物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『アトミック・ブロンド』感想 映画の味である色と音の世界、そしてシャーリーズ・セロンに酔いしれろ!

カエルくん(以下カエル)

「今週も注目映画が目白押しでございます」

 

ブログ主(以下主)

「なんだろうねぇ……ここから数週間、話題作が続くよねぇ……」

 

カエル「特に今週は洋画、邦画ともに……言葉は悪いけれど『今年トップクラスの大ヒット‼︎』とはならなそうだけれど、映画好きを中心に話題になりそうな作品が多くて……

 洋画だとこの作品以外でもトムクルーズの『バリー・シール』があって、邦画ではガッキーの『ミックス』に漫画の実写化作品『斎木楠雄』があり、アニメでは『コードギアス』があって……もちろん小規模上映もたくさんあるという、ある意味では激戦区なんだよね

主「興行収入年間トップクラスを狙える作品や、若者向け作品は夏休みや冬休みに集中するから、10月って谷間なんだけれどね……

 これだけたくさん作品が公開されるから映画好きとしては嬉しいけれど、もう少し分散してくれてもいいよ?

 

カエル「全部見ようって人は中々いないからねぇ。ファン層もかぶらないし」

主「その中でも今回はシャーリーズ・セロン主演のアクションスパイ映画からスタート!

 結構期待もしているけれど……さてどうなるか」

カエル「……あれ? セロンって特別好きな女優だっけ?」

主「出演作品はそこまで見たことないけれど、興味がある女優ではあるよ

カエル「……なんか不思議な物言いだけれど、じゃあ作品の感想記事を始めましょう!」

 

 

 

 

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作品紹介・あらすじ

 

 近年日本でも大きな話題となった『マッドマックス 怒りのデスロード』や『モンスター』で高い評価を得ている女優、シャーリーズ・セロンが主演を務めるスパイアクション。監督は『ジョン・ウィック』のプロデューサーや『デットプール2』の監督に決定している、アクション作品に定評のあるデビッド・リーチ。

 他にもジェームズ・マガボイ、ソフィア・プテラなどが脇を務める。

  今作は派手なアクション描写の他に、セックスアンドバイオレンスが過激なシーンもあるためにR15に指定されているが、グロテスクというほどではない。

(感想には個人差があります)

 

 冷戦末期の1989年、ベルリンの壁が崩壊しようとしているまさにその時、西側諸国にスパイの名前が羅列された極秘情報を流そうとしてたイギリスの諜報機関、MI6の捜査官が殺された。

 リストの奪還と裏切り者の2重スパイを見つけるように命じられたMI6の諜報員、ロレーン・ブロード(シャーリーズ・セロン)は東と西のベルリンの2つの国を行き来しながら諜報活動を始めていくが……

 


映画『アトミック・ブロンド』特別予告 "Sweet Dreams"

 

 

 

1 感想

 

カエル「ではいつものようにTwitterの短評からスタートです!」

 

 

「本作を鑑賞する人の多くは、やはりシャーリーズ・セロンの美しさであったりそのアクションを目的としている人が多いでしょう。

 そしてそれは全く間違いではない。むしろ、その部分も大いに満足できるし、何ならばアクション映画では今年トップクラスの出来に仕上がっているので、大いに楽しんでほしい」

カエル「スタートからすごいけれど、特にセロンが戦うあるシーンでは7、8分もの長回しのアクションシーンがあって……ここは色々と工夫をしているようだけれど、編集点が全くわからないの! 多分カメラが高速回転するときを狙っているんだろうけれど……

 そのアクションは特に必見! 

 これはこの先、シリーズ化も大いにありうる素晴らしい要素だよ!

 

主「だけれど、自分が1番注目してほしいのは『映画ならではの演出』なんだよね。

 本作は音楽も注目を集めていて、80年代の洋楽をたくさん使用されている。予告編ではQUEENの『キラークイーン』が使われているけれど、作中でもQUEENの楽曲がいいところで使用されている。

 自分は洋楽はまっっっっっったく分からないからどうのこうのとは言えないけれど、音と絵の融合という意味では完璧でしょう」

カエル「それこそ、最近では大きな話題を集めた『ベイビー・ドライバー』を連想する人も多いのではないかな? こちらも中規模公開映画ながら、アメリカでは爆発的な大ヒットをしているし、日本でもとても評価の高い1作です!」

 

