物語る亀

ネタバレありの物語批評

昭和元禄落語心中一話感想 意外とアニメと落語の相性は悪くない

 今期も続々と新作が始まっていますが、その中でも個人的な期待株の一つを今回は取り上げます。

 

 もともと落語心中の原作は数年前に漫画大賞にノミネートされたことで話題になり、その時に買った覚えがあった。その当時は確かまだ二巻か三巻までしか作品が刊行されておらず、話の内容も与太郎が師匠から勘当されかけて過去のお話になるところで終わっていた。この当時はなかなか面白いと膝を打ち、この先もどのような展開を繰り広げるか楽しみにしていた。

 それからも作品を買ってはいたのだが、いかんせん刊行速度が遅く、前巻の内容も徐々に忘れていくようになり、熱も冷めてしまって過去編が終わると共にすっかりご無沙汰になってしまった。

 その作品がこの冬からアニメ化されるという。こりゃ面白いとばかりに注目する作品になった。

 

 何せ、このご時世に落語である。二、三十年前ならばまだテレビでやることもあっただろうし、落語家が落語をするためにテレビに出ていたこともあっただろう。だが、現代においては笑点ぐらいでしかテレビで落語を見る機会はなく、笑福亭鶴瓶や立川志の輔といった落語家は見ることがあるが、その姿はテレビタレントやお笑い芸人と何ら変わりはない。寄席も漫才ブームがさらに拍車がかかり、モノマネのような色物(かつては落語は黒字、落語以外の息抜きの芸は色付きの文字で演目一覧に書かれていた)扱いされていたような芸が注目を浴びることすらある。

 私自身は立川談志が好きであの歯に絹きせぬ毒舌を楽しんでいたが、では落語を見に行くかと問われるとCDは聞くが寄席や独演会に行くことはあまりない。おそらく二十代以下で生で落語を見たことがある人というのは、相当少なくなってしまうのではないだろうか。

 

 そもそも落語という出し物が現代社会に受け入れられやすいものかと言われると、決してそんなことはない。視覚的な娯楽が増える一方で、映画やドラマも爆発や銃撃戦といった、分かりやすくて派手な作品が好まれる傾向にある。その中でたった一人の演者が、身振り手振りとその口で物語を表現する落語という媒体は地味だし、何よりもその面白さを解釈するのに要求される想像力が現代社会で培うことがあまりなくなってしまった。

 ましてやアニメである。近年はその映像の美しさ、派手さ、動きの早さが売りの作品も非常に多い中で、若くもなく萌えポイントがあるとも思えないおじさんが一人で演じる作品というのが、果たしてアニメ映えするのかという疑問があった。

 そんな中視聴してみると……

   

 これは中々……

 

 

 作品自体は上手いとは言えない原作と同じような絵作りもそのままに、変に美しいシーンも派手なシーンもなく淡々と進んでいく。決して絵の作り方なども特別素晴らしいとは思えないのだが、一番肝心な落語のシーンが圧巻の一言!

 初めの十分ほどで落語シーンをカットした時は逃げたのか? と思いすこしがっかりしたのは事実だが、(私はこの一話が一時間スペシャルということを知らなかった)主人公の与太郎の落語が始まるとこれは中々……と画面に目を向けた。

 

 決して上手いとは言えないが、軽佻な語りを関智一が表現しているのだが、これが見事! 絵もすこしバタついていて、それがまだまだ上手くできないがそれなりの資質があることを感じさせてくれるいい落語だったと思う。

 おそらく関智一であればもっと上手く演じることもできるのだろうが、初舞台という緊張感を演じるために、わざとバタついた演技をしたのだろうと感じることもできた。

 何よりも圧巻だったのが、名人八雲役を演じる石田彰の演技! 

 もともといい感じに枯れている人情話や艶話に向いていそうな声質だったが、それがまたいい具合にこちらの想像力も駆り立ててくれる。古典落語をどのように解釈するかなどの、本格的な落語になっているかまではわかりかねるが、演じるという点では本当に素晴らしいものがあると思う。

 

 よく考えてみれば声優という仕事はもともと声だけで物事を表現するプロフェッショナルなわけで、その仕事内容にはラジオドラマだったり、ドラマCDという表現が限定された上でやらなければならないことがよくある。それを考えると実は声色で多くを表現する落語という舞台は、声優にとっては非常に向いているのかもしれない。

 今作は派手さこそないものの、声優の演技力というものがはっきりとわかるような内容となった。もっとたくさんの落語も聞いてみたいし、来週以降は名人山寺宏一の落語も聞けると思うと非常に楽しみな作品だ。

 さらにいえば、他の声優陣による落語ももっともっと聞いてみたいものだが、さすがにそれは欲が深いだろうか。

 

 最近は競技かるただったり、おそ松さんなどがアニメ、漫画の影響で流行していることが多いが、この作品は近い将来、落語ブームが到来する可能性を大きく秘めているように思う。

 

 

 

昭和元禄落語心中(1) (ITANコミックス)

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