物語る亀

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物語愛好者の雑文

短編小説 化石

 高校の体育教師がいっていた言葉を思い出す。 
 その独身の女性教師は保健の授業中に、笑顔を浮かべていった。 
「誰だって骨になれば同じだよ」 
 容姿や体格を論じる無意味さを語りたかったのだろうが、その教師が体育教師らしく体格がよかった上に短髪の天然パーマだったこともあり、頷く生徒は少なかった。 
 だけど、今思うとそれは正解かもしれない。 

 いつも博物館に来るたびに足を運ぶ場所がある。フーコーの振り子時計が出迎えた先に、日本中の石や地層の展示、年代ごとの生活の様相、微生物の世界、宇宙の様子などを展示されている。
 だけど、やはり一番の見せ場は巨大な恐竜コーナーだろう。他の場所は落ち着いた大人や大学生が展示物を見て周るが、恐竜コーナーは子供の姿が多い。 

 隣で呆然とティラノサウルスを見上げる息子に呟いた。 
「恐竜の色ってどうやって調べか知ってる?」 
 えー、と考え込みながら、わかんないと笑顔を浮かべる。 
「全部デタラメだ」 
「デタラメ?」 
「そう。結局骨しかわからないから、色なんて知りようがない。だからトカゲのような茶色や緑にしてるけど、実際はわからない」 
「シマウマみたいだったり、牛みたいだったりするの?」 
「勿論。それどころかカラフルだったりするかもね」 
すごーい、とはしゃぎ出す。 
「さらにいうとな、お父さんも子供のころ最強の恐竜はティラノサウルスって聞いてたけど、違うみたいだ」 
「違うの?」 
「ハイエナのように食べ残しの死肉を食べていた可能性もあるようだ。戦ったらトリケラトプスのほうが強かったとかね」  
  詳しいね、と隣で子供の手をひく妻が話しかける。男の子だからね、と返すと、息子を見やり、納得したように頷いた。 
 そのまま他の展示物も見て周る。 
 人類の進化、過去の生物…… 

 きっと僕らが死んだあと、次の知的生命体が誕生したときに、人類を発掘した時どう結論づけるのだろう。 
 僕たちが地球を破壊するほどの爆弾をつくり、何千年も殺しあったことがわかるのだろうか。 
 肌の色、髪の色、ほんの少しの顔のパーツ。そんな小さなことで、時には差別されたことに気がつくだろうか。 
 そしてボクが発掘された時、彼女を愛し、この子を愛したことを誰がわかるのだろう。 

 ボクは祈る。 
 神すら死に絶えたかもしれない世界に向けて、祈る。