主「そして色の使い方だね

 本作は青を基調とした画面で構成されていて、それが寒々しい印象を与えている。

 印象が残るのが、青、赤、黄、白、緑の画面で、そのコントラストがとても美しいと同時に、映像表現としても重要な意味を持っている。その映像と音楽の融合を楽しんでほしい」

 

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赤が強かったり、青が強かったりと様々な意味がありそうな画面

(C)2017 COLDEST CITY, LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

 

一方でちょっと気になった点も……

 

カエル「脚本もアクション映画として考えても、練られているよね。スパイアクションらしく、そしてあらすじでもあるように誰が味方で誰が敵なのか、予想ができない展開になっていて……」

主「……う〜ん、これはさ、自分だけかもしれないけれど……結構わかりづらい内容でもあるんだよねぇ

カエル「まあ、誰が敵で誰が味方かってことは前提条件が覆るものだからね。最初から『僕が敵ですよ!』って感じで出てくる作品ではないし」

 

主「まず、諜報機関がかなりごちゃごちゃしている印象がある。

 007シリーズなどでもおなじみのイギリスの諜報機関のMI6、その敵に当たるソ連のKGBが基本ライン。そこにフランスの諜報機関に加えて、アメリカのCIAの人も登場する。全員白人ということもあって、もちろん見た目では区別ができない。

 だからあの人ってどこの機関に属するんだっけ? みたいな話になってきちゃうところはあるよ。特に『誰かが裏切っている!』という物語だしね。

 もちろん、情報提供者や闇の情報屋などもいて……もうゴチャゴチャです」

カエル「この手の映画らしくミステリー要素もあるけれど、中盤はわけがわからなくったよねぇ……」

 

主「はっきり言います。

 自分は今作の流れがそこまでわかっていません!

 いや、大まかにはわかるよ? あの人があれで、ああでああなるってことはわかる。でもその間にあった描写の意味とか、この人が実は……とかってどうなったんだろう? というのがわかっていない。

 なのでこの記事では間違いもあるかもしれません。特に今作、自分はある演出に注目していたので、余計にこんがらがったかも……すごく意地悪な映画でもあると考えている」

カエル「でもそれはスパイ映画としては褒め言葉だよね」

主「まあね。わかりやすいところもあり、わかりづらいところもあり……もしかしたら映画好きの方が困惑するかもね。

 詳しくは後々語ります」

 

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ド派手なアクションに酔いしれろ!

(C)2017 COLDEST CITY, LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

 

シャーリーズ・セロンについて

 

カエル「そういえば不思議な語り方をしていたよねぇ。

 あんまり見たことないけれど、興味がある女優って……」

主「それこそセロンについて印象に残っているのは『マッドマックス4』くらいかなぁ。自分は外国人の区別がほとんどつかないからさ、特にきれいなお姉ちゃんやかっこいいお兄ちゃんは結構同じように見えてしまうところがある。おっさんになってくれると個性が出てわかるんだけれどね。

 でもセロンは……その存在自体が重要な女優でもある

 

blog.monogatarukame.net

 

 

カエル「でもそうなると最初にセロンを知ったのはなんだったの?」

主「『絶望に効くクスリ』って漫画だね。

 この作品は色々な分野で活躍する人にインタビューして、現代の生き方を見直そうという漫画なんだけれど……そんじょそこらのインタビュー記事とは全く違う。自分が信じている常識や人間像なんて、いかにちっぽけなものなのか教えられた。

 この最終巻でセロンが登場しているけれど……その壮絶な過去について語っているんだよね」

 

絶望に効くクスリ ONE ON ONE 15 (ヤングサンデーコミックススペシャル)

 

カエル「……ちょっと信じられないような、でも有名な話だけれど……セロンって15歳の一番多感な時期に酒浸りで自暴自棄になった実の父親に襲われた時に、母親が目の前で父親を射殺しているんだよ。

 そのあとも順風満帆とは言えない生活を送りながらも、女優としてランクアップを果たしいく人で……」

 

主「漫画以上に劇的な人生を送っている。

 だからさ、セロンってその美貌の中に鬼気迫るものがあるんだよ。それは『マッドマックス4』を見ればすぐにわかる。丸坊主にボロボロの素肌にスッピンという、あそこまで役作りができる人はそうそういない。

