのだろうか? という問題が出てくる」
亀「映画としてはそこが1番面白い部分になるからの」
主「葛藤は必要だからね。そして本作では、その役割を若い検事が担っているわけだ。
ここは面白いところで……多分、あの検事の役割って『バウアーのあったかもしれない可能性』なんだよね」
亀「つまり、バウアーもあのようなラストを迎えていたかもしれないと?」
主「可能性だけで言えば、十分ありえたわけだ。
そういう可能性を乗り越えて、バウアーは立派な功績を残した。色々な意見があると思うけれど、罪を抱えずに……同性愛に走らずにナチスを追い求めたその『正義』は確かに素晴らしいものと言えるのかもね」
最後に
亀「……色々と含みを持った終わり方じゃの」
主「ぶっちゃけて言うと、そこまで気に入った映画ではないよ。どうにもラストシーンが……ナチスの罪を追いかけるという終わり方が『正義を訴追し、ナチスという悪を許さないドイツ』というようにも見えた。
そこまで極端なものではないにしろ、やっぱりプロパガンダのように見えたということもある」
亀「現実の戦争はそこまで正義があるわけではないからの」
主「ISだって非道の連中だけど、彼らもその成り立ちを考えるとある意味では差別されてきた側の怒りが爆発したとも言えるわけで……じゃあ武器を手に取らないで、平和的交渉をしていたら状況は変わりましたか? と問われると、多分変わらない。黙殺されて注目も浴びずにただただ辛い目にあう可能性だってあったわけだ。
だからさ、一方的に正義だ悪だって言えるのは物語ぐらいだと思う。
ましてや現実の戦争を扱うならなおさらじゃない?」
亀「まあ、そこも含めての映画じゃからな」
主「少し退屈ではあっても勉強にもなるし、決して悪い映画ではないけれどね」
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