物語る亀

ネタバレありの物語批評

ましろのおと 15巻の感想 魂のぶつかり合い

 ましろのおとの15巻を読み終えたので感想を書いていく

 こちらもパンプキン・シザーズと並ぶ月マガで楽しみにしている作品の一つ。そのうち映像化されるかなぁ、と思っていたが、三味線描写が難しいのか今のところその気配はない。

(どちらかというとアニメよりは映画向きな気がする。高校生編で止めとけば、カッコイイ男の子と可愛い女の子だしておけば、音は録音でもいいし三味線を少しでも弾ければいいと思うんだけどな……)

 

 以下ネタバレあり。

 

 

 

演奏CD付き ましろのおと(15)特装版 (プレミアムKC 第三事業局(ライツ・事業))

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  さて感想を。

 この巻の最大の見せ場は何と言っても王者、神木清流と雪の戦いだろう。

 

 神木清流の最大の武器はその音に対する貪欲さ、勝利に向かう執念である。その思いの一つ一つが音として、彼の人生を語っていく。

 

 今回いいなぁと思ったのは

『この世界は 己のポジションがわかるわけでもなく 見えない上をひたすら望む

 だから 勝敗がつくなんて ゾクゾクするじゃないか』

から始まる一連の独白だった。

   

 神木清流の音はその人生と比較したら非常に美しいものと言われている。何も与えられなくて、飢えていた子供がドロドロとした感情を吐き出して、消化し、美しく飾り立てて「三味線があってよかった」と言えるほどの心境の変化。この神木清流の強さと変性の描き方というものは、とても興味深いものだった。

 何も持たないということは非常に強い。守るものがないということはいくらでも攻められる。神木清流の強さとはその無から、闇から生まれる絶対零度の美しさだった。

 

 そして雪もまた、『じっちゃんの音』という過去に縛られている人間だった。

 雪は何も持たないわけではないが、その身に宿るのはじっちゃんの音だけで、それ以外は兄くらいしか頼るものがいなかった。

 だから、雪と清流は非常に似た存在だった。

 

 三味線に限らず、落語や演劇といった演芸は不思議なものだ。演目がオリジナルな訳ではない。本来は、決められた楽譜や演目があり、決められた楽器で弾くのだから、上手い下手はあれどもオリジナリティや個性はあまりないはずだ。

 だが、間違いなくそこには個性が存在する。

 その音には、その声には自分がいる。

 

 田沼総一の場合は、二人とは少し趣が違う。

 彼の二人のように無から創られた音ではなく、その熱さ、マイペースさが由来する音だった。妹という三味線仲間もいるし、父親は一流演奏者である。

 だが、彼もまた、その持ち前のマイペースにより友人もなく、孤独な存在だが、それを孤独と思っていないという点においては二人と違う。

 

 このようにこの作品における『実力者』というのは、どこか孤独で一人で三味線に向き合わねばならないような人たちばかりだ。それは決して偶然ということではなく、三味線における音造りというものは、少なくとも作者にとっては孤独な作業であり、難しい作業であるという思いが反映されているのであろう。一番の名人と呼ばれる松五郎もまた、どこにも出て行かず、名声を望まず、盲目ゆえに三味線を手にせねばならない存在だった。

 また竹の華の大河なども、その過去において引きこもりという孤独を抱えている。

 田沼舞や梶がイマイチ作中で伸び悩んでいるのは、確かに二人とも三味線に対して真剣だし、「それしかない」という心持ちで挑んではいるのだが、彼らが相対しているのは他の三味線奏者であり、『自分の音』ではない。そこが伸び悩む原因なのかもしれない。(まだ高校生だから……と言いたいが、雪も総一も高校生という事実が余計に彼らを苦しませる)

 

 

 では 神木清流と雪が元々同じならば、そして田沼総一も含めて、雪が勝ったその差はどこから生まれたのだろうか?

 それは清流が圧倒的な無や、寒といったものの凍てつくような美しさだったことに対して、雪は無から様々な出会いを果たし、温かみを知り、有を知った。

 それは確かに母の言う通り、余計な雑音かもしれない。

 だがそれこそ、神木清流と澤村雪の差となった。

 

 過去の回想が次々と訪れた時、私は「ああ、ここまで考えられていたんだな」と納得した。学校を退学し、プロの世界に入った時は正直「迷走の始まりか?」とも思ったが、雪がその力を伸ばすためには学校などという場ではなく、プロという社会に出るしかなかったのだろう。

 8巻において、高校生のコンクール、松五郎杯後に雪の「俺の音は存在しないってことが!?」や、審査員の「多くの聴衆に磨かれた時ーーどうなるか!?」という伏線の一つの回答が、この巻だった。

 これは竹の華編が、この巻において一つ方がついたとみて間違いではないだろう。

 

 最大のライバルが兄になり、また新しい展開を見せようとしているましろの音は、これからの予測が全くできない。どうなっていくのか、注目していきたい。

(個人的には回想シーンで結が「男なんて可愛い女に騙されとけ」というシーンがあって良かった。ここは可愛くて好きなシーンの一つなんで)

 

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