 その存在自体が『強い女像』を示している。だからマッドマックスでもあのような役柄になっている。

 この映画ではQUEENのある曲が流れるけれど、その曲が1番ピッタリと似合う女優こそがセロンだろう

カエル「多分、この映画はセロンでないと全く違う味になっているんよね……」

主「本作がアメリカでどれだけ評価されているかは知らないけれど、賞レースでも高く評価されるんじゃないかなぁ?」

 

以下作中への言及あり

 

 

 

2 演出の妙

 

カエル「ではここからは作中に言及していくけれど、まず先に言っておきますが核心へのネタバレはありません。でも、なんとなくニュアンスでわかってしまうこともあると思うので、そこはご勘弁を」

主「まず、先にいったように本作は青を基調とした色使いとなっている。これが画面が引き締まっていて、中々いいんだよ。

 一方でこの色彩のマジックを最大限に発揮しているシーンがたくさんあって、その1つが冒頭である。青い部屋の中で写真を燃やすシーンがあるけれど、ここだけ赤い色が青い部屋全体に広がっている。

 このシーンがまた美しいんだ。1枚の絵画としての美を宿していて、カメラでその瞬間を撮った意図は確かにわかる。これはもう言葉にならないので、是非とも劇場で鑑賞してください

 

カエル「本作品って青とか白とか、寒々しい色が多いよねぇ。それは冷戦時代、冬の時代ということもあるのかな?」

主「上手いのがさ……完全に騙されたんだけれど、色を使い分けることに色々な複合的な意味をもたらしているんだよ。

 この作品はKGBの内通者を探す物語でもあるんだけれど、じゃあそれは誰なんだ? ということを考えていくうちに、あることに気がつく。

 そう、ある人物だけ『赤』い色を纏っているんだよ」

カエル「……赤、いわゆる『共産主義者』を表す色だよね」

 

主「そう。それを見た時に『あ、こいつがそうなんだ』って納得した。そのあとのミスリードのような物語の展開があっても、多分これは違うだろうなって考えていた。

 じゃあ結果はどうだったのか? というのは是非とも映画を見ていただいて……でもね、この映画はそういう演出的ミスリードに満ちているんだよ。なので演出についてじっと見て、そして後から思い返すと『あれは……もしかして?』となるシーンが多い。多分、額縁通りの物語ではないとすら思う。ラストがああいうものだったけれど、それを安易に信じていいものなのか……1度だけでなく、2度3度見て楽しめる映画だろうな。

 もちろん、すべてを知ってから登場人物のその時の心情を想像しても面白い。

 それからアクションシーンも意図でも低いアングルから影絵のように戦うシーンもあって、色々な演出が見られるから、単なるアクション映画とは違う作品に仕上がっている

 

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今回の敵役のパーシヴァル(ジェームズ・マカボイ)

彼の思惑は?

(C)2017 COLDEST CITY, LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

 

 

セロンの演技

 

カエル「そして何よりもセロンの演技だよ!

 もう今作のセロンは何よりもかっこいい存在で……屈強な男達に細腕で戦うなんて無茶苦茶な面もあるけれど、今回は裸などを披露してかなりエロスに満ちている!」

主「今作で特徴的なアイテムというとタバコだよね。近年、アメリカの現状としてタバコはあまり映画などの物語内で描写しないようになっている。青少年の育成のために、ということだね。

 本作はそのタバコがこれでもかと登場しているけれど、セロンがそれを吸う意味を考えると、やはり『男性的』であることの象徴だと思うんだよ」

 

カエル「1年前の映画だけれど『キャロル(CAROL)』という女性の同性愛を描いた作品の中でケイト・ブランシェットがタバコをエレガントに吸っているんだよね。対するルーニー・マーラーもタバコを吸うけれど、ちょこちょこして小娘感が出ていて、それもそれで可愛らしかったなぁ」

 

キャロル(字幕版)

キャロル(字幕版)

 

 

主「本作のタバコの吸い方は優雅に、そして男性的に吸っている。むしろ女性ではなくて、男性が主人公だったら何の違和感もない、王道のスパイアクションになっていたかもしれない。

 だけれどそれをセロンが演じることによって、女性でありながらも美しさとかっこよさを兼ね備えたキャラクターになっていた。これが20代の女優だったら小娘になっていただろう。40代とは思えない美貌と、そして大人の魅力がムンムンに溢れるセロンだからこその演技だ」

 

カエル「今作のヒロイン役のソフィア・プテラもよかったよねぇ。こちらも体当たり演技で、ここまでやるか!? ってシーンもあったし。

 それから、さっきの色の演出にもつながるけれど、2人が出会ったシーンで赤→青→赤と言うのも冷静だったのに、のめり込んでしまうという気持ちがよく出ていて……」

主「あのベットシーンで注目してほしいのは色の洪水で、赤と青が混じり合っている。2人の愛の巣であるアパートの内装は赤と青が強調されていた。これは任務と情熱の2つの面でせめぎ合っているという受け取りかたもできる。

 そしてその後ろにあったステンドグラスにも注目。当然、ステンドグラスはたくさんの色が使われているわけで、それが決して混じり合わないというところでこの作品の想像する余地がたくさん生まれているよね」

 

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赤と青のコントラスト……一体これは何を意味するのか?

(C)2017 COLDEST CITY, LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

 

冷戦を扱った理由

 

カエル「でもさ、なんで本作って冷戦時代を扱ったんだろうね?」

主「まず1つあるのは場所の制約が容易なことはあるだろう。これが2つの国をまたにかけて……という話だと移動距離などが大変なことになってしまう。だけれどベルリンの東と西という狭いけれど全く違う世界で、諜報戦を描くというのはドラマを作る上でも、撮影としても都合が良かったのはあるはず。

 でもそれ以上に意味があるとすれば……やはり『壁』かなぁ」

カエル「破壊されるベルリンの壁?」

 

主「社会主義と資本主義を隔てていた壁が破壊されることによって、東西ドイツは併合されて冷戦は終わりに向かって急加速していく。冷戦時代というのは2つの価値観……つまり資本主義と社会主義の価値観の戦いでもあった。

 それが壊されるということに、自分は『男と女の崩壊』という意図を汲み取った

カエル「ああ、だからあれだけ『タバコが男らしく……』とか語ったわけだね」

 

主「本作は同性愛のネタも出てくるけれど、これはセロンが自分の人生を賭けて訴えかけていたことでもある。同性愛を認めるまで私は結婚しない、と誓っていたわけだからね。

 スパイ映画って、どうしても男性主体みたいなところもあると思うんだよ。もちろん作品によると思うけれど、男性の映画が多い。だけれど、その壁をセロンは打ち壊していく。女でも立派にアクションはできるし、ラブシーンも演じられるし、ボロボロの体を晒すことができる。

 それはやっぱりセロンだからこその映画でもある。

 既存の価値観、人間を支配するある種の偏見、そういったことに抗うことを示してきた女優だからこそこの映画は輝く

 その壁を破壊した後にあるもの……それこそが平和であり、新世界である

 

カエル「そう考えると赤は女性で青は男性の色ということもできるよね。だから全てが終わった後、セロンは赤い服をまとっていた。つまり青の男性の世界から、赤の女性の世界へと戻っていったということもできるのかなぁ?」

主「本当に色々な読み取り方がある映画でしょう。もちろん、反感もあるかもしれないけれど、でも考察の余地が大いにあるので、ぜひみんなも色々考えてください。

 自分がこの映画への違和感も演出意図が複数ある気がしているからであり、そのメッセージが完全に読み取れていないから。

 もちろんお話自体も面白いけれど、『映画ならではの味』である色と音の演出を楽しんでね」

 

 

 

 

3 考察

 

カエル「えー、続きまして追記ですが……『誰も語っていない答えを見つけた。みんな騙されている』という言葉まで飛び出しましたが……」

 

主「……ここまで大げさなことを言う必要はないじゃないか……過去の自分を殴ってしまいたい」

カエル「まあまあ……で、ここで語るのは『何がわからなかったのか?』 ということの理由と、そしてその真相だよね」

 

主「これは妄想じみた解釈なので、いやいや、公式が答えを出しているかさ……』という方はご勘弁ください。

 捻くれ者の裏目読みだし、しかも多くの憶測から始まる推測でしかないけれど……でも自分はこれが真実だと思っています

カエル「で、それはどういうことなの?」

 

主「本作って先に挙げたようにだいぶ意地悪なことをやっているんだよね。例えば色に関しては『赤』を強調している。これは共産主義の色であることは常識である。そして青は対立する資本主義である。

 ということは……色から考えると、ローレンとパーシヴァルが資本主義側であり、ラサールが共産主義者である。

 一方で酒に注目をするとローレンが飲むのはウォッカだ。もちろん、ロシアの酒。一方のパーシヴァルはジャック・ダニエルはアメリカの酒である。

 それを考えるとパーシヴァルはアメリカ側の人間(資本主義)であり、ローレンはKGB(共産主義)ということになる

カエル「ここまでは他のブログ等でも語られていることだよね。

 そして本作のラストで語られた真実はああいう形のもので……」

 

主「ここからが問題。今作は構成が結構凝っていて……ローレンの回想と語りという形式で話は進む。

 ここで注意してほしいのは、本作で何度も語られているセリフである『誰も信用するな』ということだ。

 このセリフは……実は観客にも投げかけられているのではないか? ということなんだよ

 

 

 

本作の真相

 

カエル「これはなかなか穿った深読みだよねぇ」

主「でもさ、本作の手法って『信用できない語り部』の物語なんだよね。それが本当のことであるという確固たる証拠はない。観客は……そしてMI6の上層部は話を聞いているだけなんだから。それはこの映画を見ればわかるでしょ? 

 やっていることは……名前を出したいけれどそれだけでネタバレになるから伏せるけれど、ゾゼ皇帝さんが出てくる名作サスペンス映画と同じなわけ。

 そうなると、実はかなりの部分で真実とは違う脚色がある可能性がある。そしてそれは……あのラストに関してもそうだ。

 なぜあの人があの陣営の人だと思う?

 それは保証されているのだろうか?」

 

カエル「……いや、そういうことを言い出したらキリがないわけで……」

主「だから自分は混乱したんだけれど、本作はかなり複雑に入り組ませて演出や物語を紡いでいる。そのどれもが信用できないし、あるいは疑いたくなる条件が揃っている。

 ある種のわかりやすい物語を最後に提示しておきながら、実はそれが本当なのかよくよく考えてみると疑ってしまう……だから『何も信用するな』というセリフにつながるんだよ。

 じゃあ、なぜそんな回りくどい演出にしたのか?

 それは本作が『スパイ』アクションだからだ」

カエル「情報戦を勝ち抜くということとは? ということなのかな?」

 

主「なぜあの人は重要参考人を撃ったのか?

 果たしてあの人は車の中で助けることができなかったのか、それとも見捨てたのか、あえて助けなかったのか? どの陣営かによって答えは変わり、物語は複雑に入り組んでいくだよ。

 考えれば考えるほどにドツボにはまっていく。

 じゃあ、お前が思う答えはなんだ? と言われたら、それは『わからない』ということになる。

 それが本作が示した『答え』なんだ」

 

カエル「……? どういうこと?」

主「つまり観客すらも情報戦にかかっているんだよ。わかりやすいラストを描いて、あたかもああいう風に終わって……という風に見せかけている。でも結構な疑問なポイントもあるように作られていて、そこを整理すると色々な考察ができる。

 それこそがスパイが行う『情報戦』なんだよ。

 何が答えかは観客が考えろよ、そしてそれが情報戦なんだよ、スパイなんだよ、ということを提示している。

 だからこの映画って明確な答えを与えない『スパイの映画』として成立させている。

 最後の最後まで……劇中の人物だけじゃない、観客すらもあの人の手のひらの中で踊っているだけなんだよ」

 

 

 

 

最後に

 

カエル「最近は女性が活躍するアクション映画も多いけれど、この作品はその中でもエポックメイキングな作品になるんじゃないかな?」

主「女性だとどうしても力強さに欠けるとかということはあるだろう。だけれど、それもまた1つの味としてどうカバーするかというのも、演出の味が出て面白いだろうな」

カエル「これ、この後続くのかな? こちらも人気シリーズになっていくような気がしていて……セロンのままでいくのか? ということも含めて楽しみにしていたいね」

主「外国人であれば、もしくは外国の事情に詳しい人であればもっと色々な演出の味や脚本のうまさを味わうことができるかもしれない。1度だけでなく、2度、3度と通いたくなるアクション映画でもあって、もちろん男性も女性も楽しめるはず。

 劇場では男性が目立ったけれど、女性も是非鑑賞してほしいな。セロン、本当にかっこいい女性なんで」

 

カエル「あれだけ細いのどこにあんな力があるんだろうって演技をしていて、それでいてちゃんと痛々しくもある。あの氷風呂も本当に入ってそうだし……いや、想像するだけでも寒くなってくる……」

主「役者魂の塊だわぁ……日本だとこういう人、女性ではほとんどいないからなぁ……」

カエル「……いや、世界でも早々いないと思うよ」

主「本当、唯一無二の女優だよなぁ……」

 

 

Ost: Atomic Blonde

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